構造変化と格差20(結果拡大社会2)

大分話題が飛んでいましたが,産業の構造変化と格差問題に戻ります。
今年の1月23日に「格差19」でしたので,今回は20になります。
国内で企業が生き残る・・従業員を守るには大量生産品の量で勝負するのではなく、品質競争で勝つしか生き残れなくなっています。
1月26日に書いたように味・うまみ等と違い部品競争力としての品質は、コストパフォーマンス上の品質が優る面が中心ですので(歩留まり率の向上・電池で言えば耐久時間の向上など)これも結局は価格競争局面で捉えるべきでしょう。
技術・品質優位性があると言っても、大量生産品よりは円高対応力が高いだけであって、一定以上の価格差になって来ると購入先は品質が多少劣っても安い方を利用することになるので、品質競争も一定以上の円高・・競争相手国との賃金格差には耐えられません。
何回も紹介していますが、2007年には1ドル120円平均でしたが最近の1ヶ月間では76〜77円です。
自動車業界が今回の円高で遂に持ちこたえられないということは、汎用品・大量生産品でちょっと水準以上という程度・・今のトヨタはその程度かな?・・では、高々度業種が稼ぎ出す貿易黒字・円高について行けなくなったということではないでしょうか?
これまで円相場と企業の盛衰を書いてきましたが、国に関しては産業革命以降の近代工業化に成功した国と成功しなかった国・・国内的には近代化に適応出来た地域と適応出来なかった地域(実際にはなだらかな分布でしょうが・・・)があったように、国民の中でもグロ−バル化に乗れた人材・・勝ち組とグローバル化について行けない負け組・・国際的格差・国内格差が大きく出て来たのが昨今の経済・社会です。
従来は40点〜50点〜60点〜70点〜80点と、能力に応じて多様な職種が用意され、会社内でも多様な職階が用意されていたので、格差が余り気にならなかったと言えます。
グローバル化までは、50〜60〜70点までの人はホワイトカラーになれて、世界企業・国内大手かあるいは中企業かは別として、そこそこ部長クラスまで出世出来る社会でした。
今では、既に就職出来た人でも世界シェアー何割を握る超優良部品企業に就職出来た人以外は、何時リストラに遭うか心配している状態でこの結果中高年男子の自殺が増えました。
中高年男性の弱さは、右肩上がりの高度成長期〜安定成長期に育ち就職時から7〜8〜10年まではバブル期でしたので、若いときに良い思いをして来た世代で、心の訓練が出来ていません。
就職後約10年間前後多くの企業は業容拡大期で、直ぐに部下が入社・配属されるなど良い思いできた後で、30代後半から40代になったころから勤務先ではリストラの連続ですから、何時自分がその対象になるかヒヤヒヤしながらの人生になってしまいました。
この境界線上にいる人材にとっては、ストレスの負荷が半端なものではありません。
日本の自殺率の高さが問題になっていますが、時代特性・・特殊技能を持たない半端な企業や人にとっては生き残りが苦しい時代・・格差社会が始まっていることを無視して政治批判ばかりしていても解決にはなりません。
この点40才代未満は、元々バブル崩壊後の就職氷河期から始まっているので、大企業に入社しても途中で追い出されることも覚悟の上・・心構えの訓練が違います。

構造変化と格差19(結果拡大1)

車が輸出産業の主役から降りても別の主役が育っていて貿易上収支上の問題が仮にないとしても大量採用をしている自動車産業の衰退は、雇用環境への影響が甚大です。
グローバル化以降の適応・変革は、大量生産型産業から東レの炭素繊維の成功例のように高度化への変革による国内総生産の漸増と黒字の獲得によるものですから、大量の労働者不要な産業形態になっています。
高度部品製造分野は高人件費に耐えられるからこそ、円高にも拘らず、高収益を維持出来ているのですから、高人件費に見合う能力のない人の職場が減る一方になるのは論理必然・・仕方のないことです。
仮に自動車産業が他産業の高度化同様に基幹部品・・シャフトやエンジンや電池の供給産業(これはサンヨー電機などの電機産業の得意分野です)だけになると、必要労働者数は激減することになります。
今後、上記のように高度化に成功した産業が貿易黒字を稼ぎだして円高を引っ張って行くようになっても(国家経済的・・貨幣経済的には成り立って行くのですが)・・あるいは知財・アニメその他の強い業種が出て来ても大量雇用が期待出来ません。
繊維産業内でも縮小して行くばかりの会社もあれば、昨年末から1月8日まで紹介した東レやクラレのように製品を高度化して生き残っているところもありますが、生き残っている企業でも薄利多売の高度成長期の頃よりは、汎用品製造向け労働者が減っている筈です。
まして縮小あるいは消滅してしまった他の繊維業に勤務していた労働者は、失業して他産業(車関連など新規勃興業界)に転職するしかなかったでしょう。
その次に産業の柱になった電気・造船・機械製造・製鉄その他関連職種の一々について紹介しませんが、それぞれの業界で似たような運命・・高度化対応しての生き残り組と不適合による縮小・消滅組の運命を辿っている筈です。
プラザ合意に端を発する1990年代以降のグローバル化進展によっても生き残れるように、我が国各種産業は高度化対応して来たので、汎用品向けの底辺労働の雇用吸収力を漸次失いつつあります。
アメリカで言えばプレスリーやアップルが大成功しても、知財・高度産業ではアメリカ国内の雇用はそれほど増えないことをみれば明らかですが、我が国の場合、幸い、高度化と言っても知財や研究部門だけではなく、技術部門の高度化・この分野では世界の何割を占めているという部品メーカーの輩出・高度化が基本です。
輪島塗その他各地伝統工芸品でも同じですが、元は各地の大量生産品の産地として名を成したでしょうが、工業製品化に押されて普及品は姿を消し、地元で逸品を造れる人だけが伝統工芸品製造者として生き残ってるのです。
陶器・磁器や藍染め、打刃物その他各地に残る伝統工芸品は、こうした歴史を経験している筈です。
この場合、瀬戸物のように大量消費材として全国展開する産地であったころと同量の大量従事者・裾野産業を養えませんが、伝統工芸として製造に従事し続ける人が残れた分(繊維でも電機でも各種機械製造でも高度部品製造分野が残ったので)、なお一定規模の雇用が守られているのが、アメリカや欧州との違いであり、救いです。
大量生産部門が海外流出して行っても優れた部品製造部門が残っている分だけ欧米に比べて、失業率が低く保たれて来たのです。

構造変化と格差18(部品高度化6)

