共謀罪反対論と日弁連の政治活動の限界1

今回の共謀罪制定反対運動は、人権擁護に関連する運動でしょうか?それとも日弁連の制度目的を逸脱した運動でしょうか?
30日に紹介した判例のように考えれば、弁護士の目的とする人権擁護に密接に関連していますが、単なる法技術問題を越えて国際信義の問題になっているから、そこまで法律専門家が絡んで行って良いかに疑問があります。
10月22日に紹介したように日本政府は2000年国連の組織犯罪防止条約に署名し2003年5月に国会承認も受けています。
2003年以降は国内法整備の国際法的義務(条約を守る義務)を負っている状態です。
国会で同意した条約は、国内法に優先するのが法体系上の原則ですから、国内法で言えば法律が国会で制定されたが、これを実施する省政令規則等の施行準備が遅れているような関係です。
こうした状態に関しては、憲法改正手続法がないと憲法改正権・主権が事実上行使出来ない状態になると書いたことがありますがそれと同じです。
国際的に見れば関税引き下げの約束をした後で、いつまでたっても、関税法の改正をしないし、税関職員にそのマニュアルを与えないので、現場では従来どおり関税をかけているような関係・・日本は条約違反をしている状態です。
条約成立後の段階で国内法制定になお反対するのは、国内議論を尽くして成立した法律・(条約)に対してなお反対運動しているのと似ています。
判例の許容する「目的を逸脱していない」のは、成立後の法律に飽くまで反対政治運動することまで含むのでしょうか?
成立した法律に従うべきではないと言う運動は法律家の運動としてはおかしなものですから、法律が成立してしまった以上はこれに従うしかないが、(例えば消費税率アップ反対運動していてもアップする法が成立してしまった後に、消費税納付拒否を主張するのは、法律違反行為の煽動です)法律の廃止運動を意味していることになるのでしょうか?
元日弁連事務総長であった海渡氏が著者だったか編集関係者の本を立ち読みすると、成立後の秘密保護法の廃止運動をするのは国民主権の一種であるから許されていると言う意味のことが書いてありました。
憲法改正論で書いたように、作る権利のある国民は改廃する権利もあるのが原則です。
しかし国際条約に署名してしまった後に条約の義務による国内法整備に反対するのは、条約違反行為をすべきだと主張しているのと同じではないでしょうか?
そもそも、共謀罪反対論者が、組織犯罪防止条約の履行=国内法整備に反対することによって、どう言う法律効果を狙っているのかが見えません。
条約内容に反対ならば、その条約改正運動をするのは分りますが、ただ国内法整備だけ反対するのは上記の消費税納付拒否・違法行為主張と同じではないでしょうか?
条約改正運動としてみれば、成約後14年も経過して大多数の国が履行をしている状態で、共謀罪の取締りをしないように変更する国際政治力などないと見るのが普通です。
飽くまでも条約の履行を拒むと言うことは、将来的には条約からの脱退を目指すことになるのでしょうか?
条約に参加するかしないか・・飽くまで反対を続けて修正or脱退に持ち込むリスク・・その場合の国際的孤立の可能性を含めた判断は、高度な政治判断であって人権擁護の使命とはあまりにも遠く離れ過ぎた政治運動のように思われます。
共謀罪制定が国際条約上の法的義務になってしまっているならば、日弁連は国内法制定過程で人権擁護上必要な法案意見(安易な共謀認定がえん罪を生まないような歯止め・証拠上の意見など)を充分主張して行く・・その実現目的範囲内での政治運動程度が目的の範囲内で合理的です。
日本が2000年に条約に同意してしまった以上・しかも世界の大方がこの条約に参加している以上は、いまは反対運動出来る時期が終わり・1種の条件闘争段階ではないかと思われます。
日弁連の10月号委員会ニュースには、このためにか?条約自体に反対出来ないとも書いています。
その上で凶器準備集合罪等が日本にはあるから作らなくて良いと言う論を展開しているのですが、この論法は無理があることを23日以降書いてきました。
共謀罪法制定が国際的に避けて通れないとすれば、日弁連の本分であるえん罪防止に役立つような条文制定作業等に意見を入れて行く努力に集中して行くべきではないでしょうか?
特定秘密保護法に関しては抽象的な反対運動ばかりしていたので、法案作成作業については蚊帳の外におかれたまま成立してしまったように思われます。
これについて、日弁連は充分な国民的議論もないまま国会通過したと批判していますが・・・。

ハーグ条約1(日弁連意見書)

日弁連でもこれに対する対応は、女性の権利関係の委員会は反対意見が強く、子供の権利を守る関連委員会は賛成傾向と意見が分かれる傾向がありましたが、最近国際趨勢(欧米だけの論理ですが・・・)には抗し難いことと、参加しない国に対してはペナルテイがあって、却って州外に出ることを禁止される裁判に繋がる・・連れ去った日本女性に対して何十億と言う精査的損害賠償判決も出ているなど日本女性に不利に働くことから一定の担保法の国内整備をすることを条件としての批准賛成に結論が出て来たようです。
「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)の締結に関し、とるべき措置に関する意見書」
  2011年2月18日 日本弁護士連合会

意見書の詳細を省略しますので関心のある方は上記を検索してお読み下さい。
以下はハーグ条約です。

ハーグ条約(1980年)
CONVENTION ON THE CIVIL ASPECTS OF INTERNATIONAL CHILD ABDUCTION(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)
(Concluded 25 October 1980)

これも条項が長大ですので省略しますが、今後海外在住その他で子供を外国で育てる女性が増えてくると重要な条約ですので、海外生活の予定のある女性は関心を持って、この条文をきっちり読んでおくべきです。
子供に対するそれぞれの民族別の歴史に由来する思いが他所の国では認められないから不利に働くと言う心配があって(片言の英語しか話せない日本人女性にとって、唯一の補助者であった英語を話せる夫と敵対して裁判するのは大変すぎるし、夫婦の葛藤が生じた時に精神的にもきつい状態になりますが、母国に帰って母親や母国語でのケアーを受けたい気持ちもわかります。
日本人同士でも夫婦関係がもつれると郷里の実家に帰る女性が多かったのは、経済問題だけではなく心の理解に関する地域差があったからでしょう。
ここ数十年離婚問題が発生しても実家に帰る女性が減ったのは、離婚女性に対する社会的受け皿整備が進んだことと心情的な地域差(男女関係や子供に対する考え方に地域差がなくなって来た)や方言(言葉)の壁が減ったこと・・以前は東北方面からの女性は言葉の壁があって不利でした・・も大きいでしょう。
言葉の壁や考え方の基礎の違いは今でも男女差や年齢差が大きいので、家庭裁判所の調停委員は男女ペアーで担当することにしているし、離婚を扱う弁護士も女性がその分野に進出しているのはこうした点を無視出来ないことを表しています。
まだ外国と日本あるいは日本に来た東南アジア諸国出身女性にとっては昔の日本国内の地域差を拡大した形で残っているのが現状ですから、言葉がカトコトしか通じない出先での裁判をして行くのは不利(夫が生活費を入れない場合生活すら維持出来ないヒトが大半です)ですので、子供を自分と一緒に日本や自分の故国に連れ帰る実際行動が起きているのですが、これが子供の連れ去りとして国際問題になっているのです。
しかし、公平に考えれば子供の問題は離婚直前まで子供が現に育っていた環境(・・夫婦の合意のあったところと言う意味もあります)に置くのは当然のことですし、現地の裁判所が現地の法慣習を前提に判断する権利があるのも当然のことです。
自分の都合のいいところへ一方的に連れ去って、そこで裁判を受けたいと言うのは、この部分を見れば公平に考えて無理があります。
そこで日弁連では、女性に対する担保整備をする条件付きでハーグ条約批准に同意する意見書となっているのですが、政府の施策については個々の女性にとってさしあたり関係がないとして(政府や日弁連にお任せとして・・)少なくとも自分の自由意思で子育ての場所を決めた以上は、そこが子供にとって一番良い場所だと言う米英系の主張に対してガードしておく心構えくらいは必要です。
即ち、海外で結婚したなら仕方がないですが、せっかく日本で一緒になったのに夫が海外に帰るとなったら、子供を連れて安易に海外移住しないように気をつける必要があります。
もしかしたら、移住の条件としてでイザとなれば日本に子供を連れ帰っても良いと言う合意書を夫との間交わしておくくらいの準備が必要です。

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