世代間扶養2(恩愛の情)

生活能力を付けさせるための養育・訓練があらゆる動物の子育てパターンであるとすれば、これが終わったら、すべての動物は親の保護から離れる・・不要になるのが原則です。
にも拘らず、最近では養育期間終了・・大卒後まであるいはドクターになってからでも就職難のためにかなりの若者がいつまでも親の家に居候したまま・・せいぜいアルバイト位しかしていない子供(と言うのかな?)が多く・・すなわち多くの次世代が親の世話になっている状態です。
ライオン・熊・トラなど動物界で言えば、狩りの技術を教えたが獲物が捕れない・・または少ないので親の群れにいつまでも居候している状態が今の若者で、人類あるいは動植物すべての分野で歴史上未経験の事態です。
(ある程度の収入があって結婚しても子育て能力が低いので社会的支援プログラム・保育施設・・彼らの納める税金以上の受益・・が必要となっています)
現在6〜70代以上の世代の多くの人は親の最後近くまで家庭で親の面倒を見、最後に施設の世話になってもその費用負担その他面倒を見るのが普通でした。
次世代はそもそも自分一人の一生さえ回って行かない可能性の人が多く、(働き盛りの30代になっても親の家に居候している人が多いのが現状で)親に心配をかけている人の方が多く、親の老後を見るどころではありません。
彼らが年金を掛けて(払って)今の親世代の生活費の面倒を見ることになるのはイヤだなどという論法・・「掛けるのは損だ」とマスコミが言うならば、社会組織・・年金や保険をやめて「自分で自分の親世代の面倒を見られるのか ?」という問いを発するべきでしょう。
子供は親に無償で育てられて大学まで行って大人になっているのであって、「親のために1円のお金でも出すのは損だ」などというマスコミの宣伝する論理・よって立つ道徳観はどこから出て来るのか疑問です。
若者がそう言っているのではなくマスコミが頻りに宣伝しているだけですが、マスコミはどのような定見があって、どのような社会組織にしたら良いという立場で、宣伝しているのかを知りたいものです。
訳が分らないままで「払うと損だ」という意識を植え付けると保険制度は崩壊してしまいます。
保険制度というのは互助意識で成り立っているものですから、相互不信感をあおり、助長すると相互扶助制度は崩壊してしまうしかありません。
個々人に委ねると資産を残せなかった老人やしっかりした子供のいない老人は野たれ死にするしかない社会に戻すのでしょうか?
あるいは互助組織・保険制度を崩壊させて、すべて税で面倒を見る生活保護組織に切り替えるべきだという主張でしょうか?
税で老人の面倒を見る制度としても,その前提として子世代は育てられた親に対する恩を返すという基礎道徳を否定する宣伝をしていると、次世代は税負担をも「損だ」と嫌がることになります。
世代間扶養を損得で喧伝するマスコミは(金を持っている老人からはオレオレ詐欺や、悪徳商法でお金を巻き上げてお金のない老人は)「どこかへ捨ててしまえば良い」という社会を予定しているのか、どのような道徳律を予定しているのか分りませんが、その覚悟を問いたいものです。
ちなみに世代間扶養・・親の老後を見る・・死者を供養するのは動植物界にはなく人間だけのルールですが、これは儒教の専売ではなくキリスト世界でもどこでも親の老後を見る・死者を供養する道徳観がある点は同じです。
これは損得に基づく恩返しによるのではなく、長い間慈しみ育ててくれたことに対する親愛の情を基本にすべきでしょう。
(ペットと一緒にスルなと言われそうですが)ペットが亡くなると悲しいものですし懸命に介護しますが、恩返しと言うと損得勘定のような印象ですが損得で介護したり悲しいのではありません。
恩には愛情の混じった意味が含まれている恩愛の情ではないでしょうか?

労働収入の減少2(世代間扶養1)

マスコミによれば次世代は「年金を払った以上に受け取れないから損だ」と頻りに宣伝して年金掛け金の支払意欲をなくす方向・・あるいは世代間対立を煽る方向へ誘導しています。
老親の面倒を見たら自分の受けた恩よりも多い・損だという論法は本当に正しいのでしょうか?
