円高差益還元2

現在でも年金給付に関しては物価変化に合わせて支給額を上下出来るスライド制になっているのですが、政府が大衆迎合的に、長年(約20年に及ぶ)のデフレ分に合わせた給付引き下げを停止したままにしていて、この分も年金赤字増加の原因になっています。
デフレになって名目支払負担金拠出額が減れば支給も同率で減らすしかないのが当たり前ですが、(例えば物価が半額になり給与も半額になれば生活保護費や年金、子供手当なども半額にしないとバランスが崩れます)支給額だけそのままにしていると収支アンバランスになるのは当然です。
我が国の場合、既存労働者の人件費が下がらないので彼らに関しては年金や保険等負担額は変わらないとしても、その代わり新規採用を抑制する結果正規雇用者が減り続け、非正規雇用広がって行くと、総体としての総人件費が下がる・・国民負担額が減って行くのは当然です。
年金赤字問題は天引き給与者・支払者の減少に基本的構造問題があって、少子化の問題(これは主として将来の問題です)だけではないとSeptember 29, 2010「高齢者早期引退と若者正規雇用(1)」・・最近も収入源が労賃よりは資本収益比率が上がっているテーマ「海外収益還流持続性1(労働収入の減少1)」で5月5日に
書いたことがあります。
非正規雇用者に保険加入強制して年金・保険料等を徴収するようにしたいのが政府の方向性ですが、そうなっても、彼らの収入が低いので、大したことにならない・・結局年金や保険等の収入は、日本総全体の人件費・支払額にかかっています。
グローバル化以降中国等の低賃金国との競争上、正規雇用者の賃金は下げる必要があるもののこれが出来ないので、新規雇用を抑えて非正規化することによって総体の平均賃金の低下を目論んで来たのですから、日本総体の賃金総額はバブル期に比べてかなり下がってることは明らかです。
(減った分は資本収益・・これは年金や保険の原資になりません・・で補っていることを書いてきました)
それなのに各種給付(年金に限らず医療保険その他も同じです)だけはそのときの基準のままでは、収支の計算が合わなくなるのは当然です。
すべからく為替連動性にすれば、為替変動に対して中立・収支のバランスが取れて公平です。
輸出品を為替変動前のドル価格で売っていると、円高になれば、その分円の手取りが減りますので給与水準がそのままになっている企業が苦しくなるのですが、保険や政府収支もデフレで名目収入が減れば、保険・年金支払者も減るし納税者も減ります。
この逆をやりたがっているのがインフレ待望論で、物価が2倍になっても給与や年金等支給額借金(政府債務)返済額がそのままなら支払う方が得すると言う前提です。
言わば、円安・インフレ待望論も為替相場に給与その他の支給額を連動させない不公正な仕組みを前提にした議論です。
為替相場によって差益のある方と差損のある方がありますが、為替が上がったり下がったりの繰り返し・・5分5分なら公平ですが、我が国の場合、ずっと円高傾向ですから、一方的に企業や組織(政府など)の下方硬直性のある支払側が不利で従業員や需給者が得する関係が何十年も続いてるのですから、結果不公正に違いないでしょう。
円安・即ち国力低下を期待(為替相場は経済力で決まるので期待すれば円安になるものではありません)するよりは、為替変動に対する中立制度の構築努力こそ現実的ではないでしょうか。

構造変化と格差35(円高差益還元1)

アメリカや韓国みたいに極端に市場経済化一辺倒で非正規雇用を増やして賃下げを実現するのはどうかと思いますが、我が国のやり方はすべての分野で時間がかかるものの微温的変化でこの程度は円高進行によるデフレ(実質賃上げ効果)と相俟って忍耐の範囲と言うべきでしょう。
我が国はこの後で書いて行きますが和魂洋才・・欧米価値観に真っ向反対することも出来ずある程度合わして行くしかない社会ですから、ま、付き合いとしてこんな程度と見るべきでしょう。
本来の「絆」、痛みの分ち合いであれば、既存労働者も円高差益分の給与引き下げに応じてみんなが就職出来るようにするのが理想的ですが、絆が大切とは言うものの自分の給与下げは1円でも応じたくない人が多いので、自然退職を俟って新規採用を抑える・・必要分は非正規雇用化して解決するしかなくなっています。
今回の大震災でも絆が大切と良いながら、そのための増税・・廃棄物引き取りはいや・・と言う人が多いのが困ったところです。
為替相場によって経済が振り回されないようにするには、円安になればその分賃金を引き上げ、円高になって実質賃金引き上げになった分を自動的に引き下げるのが合理的です。
(電力料金が為替・原油相場で自動変化する仕組みが大分前から導入されていますので賃金も技術的に出来ないことではありません。)
これをしないまま差益を取り得にしておくことに無理があります。
これまで何回も書いているように、為替相場は上がっても輸入品が下がるなど経済的には中立ですが、国内に差益のあるグループと差損のあるグループが生じて、その調整が出来ない・・不公正を放置する前提だから円高が企業に不利に働くのです。
円高傾向のときには従業員が円高差益を懐に入れて企業が損する仕組みですが、ここを抜本的に正常化することが必要です。
これが正常化しないままに放置するのは、一種の不公正の放置ですから、公正さを求めて差損のある企業は海外に逃げるしかなくなってしまいます。
企業が逃げると雇用が減る・・ひいては社会保障給付を受ける人が増えるのに負担する現役労働者が減る→いよいよ企業負担が増える→海外に逃げる企業が更に増える悪循環でこのままでは国力が疲弊する一方です。
年金や社会保障の赤字の大きな原因は、年金や保険料の支払い者不足に帰する・・その原因は少子化というよりは失業者増(支払者から失業保険や生活保護受給者への変換・子供手当など受給者増)ひいては正規雇用者減(支払者減)にあることは明らかです。
この点に着目して非正規雇用にも保険加入を義務づけようとする動きが出て来たのですが、企業にしてみれば、正規雇用と同じ負担では人件費比率が高まってしまいます。
企業にとっては既存労働者の給与引き下げ出来ない分非正規雇用者と混ぜることによって全体で人件費比率を引き下げようとして努力してきた意味がなくなります。
正規・非正規の格差をなくすためには、(正規の水準を非正規に合わす・・あるいは双方賃金が歩み寄るなら問題がありませんが・・)全体として円相場に対応した給与水準の連動制度を作らない限り無理・・海外脱出しかなくなってきます。
たとえば毎年4月1日あるいは半年経過ごとに、前期の円相場を(計算の仕方はいろいろでしょう)基準に自動的に前期末給与を改訂し、これを基礎にしてベースアップするかしないかを企業の業績ごとに自分たちで決めて行けば公平です。
為替連動性にすれば円相場に企業が一喜一憂する必要がありませんし、円安期待やインフレ期待など無駄な(非生産的)議論がなくなります。

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