国債運用益2

中国では国内過剰流動性を吸い上げるための政府証券発行をして紙幣を吸収している筈ですが、・・中国の国内高金利・・基準金利年5〜6%前後(国債等政府債金利は基準金利プラス3%前後=8%前後が相場)ですから、政府債発行によって吸い上げた元を保有したまま運用しないのでは年8%の割合で政府に損が発生して勿体ないのですが、国内放出出来ません。
日本が外為介入して得た資金も同様の経済原理に服します。
中国でも日本でも国内に為替介入で得た資金を放出すると過剰流動性解消・阻止のために資金吸収した意味がないから海外で運用するしかありません。
例えばこの際アフリカ諸国の通貨を中国や日本が保有しているドル通貨で買ってやる・資金援助も同じですが、ドルがその分国際流通市場に出回ってしまい回り回ってドル下落に繋がります。
対米貿易黒字=対ドルに対する自国通貨高阻止のための為替介入で得た分については、貿易や資本収支黒字分に匹敵するだけ(アメリカが低金利のために逆ざやになっても)でUSドル建て債券等を購入しないと為替介入効果が減殺されてしまいます。
日本の場合外資導入が活発ではない・・自国資本で間に合っているので、貿易黒字分だけが為替上昇要因ですが、中国の場合、諸外国からの投資流入が多いのでこの分だけ余計に人民元上昇圧力がかかります。
ギリシャ危機によって、欧米からの投資資金流入が減少して昨年秋以来人民元が安くなりつつあるのは、中国の外貨準備の多くが投資資金流入の結果によっているところが多かった事実を表しています。
話が変わりますが、外貨準備としての日本円の保有比率や外国人投資家の国債保有比率が国際的に上がらないのは、日本の方が世界中どこに対して経常収黒字ですから、(貿易黒字の大きい中国や韓国に対しても日本だけは黒字です)中国や韓国が自国通貨を安くするための為替介入対象に円が選択される余地がないことと、世界一金利が安いことが円資金環流・外貨準備として円が選択され難い原因です。
中国は貿易黒字が始まった以降通貨安維持のために日本同様にアメリカ財務省証券等を大量に購入しているのですが、アメリカは日本より金利が高いと言っても、現在アメリカ財務省証券の金利は2%前後でしかないので、中国は逆ざや運用になっています。
(中国政府は国内で8%前後の金利で国債等を発行して吸収した資金をアメリカで2%運用しているのが実態でしょう)
USドルは値下がりリスクがあるので、金利の逆ざやどころか元本まで下がって行くので昨年あたりから中国は日本国債購入比率を上げているのですが、外貨を持てば持つほど逆ざや運用で中国政府財政は苦しくなってしまいます。
サブプライムローン問題のときの09/05/08「GSE破綻リスクの怪2」前後のコラムでも、中国が5000億ドル前後の世界最大大口債権者である点を少し触れました。
韓国も外資流入が細るとたちまち金融危機になりますので、(実際昨年秋ころからウオンの暴落に近い下落状態に陥っていました)高金利を維持するしかなく、昨年秋ころには3、25%の高金利でしたので外貨準備を持つと逆ざや運用である点は同じです。
日本だけが世界最低の金利ですから、日本政府はどこの国の債権を買って運用しても(外貨準備は)為替リスク以外には金利面では損がない状態です。
(円高になるとその相場変動による損害がありますが・・・この点は中国元も上昇基調ですから同じです)
マスコミが何の目的によるのか知りませんが、(多分増税したい政府に合わせているのでしょう)国債残高増に対して「大変だ大変だ」と大騒ぎしてみんなその気になっていますが、国債発行してもそれを運用して外貨準備あるいは対外債権・資産を増やしているとすれば、その限度で問題がありません。
エルピーダメモリが倒産して大騒ぎになっていますが、ここには公的資金が直接何千億だったか注ぎ込まれています。
これがもし成功していたら、(投資の失敗として問題がありますが・・)低金利国債で調達した資金を含めた政府資金でエルピーダを通じた海外資産を保有していたことになります。
最近公的ファンドを利用して、油田掘削用の海上設備の外国会社を買収したとか、一ヶ月ほど前にも、水事業関連で革新機構だったかのファンドで官民合同で受注したとか報道されています。
このように低金利国債で調達した資金を注入してファンドを設けて海外投資援助するのは、前向きの国債になります。
国債で集めた金で例えばトヨタに融資してトヨタが海外進出して儲けていれば、目出たいことではないでしょうか?
ゼロ金利の国債で資金を吸収して海外の高金利国債を買うのも同じ・民間投資家が借金であるいはファンドを募って投資するのと同じ原理です。
このことは今年の1月17日ころに書いたように、日本はバブル崩壊後もここ20年ばかりずっと経常収支黒字で対外債権を積み上げて来た歴史とも符合しています。
昨年は震災被害と欧州危機が重なって40年ブリの貿易赤字と騒がれましたが、それでも4月23日紹介したようにトータル収支・・経常収支は黒字のままでした。
日本の信用は対外収支の歴史・蓄積で見るべきであって、指標の一部に過ぎない国債残高だけで不安を煽るのは間違いです。

