国(くに)とは?6

明治4年の岩倉使節団に対する明治天皇の署名御璽のある全権委任状(翌5年)を国立公文書館保管のヴィクトリア女王宛の国書委任状原本の写しをネットで見ると第1行目に

「天命に則り万世一系の帝祚を践みたる日本国天皇睦仁敬て・・・」

と書き進んでいます。
最後の睦仁の署名の下にある印璽は「大日本国璽」と読めそうです。
これによると明治5年には、「日本国」の表記が公式に行われていたことになります。
ついでに書きますと、明治21年の明治憲法の前文と第1条の骨格がすでにここに表れているのは興味深いものがあります。
参考までに一部引用します。
明治憲法前文

朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ万世一系ノ帝位ヲ践ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ其ノ康福ヲ増進シ其ノ懿徳良能ヲ発達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履践シ茲ニ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム・・・・
御名御璽
明治二十二年二月十一日
第1条大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス

「万世一系の帝祚を践み・・」という表現は天武天皇に始まるようですが、天武天皇自体の出自に論争があることは周知の通りですが、いずれにせよ光仁天皇以降は天智天皇系に戻り万世一系で間違い無いようです。
歴史論争とは別にしても明治政府は、記紀記載の万世一系の天皇論でやって行くことに決めていたのでしょう。
倒幕運動の大義に義理のない一般人にとっては、日本列島に住む人を総称する用語として素直に考えると、民(たみ)のままで良いのですが、漢字表示するには2文字漢字にこだわる民族性に合わせる必要があります。
これまで見てきたように、大宝律令の頃から日本列島民族の支配する領域を「日本国」と認識していたとすれば、民を表現する2字熟語としては・・権力に敵対するイメージの強い人民というのは極論なので「国の民」として穏当な国民という用語が良識派によって使われるようになっていたのかも知れません。
日露講和条約反対の日比谷公園での集会はウイキペデイアによれば「国民集会」という名称だったらしいですから、当時の暴徒もロシアとの講和反対というだけで、政府打倒の集会ではないので人民大会とは表現しなかったようです。
このように国民とは「ある国にいる人」を表現する単語であり、人民とは支配される対象としての人間の表示ですから、対になる単語ではありません。
ですから明治政府は日本国民は「人民ではない臣民だ」と反語的に言い返したのでしょうか?
今なお人民を愛用しているのは、中華人民共和国と朝鮮人民民主主義共和国の二カ国のみです。
(ベトナムは共産主義政党の一党独裁国家で中朝とほぼ政体が同じですが、社会主義共和国であって、人民という名称がなぜか入っていませんが、軍は人民軍と称するようです。)
朝鮮人民共和国の人民はどういう扱いを受けているかを見れば、人民にこだわる体制の意味がよくわかります。
中国社会は、中東由来の商業都市国家から始まったことをこのコラムで書いてきましたが、その後の農業社会化の進展で城壁外の土民も支配・搾取対象になってきたので、支配対象として定義づけてきた歴史しかありません。
もともと日本のように同胞から始まっていないので、国民という単語に馴染めなかったようです。
今でも国名を中華人民共和国といい人民日報、人民軍、人民元などあくまで「人民」にこだわっています。
中国では、言語表現は別としても、同胞意識など全くないし、国民を支配対象としてしか見ていませんので、支配に必要ならいくらでも非人道的弾圧可能社会でやってきた歴史です。
国民?の方も、「上に政策あれば下に対策あり」と言うように、国益など問題にしない私益追求第一の生き方です。
https://docs.google.com/document/d/1B_k-2lcstvNhZWWRqkWpEo0Evf1mJlU7NLjlDEZOEak/edit引用の続きです。

「上に政策あり、下に対策あり」がみられる原因は主に以下の4点と考えられる。

引用省略しますが、私の個人解釈ですが、中国人には公の精神が育っていない・・私益追求欲が公益に勝る印象です。
これは政府の人民に対する態度が態度・・政府に敵対する勢力→敵視政策だから、人民も政府敵視の人民のまま・・国益や公益を考える気がしないというと相関関係があるのではないでしょうか?
権力者の方もいざとなれば生身の人間を戦車で踏み潰して弾圧するのに躊躇しない歴史であり、その延長で行なった天安門事件で世界を震撼させました。
世界の反応に中国政府自体が驚いたようですが、今回の香港騒動で中国が天安門事件以来隠してきた本性を表すか忍耐できるかのギリギリの攻防が続いています。
香港の人命を守るために香港人が自国民保護こそが最大使命とするべき自国?政府に頼るのでなく、外国政府・・米国を代表とする欧米の牽制に期待するしかない滑稽な状態です。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC