原発コスト24(安全基準4)

コンビナートなどでは、地上数メートル以上の高さの支柱の上でパイプラインが縦横に走っていますが、数メートルも高い場合、震度5〜6くらいになると見た目に1メートル前後も揺れる感じですが、支持基盤ごとに1メートル前後もずれる大きな揺れがあった場合、継ぎ目に異常を来さない金属系のパイプは有り得ないと思われます。
(ゴム状のものでも水平に張っていれば1メートル以上の伸び縮みに耐えられないでしょう)
伸縮性の低いパイプ類は格納容器やタンクその他の装置と一緒に揺れる仕組み・・支持基盤を同じにしないと(別々に揺れるのでは)壊れる宿命にあると言えます。
パイプ類は遠くから冷却水やその他の液体やガス類を供給し、排出して行くものですから、パイプ類の総延長全体を格納容器と同じように揺らすには、全部を同じ支持基盤・人工基盤に乗せておくしかないでしょう。
分り易く言えば原発敷地にある必要な機器全部を一枚の基礎に乗せて地震が来れば一緒に揺らすようにする・・・言わばメガフロート類似の大きな船上に原発を設置するしかないことになります。
船上であればどんな大きな地震あるいは波が来てもその上で一緒に揺れるだけですし、これを沖合2〜3kmくらいのところに係留しておけば、津波の心配もありません。
今後技術の進歩によって更にその距離を遠くして行き最終的には沖合数百kmに設置するようにすれば、どんな事故が起きても半径数百km以内の避難民に該当する人が出ないことになります。
ただし、以上来は単なる思いつきであって、昔ボリバー丸とか言う鉱石運搬船がポッキリ折れてしまったことがありましたが、船が一定以上に大きくなると波の動きによる力が船体各部に複雑に作用してこれに耐えられずに折れてしまうことになります。
陸上の人工基盤であっても同じで基盤が広くなればなるほど、地盤の揺れがその支持箇所ごとに違うので、そのひずみに耐えられずに人工基盤自体が壊れてしまいます。
この方面の研究・・材質強度化と波力を分散させる研究が進まないと海上に設置するのはまだまだ無理でしょう。
現在のように陸地に設置し、且つ配管類の固定支持基盤が建家その他の固定物ごとに違い、別々の支持基盤と一緒に揺れるパイプライン形式・・配管設備に関しては、対震装置の充実と言っても一定規模以上の大地震になると無理・限度があります。
格納容器やタンク類自体が耐震設計で震度8でも破壊されないようになっていても多数のパイプが格納容器に穴をあけて装備され外部に繋がっているのですから、これらの配管類に対する耐震基準が甘いままで地震で破壊されると、命綱の冷却装置が駄目になるし、破壊されたパイプラインのあちこちから、放射能に汚染された水が漏れだすのは当たり前です。
報道では、格納容器以外は一般の工場建設や建築基準法による基準で設置されていたとなっています。
今回の大事故は電源喪失だけではなく、既に配管系・配電系の亀裂・損傷等が先にあって容器内の水が漏れだしていたので、電源だけ回復してもどうしようもなかったことは、半年以上経過した未だに復旧(冷却水の循環)出来ないことからも明らかですし、損傷があったので原発建屋の地下に何千トンと汚染水が漏れだして溜まっていたのです。
9月22〜23日の検査で1号機の配管には水素が充満していることが分ったけれども、まだ濃度を測定来ていないとの報道がありました。
これも1号機で分ったと言うだけで、2号機以下も同じではないかと推測している状態・・配管系統は半年以上経過しても未だに手つかずのままと分ります。
逆から言えば、漏れだす分がなければ(蒸発した分だけしか)海水注入も出来ない・・冷やし切れなかった筈ですから、(この場合塩が固まってどんどん溜まって行って大変な事態になっていたでしょう)却って良かったとも言えます。

原発コスト23(安全基準3)

関係者が本気で原発の安全性に思いを致していたならば、自分の持ち場である各部各部ごとに「この部分が壊れたらどうなるか」この部分は大地震でどうなるかという具体的な検討をしていたはずです。
海水の汲み上げ装置のような遠く離れた装置でさえも壊れてしまえば、循環用のエンジンが動いていても原子炉から出て来た高熱の水?を冷やすことが出来なくなります。
大津波でなくとも海水取水口付近はちょっとした津波でもその影響を受けるのですから、それぞれの部署でそれなりの研究や代替品の用意をしておくべきです。
地道で具体的な心配や準備を一切しないで、象徴的な原子炉に限定した耐震性等の安全性だけ強調して40年間以上も済ましていたことが分ります。
こうした結果を見ると関係者には本当に安全性を検討する姿勢・気持ちがなく、うるさい国民をうるさい限度で安心させ、黙らせれば良い・・素人相手には象徴的な原子炉の安全性だけやってれば充分だという逆転した発想だったのではないかの疑問が生じます。
事故後の放射性物質暫定基準の設定の仕方や検査方法も消費者の健康を守るための目的に出たというよりは、(検査対象の野菜だけは良く洗ってから検査する指導など・・)業者がやれる程度の基準を決めて政府が検査しないと売れなくなるので仕方なしにやる・・業者保護が先ず目的にあることが見え見えなので、国民は信用しないのです。
埋め立て地の液状化現象で、千葉県浦安市のマンホールが、地表から数メートルも突き出している写真が出ていてご覧になった方が多いと思いますが、数メートル単位で上下左右ににガタガタと動いたら、どんなに頑丈にパイプラインが出来ていても大抵の継ぎ目でガタが来るでしょう。
原子炉格納容器のようにずんぐりしたものは、単体としてみれば鉄の塊のように頑丈に造れば震度10でも20でも耐えられるように造る気になれば造れますが、格納容器がガタガタ動いても内部は一緒に揺れれば良いのですが、それにくっついている・・外部から差し込んでいるパイプ類は他の建物や設備に固定されて繋がっているので、これらパイプ類は支持基盤ごとに別の動きをします。
支持基盤ごとの揺れのひずみ・誤差によってパイプ等の差し込み口でズレてしまうリスクが大きいのは目に見えた道理です。

原発コスト22(安全基準2)

稼働中の原子炉や使用済み燃料棒の貯蔵施設・プールでは水の循環で冷却していたのですから、この循環システムが壊れてしまうと、電源があっても3時間以内にその修理をして再開出来るかの問題に帰します。
一般家庭で言えば、停電しなくとも、洗濯機が壊れれば修理するまで動かないのと同じです。
装置が全面的に壊れている場合、(特に今回の場合)修理が短時間で出来ないことは直ぐに分りますから、3時間半以内に外部からどうやって格納容器に水を送り込んで冷やし続けて冷却装置の復旧までの時間を稼ぐかの問題になります。
(マスコミでは電源喪失・確保に焦点を当てて報道していましたが、実際には電源の補完だけしても装置は動かないので、平行して如何に早く冷却用の水を供給出来るかが、関係者にとっては焦眉の急だったことになります)
事故後半年以上経過したいまでも、100度以下の冷温停止状態に持ち込めない・・未だに蒸発を続け、放射能の拡散が続いている(・・これを遮蔽・封じ込めるためにするために建家の再建築を急いでいますが、これが年末頃までかかるという報道です。)ことから明らかなように電源喪失の問題ではなかったのです。
(1号機が約一ヶ月前に3号機が9月19日にようやく連続100度以下になったと報道されたばかりです)
上記の通り今回の大事故・・冷却装置故障→過熱によるメルトダウンや水素爆発は電源喪失によるのではなく冷却関連施設の破壊・故障・・その復旧作業が短期間では出来なかったことによることが明らかとなってきました。
関係者には地震発生と同時に分っていたことでしょうが、これを報道すると何故そんな単純な準備をしておかなかったのかの批判が起きるので津波による電源喪失という一点にしぼって報道しているのではないでしょうか?
ここで安全基準のあり方に戻りますが、ずんぐりしたカプセルみたいな格納容器は容器ごと揺れるようにしておけば内部は一緒に揺れるので震度8でも10でも理論的には対応可能ですが、配管類は建家その他各種周辺施設や地面に固定して伸びていて格納容器に繋がっているので、固定部分・支持基盤ごとに違った揺れをします。
ずんぐりした容器と違い、縦横に伸びていて支持基盤ごとに違った揺れをする配管類は地震に対する耐性が単体の格納容器とは違って格段に弱いのですから、これに対する耐震性こそを優先的に研究しておく必要があったことが分ります。
この研究・準備をせずに格納容器・お城で言えば、天守閣だけ残せば良いという発想で地震その他の災害に対する備えをして満足していたのですから不思議です。
天守閣だけの丸裸状態になれば、城主が腹を切る時間(原発で言えば3時間半)を稼げるだけであって、最早戦闘能力皆無と言うべきでしょう。
原発敷地内の諸設備は原発・原子炉を維持して行くために必要な設備ですから、冷却水循環用配管に限らずこれらに付随する設備全部が壊れても、丸裸の格納容器だけ残れば安全だという安全基準の設定自体がおかしかったことになります。