国債運用益1

この辺で国債の運用問題に入って行きます。
国債発行で市中から吸い上げた資金はすべて国内財政赤字のファイナンスに使われているとは限りません。
日本の国内金利はほぼ零%(銀行預金金利は0、00何%、国債長期物で数日前には0、91%あまりでした)と安いので、安い金利で国内調達して、国内・企業等へ投融資し、余った金で高い金利のアメリカ財務省証券購入で金利差を稼いでいるのが(特に為替介入資金の場合)日本の姿です。
今年1月末では外貨準備高1兆3000億ドルも持っているのですが、日本は国債発行によって、金利差の儲けを毎年莫大(1%の金利差で130億ドルになります)に得ているのですから、政府自身が円キャリー取引で大もうけしていることになります。
直接国債(政府短期証券等も含む政府債務)発行によって得た資金でアメリカの財務省証券等を買っているのは、為替介入によって得た資金が中心でしょうが、長い間に蓄積した貿易黒字分を対外債券等として投資して運用している分は、結局、国内低金利運用・・国内投資先が少ない・・に代えて海外運用していることと同じです。
いわゆる官民ファンドでの海外投資や輸出保険などが盛んですが、この場合官側の資金が国債発行による分になります。
(直接的には税を投入しているとしても税を投入出来るのはその他の出費を国債で賄っているからです)
低金利吸収資金を活用した海外投資の後押しを見れば、「国債発行の何が悪いの?」というのが経済の原理に即した理解でしょう。
国内に使い道がなくて余っている資金を有効利用するために、政府が吸い上げて有効利用するのは悪いことではありません。
中国の場合、昨年までは高度成長中でインフレ率も(公式には5%前後となっていますが、1説には年利15%以上もの高インフレです・・)高いので政策金利(わが国の従来の公定歩合相当)も5〜6%前後のまま(市中金利はこれに3%前後上乗せした相場)ですから大変です。
中国の最近の金利相場についてはApril 10, 2012「基軸通貨とは1で紹介しました。
中国では実質15%前後ものインフレですから、金利を本来もっと上げるべきですがそれが出来ない・・バブル失速が怖くて利上げ出来ないままインフレ率の公式発表を低く抑えていると思われます。
中国の統計は地方政府の報告の集計ですから、統計はいくらでも誤摩化せますが実際物価上昇で苦しんでいる国民は納得しないので、15%前後もの賃上げ要求が続いていてそれが認められつつあります。
こんなことから中国は低賃金を武器にした国際競争力を失いつつある・・新興国から停滞国に移りつつあるのが昨今の経済情勢です。
自国内に流入した外貨・・例えば日本が工場進出した場合その投資金として巨額外貨・主としてUSドルが流入します・・これを銀行に持ち込まれると中国国内銀行は中国人民元に両替するしかありません。
貿易黒字あるいは資本収支黒字分だけ両替した人民元が余計に国内で通貨が流通することになると、その分だけインフレ(流動性過剰)が進みますので、これを買いオペその他で吸い上げるしかないので、中央銀行には吸い上げた資金が滞留してしまいます。
あるいは人民元高阻止のために行っているドル買い介入によって得た資金も、不胎化するしかない点は同じです。

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