そもそも昔から子世代は生み育ててもらった恩返しに親世代を扶養するのが務めでしたが、(カビ臭い道徳と言われるかも知れませんが・・)それが個々人で出来なくなった(子世代の能力不足・あるいは合理化)から年金や介護保険で見るようになった歴史を前提にすれば、マスコミの立論はこれを忘れた論法です。
今の若者が世代間の財の移転で損をしているどころではありません。
庶民の子育ての歴史を概観すれば、犬猫や鹿のように乳幼児期を過ぎれば面倒見なかったころから、読み書きそろばん程度までは面倒をみた江戸時代、義務教育まで面倒を見た明治から大正期ころまで、昭和に入るとある程度以上では旧制中学や高等女学校まで面倒見るようになり、戦後は中の下クラスでは義務教育の中卒で働きに出るのが普通の時代(昭和30年代前半まで)から昭和30年代後半以降高卒が普通となり、昭和50年代以降は短大・平成以降大卒が普通になっています。
(従来からの大卒階層では大学院まで・・)
大卒どころか大学院まで面倒見たのに(これからは弁護士資格を得ても自立出来ない若者が増えるでしょう)一人前にならずに居候してる若者さえ少なくありません。
漸く結婚して子供産んでも子育て能力が不足しているので、子育て支援センターあるいは保育所その他多額の社会的負担で何とかなっている状態です。
彼ら若者の納税負担は僅かなので、これら膨大なコストを賄うどころではないでしょう・・まだ社会全体から受益を受け続けている状態です。
日常生活で考えても親世代に子供の送り迎えを頼むなど夫婦現役で働いている人は何かと親世代の世話になって漸く育てている状態の人が多いのが現状です。
このように庶民にとっては従来に比べて子育て期間が長くなっただけでも、その分今の若者は過去の子供世代よりも多くの恩を受けているので、以前の子世代よりも多く恩返しするべき関係です。
70歳前後以上の世代では、(年金制度は昭和30年代初めころに始まったものですから、)マトモに年金を積み立てていなかった親世代の面倒をきちんと見た(私の場合長兄夫婦が面倒を見てくれました・・ここでは一般論を書いています)外に、せっかく子供世代に大金を投じても次世代非正規雇用等(オーバードクターもその一種です)で身分が安定しないために彼らに代わって親世代が年金を払っておいてやったり、家を残してやったり、あるいは生前贈与で家を買ってやったりと至れり尽くせりやって来た世代です。
70代前後世代は兄弟も多く、しかも親世代の殆どが戦争で家屋敷が丸焼けになったので何も・・財産らしい財産が残っていない世代でした。
高度成長期に地方から都会への移住が進んだ結果、せっかく空襲に遭わずに残っていた地方の家は利用不能で、都会に移転した我々世代は自前で自宅購入を余儀なくされた人が殆どです。
次世代は、親の多くが既に都会に住み自宅を取得している人が多いことと、少子化の結果、一人一人が親の家を一戸ずつ相続出来る恩恵も受けています。
すなわち、子供二人の標準的家庭で言えば、親世代と人数が同じなので親の取得した家をそっくり受け継げることになっています。
2人の場合、仮に2分の1ずつ相続するとして、結婚した相手も同様に相続していると結局親世代の遺産を100%相続出来ることになります。
(この辺は都会2世と今から都会に出る人との格差問題としてFebruary 5, 2011「都市住民内格差7(相続税重課)」前後で書いたことがあります)
現在は少子化で一人っ子も多いので祖父母世代から集中投資して貰えるので孫は多くのポケットを持っていると言われている所以です。
このように多くの兄弟で育った70歳前後の世代から見れば、次世代は親世代から歴史上最大とも言える多くの受益をしているのに、受益分の恩返しをするには自己資産形成能力が逆に大幅に落ち込んでいるのが現状です。
多くを受ければ多くを返すのが人倫の基本ですが、その能力不足が年金負担能力・・ひいては親世代扶養能力低下をもたらして、将来の年金制度維持に危険信号がともっているに過ぎません。
毎年のように親世代から次世代への贈与税関連(相続時精算課税制度など)の控除制度を延長していることから見ても、親世代から子世代への財の移転が例外でないことが分ります。