マスコミ人やアジアの意見はここ数年で世界順位何十番までの大企業が入れ替わっていて日本企業は激減しているので、もう日本は駄目だという意見が多いのですが、今後は小さな部品で勝負の時代ですから、大型の世界企業・大量雇用企業の多さで競う感覚は時代遅れです。
彼らの意識・価値基準の尺度が古すぎるのです。
知識人というのは過去の決まった意見・価値観を修得しているだけの人が多いので、現実を自分の目で見て構想する力がないからでしょう。
今回の円高を主導した儲け企業・・各種分野の世界シェアートップクラスの部品業界にとっては当然の円相場ですから、円が上がることには痛痒を感じません。
この種事業で儲けている企業の会社説明では、当社は円建て取引なので円高は関係がないとなっていますが、仕入れ先は円が1〜2割上がろうがそこの部品しか買えない強みがあるようです。
(もっとも長期的にはあまりにも割高だとかなり技術力が劣っても、半値〜10分の1の値段を提示する韓国等の企業に競り負けるので安閑とは出来ませんので、この点は後に書きます)
為替相場が貿易収支の結果で決まるとすれば、(その結果溜まった儲けを海外投資するので所得収支や移転収支も影響してきますが、その基本は貿易収支黒字があってのことです)その決まり方は突出して儲けている産業の競争力だけで決まるのではなく、利益率2〜3%から5〜6%のようにちょっとしか儲けていない企業や、すでにマイナスになって輸入している分野(原油や鉄鉱石など資源系・食料系は元から輸入です)を総平均して、国の貿易収支が黒字になった度合いで決まるものですから、突出している企業にとっては、平均値で上がった分には(円の切り上がった分の何割かは値下げしても)、なお十分な利益が出る仕組みです。
円が1割上がると苦しいのは数%から1割程度の利益率・・すれすれで輸出している企業です。
合格ラインを40点から50〜60点に引き上げても80〜90点取っている受験生には関係がないのと同じです。
円相場は国の(輸出企業の平均ではなく輸入分を総合した)平均能力で決まって来るとすれば、円高でやって行けないと騒ぐ企業は、日本の輸出企業の中で平均的能力以下(最下位付近・スレスレ)であることの自白です。
これまでの稼ぎ頭であった自動車業界も、今回の円高で国内に踏みとどまれなくなってしまう懸念があると報道されますが、その報道が正しければ、自動車の輸出利益率は他の輸出業界よりも低いことになります。
今回の円高が、もしも貿易黒字の蓄積の結果であるとすれば、自動車業界の儲けによる寄与分が少なく、他業種(いろんな部品系やソフトなどで)の儲け・・黒字の蓄積によって生じていたことになります。
ちょうど電機系輸出が伸びて繊維系が振り落とされて行ったときの繊維・・自動車が伸びて電機系が振り落とされて行ったときのような役回りになっていることになるでしょう。
とすれば、自動車が輸出産業として駄目になっても、元々輸出で大して儲けていなかったとすれば、貿易収支上のダメージが少ないことになります。
ただし利益率が数%しかなくとも数量が巨額ですので、これがそっくりなくなると金額的には大変なダメージになります。

構造変化と格差17(部品高度化5)

以下仮に競争力だけを基準に為替相場が決まるとすればの話です。
比喩的に言えば各種部品やソフト分野は3〜4割の高収益であり、自動車等組み立て産業が5〜6%の収益しかないとした場合、1割以上も円が上がれば、(ちなみに2007年には1ドル120円平均でしたが2012年1月16日現在では76円79銭です)これまで組み立て産業としては最強であった自動車産業までもが今回振り落とされる番になります。
大震災以降貿易黒字の流れが変わっていますが、長期的に見て赤字が定着したか否かまで分らないないので、大震災までのデータによりますと、グローバル化以降の貿易黒字は多種多様な各種分野の部品・ソフト業界その他の利益率が高い結果によっていた部分が大きかった結果と仮定出来ます。
ここから、 Jan 17, 2012 以来の格差と部品高度化問題のテーマに戻ります。
大規模産業である製鉄でさえ、室蘭製鉄所のの特定の製鋼は世界中から引き合があるそうですからどの業種が部品として成功していると一概に言えない時代です。
(繊維系でも転進に成功している企業とじり貧のままの企業があることを東レやクラレの例とともに既に紹介しました)
とすれば、(所得収支黒字等があるので仮定形です)どの産業が強いとは言えない・・旗手となる大企業がないので分り難く、大変だ大変だというマスコミの宣伝もあって国民の多くは日本の産業がなくなってしまうのかと心配しています。
最近の若者の就職先を聞いても、(こちらが年取っているからかも知れませんが・・)なかなか覚えられないのは、特殊な部品では世界で何番というような企業が多いことによるものです。
部品名を聞いてもある部品の中の塗膜部分のような目に見えないようなものが強いことが多いようですから、門外漢には覚えられません。
数年前に島津製作所の田中さんがノーベル賞を受賞したことが象徴的ですが、昔のノーベル賞と違って誰でも知っていることではない・・専門の中を更に細分化した専門分野ですので、聞いても直ぐに忘れてしまうような分野の賞でした。
今日本の経済を支えているのは完成消費材製造販売会社ではないので、今や輸出で稼いでいる企業はその業界の人以外には馴染みのない製品製造会社ばかりになっています。
世界企業番付の上位から日本企業が何年前に比べてどれだけ減ったという記事に韓国、中国等の新興国は躍進に大喜びですし、日本は駄目になりつつあると書く日本のマスコミが普通ですが、儲ける基準の変更に気がついていない・・頭が古いだけです。
貧しい時代には安いものを大量に買い付ける家は景気がよく見えただけで、豊かになるとBC級グルメの大量消費が減るのは当然です。
大量生産品の世界規模を競っても仕方がない・・そんなもので競って喜んでいる社会は人件費安の自慢をしているのと同じ意味しかありません。
今の日本企業は多種多様な業界ごとの小さな部品や金型などで儲けているので、却って3本の矢どころか数百〜数千本の矢になっていて、日本経済は変化に強くなっている・・強靭になっていると言うべきでしょう。
ケイバの馬主で(年間何十億か何百億か無駄遣いしていること)で有名なメイショウの檀那は造船関連部品で世界4割のシェアーを握っているとのことですし、組み立て業としての造船量で世界規模を誇っていても利益率の高い部分は日本がまだ握っている時代になっていることが分ります。
(ケイバで有名になってなければ、殆どの人は知らないままでしょう)