原発コスト21(安全対策の範囲1)

関係者が本気で原発事故が起きた場合を心配していれば、事故が起きた場合の手順についてどのようにするかについて予め検討することになるし、その検討の過程で、事故防止策・・事故があった場合の補完策が逆に提案されるメリットあったでしょう。
たとえばジーゼル発電の担当者にしてみれば自分の担当する発電機が故障すれば一定時間内で直せるか、修理部品が足りているかなどに気を配るでしょうし、送電ルートの発電所が故障で停止したり、送電線が切れたらどうするなど持ち場持ち場で対処法を予め検討していた筈です。
また、巨額交付金を貰っていた自治体では、「事前準備6(用地取得)」June 25, 2011までのコラムで連載したように、村ごとにまとまって避難するための用地取得など、事故の程度(ABCDのランク付け)に応じてどの程度の避難と言う、ランク別の避難方法を予め策定しておいて、そのランクに応じた避難方法・避難用車両の準備などを決めて、時には訓練しておけた筈です。
どこの自治体も具体的な避難訓練どころか計画すらなく、政府ももちろん何の予定もなく、ムヤミに避難勧告するだけで、避難先の指示もないし避難方法も準備しないので車のない人はどうして良いか分らないような無茶な避難指示でした。
これが今になって非難されているのですが、こうした避難訓練や非難先・避難手段の準備は巨額交付金をもらっていた自治体が、地域の特性を踏まえて住民の安全を図るべく事前研究・準備しておくべきものであって、中央政府が地域特性を踏まえて各地域ごとの避難経路まで考えておく必要はないでしょう。
政府も自治体・地方政治家も業者もみんな先ず原発を推進することに積極的すぎて、安全性に疑問を呈すると「(何でも)反対派」というレッテルを貼って、その矛先さえカワせれば良いという発想で終始し、(地元政治家は反対運動を利用して交付金増額要求の材料にするくらいで)事故が起きた場合の危険性に関する真摯な対応を考えていなかったことが今回の事故で明るみに出ました。
広大な敷地内にある周辺の燃料タンクやパイプ配管や配電設備など、どれが壊れても直ぐに全体の機能が停止してしまう点では同じ(必要だから設備がある以上)重要性があるのに格納容器だけ頑丈に造っていた(その他は普通の建築や工場の設置基準であった)ことも、今回の大事故で分りました。
原子炉格納容器だけ特別な耐震基準で頑丈にしておいても、地震の結果冷却水循環用に必要な配管が壊れてしまうと電源があっても安定的に冷却水の循環が出来ず、冷却停止が3時間半続くと原子炉内が過熱して燃料棒の溶融(メルトダウン)が始まるというのが原子炉関係のイロハらしいことが一般に分ってきました。
電源喪失は冷却装置停止の一原因に過ぎず、電源が仮にあっても冷却装置全体が壊れてれば冷却出来ない点は同じです。
東電・マスコミは何故こんな簡単な原理を無視して、電源喪失が原因であるかのごとく報道していたのでしょうか?

原発のコスト20(安全対策と事故処理マニュアル)

8月の夏休み期間中余裕があったので、(私はお盆休みをしないで事務所に出る習慣です)事務所に送って来ていた中央大学発行の中央ジャーナル掲載の論文を読んでいたら、30年前から大地震のないアメリカでさえ、電源喪失に対処する方策について研究が進んでいたと書いてありました。
これについて国会で質問された班目委員長が「それは知っているが、それについては業界できちんと対処するように指示している」(上記本を持ち帰っていないので、うろ覚えの趣旨ですからそっくりそのままの答弁ではありません)と答弁しているそうです。
原子力保安院は、業界に指示して業界が指示に従ってきちんとやったとしても、それで良いかをチェックする役所ですから、業界に対処しろと指示しておきましたと言うだけは存在意義がありません。
また同委員長は、浜岡原発訴訟の証人尋問でも、ジーゼル発電機を常時2台用意しておく必要がないかの質問に対して、
「一々心配して対応していたら採算が取れないので切り捨て行く・・物事には割り切ることが必要なのです」と子供のような質問をするなと言わんばかりの証言をしています。(この文言も記憶に基づくもので一字一句そのままではありません)
今回の大地震の余震(程度)であちこちの発電所が壊れて、あるいは送電網が壊れて青森県の東通原子力発電所でも2〜3系統あった全電源喪失が起き、予定通りジーゼル発電機が動き出したものの、その発電機が直ぐに故障して停まってしまいました。
もう一台の発電機は定期修理中で使えなかったので結果的に冷却装置が動かなくなってアワや福島第一原発同様の事故発生の直前まで行ったのですが、そのギリギリのところで1系統の電源が回復してことなきを得たらしいのです。
冷却装置が3時間半動かないと大事故になることは予めアメリカなどの研究で明らかになっていたらしいのですが、我が国ではそんなことはあり得ないと勝手に無視して、その先の研究・・もしもの電源喪失に対する対処マニュアルさえ用意していなかったので、イザ電源喪失してみると爆発阻止するために弁(ベント?)を開けるにしても手動で動かすマニュアルもなくどのように動かして良いかの検討から始まったようです。
勿論移動式の電源車の準備をしておらず、漸く準備して持って来てもどこに繋いで良いかの手順さえ決まっていなかったし勿論訓練もしたこともない有様です。
津波は想定外だったというのですが、今回程度の津波の高さ自体も地震学者による指摘がその前からあったのに、地震や津波に関して専門外の原子力学者らがこれを無視して、将来の研究課題として先送りしていたことも分ってきました。 
想定外のことだったのではなく、防潮堤のかさ上げや発電機などの高所移動にはコストがかかるので(そんなことを一々気にしていたらやってられないと言う姿勢で)無視していたたことも分ってきました。
また、上記の通り津波を伴わない単なる余震(東通の場合は震度4前後ですから我が国ではどこでもしょっ中ある地震です)だけでもあちこちの発電所が自動停止してしまい、東通原子力発電所に電気が来ない状態が何時間も続いて自家発電装置も止まり、もう少しで福島第一原発並みの大変な事態になる寸前まで行っていたのですから、大津波に関係なく電源喪失=冷却装置の停止リスクはしょっ中あり得る事態だったことも分ってきました。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。