年金問題は若者世代の労働収入が伸びない・安定しない(甲斐性がない)ところに基本的な問題があるのであって、次世代の人口が減ることや世代間負担不公平に課題の中心があるのではありません。
子供が少ない分1〜2人で多くの愛情を受けて育ったのですから、親に対するお返しを1〜2人でするのは当然です。
1〜2人だから・子供が多くないので食事や旅行にも連れて行ってもらえたし、大学も行けたのに、お返しの段になって、1〜2人では負担が大きすぎると言うのではバランスが悪いでしょう。
旅館でも4〜5人1室料金は安いのですが、一人で1室にしてもらう以上は高額負担すべきは当然です。

海外資産残高2(民族資本)

韓国や中国その他新興国では対内投資が多いのは、資本の蓄積がないにもかかわらず背伸びして投資して一刻も早く国内工場を立ち上げるために外資導入が必要だから起きている現象です。
資本導入・・外資からすれば資本進出の要望は明治維新前後から・・グローバル化前にもありましたが外資=他民族支配を恐れた各国が外資導入を厳しく規制して来たことから、それほど激しくなかっただけです。
ソ連崩壊以降、アメリカの主催する自由主義経済に参加しないことにはマトモな経済発展が出来ないことが明らかになりました。
世界中が雪崩を打ってWTO・・共産主義を標榜する中国でさえ、貿易自由化を迫るWTO条約加盟せざるを得なくなったことから見ても明らかでしょう。
ずっと以前からアメリカ主導のIMFを中心とする金融取引・資本自由化圧力は強く、OECD加盟国は先進国クラブとして、原則資本自由化・金融取引自由化に取り組んで来ました。
開発途上国もアメリカ金融資本の意向に逆らえずにこれに唯々諾々と応じて来たことから、(外資導入による産業近代化で経済発展で来たメリットもありましたが・・)東南アジア諸国や韓国が97〜98年のアジア通貨危機でひどい目にあいました。
今のギリシャ危機同様で、IMF(アメリカ金融資本に都合の良いような仕組みに制度設計させられ)の言いなりにさせられ、まさに債務奴隷のような状態になりました。
国民の痛みを強引に切り捨てて行く大改革の結果、今の韓国財閥の躍進に繋がっている面がありますが、その裏では、富の偏在(1%の人が所得の6分の1に達しているという記事が昨日あたりの日経新聞に出ていました。・・アメリカに拮抗する格差社会になっているとの報道です)国民の殆どが少しでも「資金が出来たら外国へ逃げ出したくて外国籍取得希望をしている」という歪んだ社会を作り出しています。
中国の場合も韓国同様の国民意識(外国籍取得希望が多い状態)ですが、金持ちから順に自分の国を捨てて外国へ移住したいと望んでいる国って、国民のための政府とは言えないでしょう。
こんなことになったのは、政権維持のために外敵を作り出すことがあって国民がこれに迎合している行動から如何にも愛国心が強そうですが、本来の意味の民族を愛する意識が育っていないところに・・それだからこそ外資導入に抵抗が少ないのでしょうが・・)企業まで外資に支配されていることから来る結果です。
資本・金融自由化に戻しますと、中国の場合日本の漸進的な資本・金融自由化の経験を研究して(改革開放に際しては日本が親身になって協力してきましたので・・日本研究者によるアドバイスも行われていました)慎重に進めていたので、アジア通貨危機のとき大きなダメージを免れています。
実際にはそのときには中国でもかなりの資金流出があったようですが、まだ長期投資熱の盛んなときで流入分の長期投資が多かったのでプラマイゼロというか、危機に至らなかったようです。
今回のギリシャ危機では中国への投資熱が下火になりつつあるときですので、流出の方が大きいらしく人民元がじり安になりつつあります。
欧米からの投資が急減し(むしろ引き上げが加速し)、今大規模投資を続けているのは日本くらいですから、今のところ中国は日本に対して威丈高の態度(ゲンキンな国です)を取らないようになっています。