構造変化と格差16(部品高度化4)

貿易赤字と為替相場にそれましたが、1月9〜10日の続き・・・産業構造変化に戻ります。
人件費を新興国並みに落とすか、産業の高度化に連れて利益率の低い最終組立型産業は衰退して行くしかないことをこのシリーズで書いてきましたが、大量生産型産業が輸出の旗手になっている新興国は、大量にものが動くので一見躍進が目立ちます。
これらの国は、まだ利益率の低い産業・・一人あたり人件費の安い産業が最も高い利益率を誇る産業リーデイングカンパニーである・・もっと利益率の高い産業が少ないことを表しています。
安い衣料品を一杯買ってデパートの大きな袋に入れて持ち歩いている人が多いと景気が良さそうですし、安物バーゲン売り場で人だかりがしていて飛ぶように売れていれば景気が良さそうに見えますが、実は静かなお店で宝石類を買って小さな袋に入れて少数の人が静かに歩いている人の方が懐具合がいいし、売上金も多いのです。
ところで、国際競争に耐えるために車業界のコストダウンが進めば進むほど、機械化(オートメ化)が進むので組み立てに熟練を要しないようになるのは目に見えているので、新興国・・人件費の低い国での立地が有利になるのは明らかです。
05/16/05「究極の機械化と国際競争力(人材の重要性1)」で円高対応として機械化・自動化を進める業界の姿勢は、(方向性としては間違いではないとしても結果だけ見れば)却って高コスト国での生産をなくして行くことになると書いたことがありますが、これが現実化して来たのがグロ−バル化以降の潮流です。
加えて車の電気化が進めば、エンジン系統も簡素化するので誰(一定の組み立て能力と資本さえあれば)でも製造装置さえ買えば造れる時代になりますから、国際規模の伝統・・技術蓄積の必要がなくなることは明らかです。
言わば、車業界は将来的には、今のプラモデルやパソコン組み立てみたいな低レベル作業になるので、早晩車業界は人件費の高い国内組み立て工場の維持が出来なくなる・・淘汰の嵐にならざるを得ないでしょう。
膨大な雇用を誇っている車業界・広い裾野産業が最終組み立てから撤退して底辺労働者が不要になって来ると、これの受け皿がどうなるかの難問が生じます。
底辺労働の受け皿が発達しないままですと、我が国も半端な失業率ではなくなります。
どのような受け皿産業が発達しても、底辺労働である限り早晩低賃金国の追い上げに曝されることになり、これまで隆盛と衰退を繰り返して来た各種大量生産型(製鉄・造船・繊維・電気・車など)産業と同じ道を歩むしかありません。
現在我が国は(輸入代替が効き難い)介護・保育等人的サービス分野に転換して失業増を凌ごうとしていますが、これまで何回も書いているように外貨を稼ぐ産業ではなく、経済的に見れば失業救済事業的性質でしかない上に、これも外国人労働力輸入圧力との競争になりつつあります。
失業救済事業の本質から見れば、外国人介護士を受け入れるために税金投入してまで外国人の職業訓練するようなものではありません。

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