韓国もウオン暴落気味で、日本からの金融支援が必要な状態です(ここ数日の報道では日本政府は韓国国債を一定額購入する方向で調整しているようです)ので今のところ低姿勢です。
ついでに書きますと、資本自由化と言っても短期資金と長期資金の区別があって工場設備資金など長期資金は、経済危機があっても逃げ足が速くなく安全資金になっているので、国際交渉では短期資金の規制が重要になっているようです。
韓国の場合IMF8条国にも移行していますので、為替が完全自由化しているほかOECD加盟国のために短期資金流出入に関しても規制が出来なくなっていると思われます。
リーマンショック以降外国人投資家は、韓国の株式を売却して債券投資にシフトするようになっているようです。
サムスンや現代財閥等の躍進が頻りに報道されますが、実際には巨額赤字受注で日本の受注を横取りしていることが多いと言われます。
(ブラジル新幹線受注競争ではあまりに無茶なブラジル側の要求に対して採算が合わないので日仏が撤退した後も韓国だけがブラジルの無茶な要求をのんで残ったにも拘らず、今度はブラジルが韓国の受注を拒んで取りやめになった例でも分るように、企業利益を度外視した赤字受注が多いので信用されなくなっていることが分ります。)
韓国の国内基準金利は当時5%以上を維持していましたので、2012-3-22「国債残高の危機水準とは?1」に書いたように、韓国中央銀行は逆ざやで苦しんでいたのですが、(08年ころには逆ざやで約6〜8兆ウオン程度の損を出していたようです・・)外国人投資家はこの逆張りで、日本やアメリカの低金利で調達した資金で高利(当時5、5%前後・・今でも3、25%前後)の韓国の国債を購入してサヤ抜きに転じています。
この結果資本収支は黒字(外国短期資本流入超過)でしたので外貨準備が増える一方となったので、前回のアジア危機と違って今回(ギリシャ危機前に)は外貨準備が2000億ドル以上あると豪語していました。
しかし、ギリシャ危機が現実化すると欧米からの資金引き上げに直面して直ぐに資金繰りが間に合わなくなって危機に陥って日本に頼んで昨年秋には日本からの融資協定で息を付けたのですが、これは外資導入による外貨準備に過ぎなかったことによるものです。
今朝の日経朝刊でも、チェンマイイニシアチブ(アジアでの金融危機時の融通協定資金)の倍額増資が報道されています。
韓国は、アジア通貨危機以降の貿易政策としてウオン安を人工的に作り出して対日貿易競争上の優位性を獲得して来ました。
中央銀行の方は外資流入によるドル資金を市中から吸収・・(しないとウオンが上がるのでウオン安政策上)ドルの買い支えするしかないのですが、そのドルを韓国内市中に放出するとウオンが上がってしまうのでアメリカでドルのまま利用するしありません。
外資が高利のウオンで運用するために持ち込んだドルを金利の安いアメリカで運用するのでは逆ざやです。
そこで、リスクの高い外貨運用に走ってリスクを大きく取ってしまったのが、(3月17日現在のウイキペデイアによれば外貨準備の10%を不動産担保証券運用しているとあります)韓国中央銀行です。
何しろ2008年当時の韓国の対外資産の約半分弱が外貨準備でした。
これがゼロ金利前後のアメリカ国債を買っていた・・逆ざや運用では溜まりません。
外国人投資家がアメリカの安い金利で借りて高利の韓国で運用して利息の差を稼ぎ、韓国中央銀行は流入した外資を1%のアメリカ国債で運用していたのですから、外資に良いように儲けられる一方だったことになります。
環太平洋戦略研究センター上席主任研究員 高安健一氏によると
(韓国の)「外貨準備は2008年6月末時点で2、581億ドルと、対外資産残高の45.1%を占めた。
これは2007年の名目GDPの26.6%に相当する。
ちなみに、1兆ドル程度の外貨準備を保有する日本の場合、対外資産残高に占め
る割合は18.1%(2007年末)である。」
と言うことらしいです。

税と国債の違い2

 March 19, 2012「税収2と国債1」以来見て来たように、共同体維持費用は税に限らないことが分ります。
政府の資金源としては同じでも、国民個々人の自由な選択に委ねる点では国債の方がより民主的ですから、増税よりはベターです。
(寄付の方がなお個人尊重になる点については、10/26/03「教育改革22・・・・・寄付と所得税法2(税制の直接民主主義6)」前後で連載したことがあります)
国債だろうと増税だろうと持続可能性としては国際収支黒字の範囲内では無制限で良いとしても、増税や国債発行残高の増加=民間資金の吸い上げは、民間の自由な金融機能をその分だけ阻害しますので、その辺の目配りが必要です。
国債で言えば民間金利よりも高金利にして資金を吸い上げるのは禁じ手と言うべきでしょう。
この点、現在では銀行定期金利よりも約10倍も高金利ですから、民間との競争で勝っているとは言えません。
民間よりも金利等の条件が悪くても買い手が集まる場合には、民間の運用能力の欠如の証明と言えますが、今のところ政府の信用プラス民間の約10倍の金利とすればここで議論すべきは、政府資金源を国債発行によるか増税によるかの選択肢の議論ではなく、官が市場から税または高利で資金を吸い上げることの是非であるべきです。
国債大量発行の問題は、(国際収支黒字の範囲内である限り)投融資先の選別能力として民間の智恵と政府の智恵とどちらが優れているか(税で吸い上げる場合も同じです)の政治判断に帰することになります。
小泉改革は郵貯=財投資金や国債購入資金として官が運用するのをやめて、資金運用を民間に委ねるべきだと言うものでしたが、これまでの実験結果をみると民間に資金がだぶついていて使い道が分らない・・有効利用し切れていない結果が出て来たとも言えます。
金融業界は大蔵省(今の財務省と金融庁)の鼻息をうかがう人材ばかりが出世して来た歴史があって、人材的に問題があることについては、10/21/08「銀行の存在意義11」銀行の信用創造機能低下のテーマで連載して来ました。
ただし、自民党政権下で何十年も大蔵省の鼻息をうかがうことばかりで自由に発想する訓練を受けられなかったのですから、小泉改革以来僅かの期間だけで金融界にその能力がないと断定するのは性急すぎる感じがします。
ホンの1〜2年前に官が出資したばかりのエルピーダメモリが倒産してしまうなど、今のところ官の出資による成功例を知りません。
民が駄目だからと言って官の方が投資選択能力が優れているとはとても思えません。
民間の投資・資金運用能力が低いのは、これまで官の指導に頼っていて自主的運用経験が少ないに過ぎず、同じ日本人ですから官だけ突出して能力が高いとはとても思えません。
どうせ同じ教育制度で教育訓練を受けたものなら卒業後何十年も民で能力を磨いた方が、資金運用に関してはいい結果が出る筈です。
日本経済は長年の貿易黒字継続によって、国内では資金不足状態ではないので、(国内運用するには投資家の能力の問題ではなく)無理に貸し込もうとするとバブルになったり無駄な投資になり勝ちです。
国内投資に拘ることこそ、その妥当性を問題にすべきです。

国債運用益2

中国では国内過剰流動性を吸い上げるための政府証券発行をして紙幣を吸収している筈ですが、・・中国の国内高金利・・基準金利年5〜6%前後(国債等政府債金利は基準金利プラス3%前後=8%前後が相場)ですから、政府債発行によって吸い上げた元を保有したまま運用しないのでは年8%の割合で政府に損が発生して勿体ないのですが、国内放出出来ません。
日本が外為介入して得た資金も同様の経済原理に服します。
中国でも日本でも国内に為替介入で得た資金を放出すると過剰流動性解消・阻止のために資金吸収した意味がないから海外で運用するしかありません。
例えばこの際アフリカ諸国の通貨を中国や日本が保有しているドル通貨で買ってやる・資金援助も同じですが、ドルがその分国際流通市場に出回ってしまい回り回ってドル下落に繋がります。
対米貿易黒字=対ドルに対する自国通貨高阻止のための為替介入で得た分については、貿易や資本収支黒字分に匹敵するだけ(アメリカが低金利のために逆ざやになっても)でUSドル建て債券等を購入しないと為替介入効果が減殺されてしまいます。
日本の場合外資導入が活発ではない・・自国資本で間に合っているので、貿易黒字分だけが為替上昇要因ですが、中国の場合、諸外国からの投資流入が多いのでこの分だけ余計に人民元上昇圧力がかかります。
ギリシャ危機によって、欧米からの投資資金流入が減少して昨年秋以来人民元が安くなりつつあるのは、中国の外貨準備の多くが投資資金流入の結果によっているところが多かった事実を表しています。
話が変わりますが、外貨準備としての日本円の保有比率や外国人投資家の国債保有比率が国際的に上がらないのは、日本の方が世界中どこに対して経常収黒字ですから、(貿易黒字の大きい中国や韓国に対しても日本だけは黒字です)中国や韓国が自国通貨を安くするための為替介入対象に円が選択される余地がないことと、世界一金利が安いことが円資金環流・外貨準備として円が選択され難い原因です。
中国は貿易黒字が始まった以降通貨安維持のために日本同様にアメリカ財務省証券等を大量に購入しているのですが、アメリカは日本より金利が高いと言っても、現在アメリカ財務省証券の金利は2%前後でしかないので、中国は逆ざや運用になっています。
(中国政府は国内で8%前後の金利で国債等を発行して吸収した資金をアメリカで2%運用しているのが実態でしょう)
USドルは値下がりリスクがあるので、金利の逆ざやどころか元本まで下がって行くので昨年あたりから中国は日本国債購入比率を上げているのですが、外貨を持てば持つほど逆ざや運用で中国政府財政は苦しくなってしまいます。
サブプライムローン問題のときの09/05/08「GSE破綻リスクの怪2」前後のコラムでも、中国が5000億ドル前後の世界最大大口債権者である点を少し触れました。
韓国も外資流入が細るとたちまち金融危機になりますので、(実際昨年秋ころからウオンの暴落に近い下落状態に陥っていました)高金利を維持するしかなく、昨年秋ころには3、25%の高金利でしたので外貨準備を持つと逆ざや運用である点は同じです。
日本だけが世界最低の金利ですから、日本政府はどこの国の債権を買って運用しても(外貨準備は)為替リスク以外には金利面では損がない状態です。
(円高になるとその相場変動による損害がありますが・・・この点は中国元も上昇基調ですから同じです)
マスコミが何の目的によるのか知りませんが、(多分増税したい政府に合わせているのでしょう)国債残高増に対して「大変だ大変だ」と大騒ぎしてみんなその気になっていますが、国債発行してもそれを運用して外貨準備あるいは対外債権・資産を増やしているとすれば、その限度で問題がありません。
エルピーダメモリが倒産して大騒ぎになっていますが、ここには公的資金が直接何千億だったか注ぎ込まれています。
これがもし成功していたら、(投資の失敗として問題がありますが・・)低金利国債で調達した資金を含めた政府資金でエルピーダを通じた海外資産を保有していたことになります。
最近公的ファンドを利用して、油田掘削用の海上設備の外国会社を買収したとか、一ヶ月ほど前にも、水事業関連で革新機構だったかのファンドで官民合同で受注したとか報道されています。
このように低金利国債で調達した資金を注入してファンドを設けて海外投資援助するのは、前向きの国債になります。
国債で集めた金で例えばトヨタに融資してトヨタが海外進出して儲けていれば、目出たいことではないでしょうか?
ゼロ金利の国債で資金を吸収して海外の高金利国債を買うのも同じ・民間投資家が借金であるいはファンドを募って投資するのと同じ原理です。
このことは今年の1月17日ころに書いたように、日本はバブル崩壊後もここ20年ばかりずっと経常収支黒字で対外債権を積み上げて来た歴史とも符合しています。
昨年は震災被害と欧州危機が重なって40年ブリの貿易赤字と騒がれましたが、それでも4月23日紹介したようにトータル収支・・経常収支は黒字のままでした。
日本の信用は対外収支の歴史・蓄積で見るべきであって、指標の一部に過ぎない国債残高だけで不安を煽るのは間違いです。

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