独裁と結果責任主義2

結果責任主義の場合、成長を続けていれば被支配者には文句ないのですが、成長が鈍化して来るとこのやり方では無理が出て来ます。
世上中国にとっては、7%成長が政権維持の最低ラインと言われていた所以です。
これは古代から全ての階級社会共通の現象です。
この数年実質的にはこの成長を維持出来ていないので、国民不満が徐々に強まっていて(外国向け統計は誤摩化せても実際に生きている庶民の懐具合が悪くなっている不満を統計で誤摩化してどうなるものでもありません・・)その影響で先ず支配階層内部できしみが生じてきました。
この辺は昨日25日に書いたとおりで、独裁政権では100%お任せの代わりに結果責任を厳しく問う社会ですから、逆説的ですが民意に敏感です。
専制国家では、庶民は唯々諾々と従うだけで思考する訓練が出来ていませんが、権力階層内では、権力交代予備軍が必要ですから、支配階層は自己判断の訓練を受けているので、成果が上がらなくなくなって来ると現権力者の政治に対する不満が出て来ます・・。
これに対する対応が、習近平政権成立直後から始まった粛清の嵐に繋がっていると見るべきでしょう。
ソ連も、経済政策失敗でうまく行かなくなるとスターリンによる粛清が始まり以後4〜5十年間何も言えない状態が続き、収容所列島と言われていました。
庶民自体指示を待っている状態に訓練されている状態では、被支配層に言論の自由がなくとも不満が起きませんが、(むしろ果敢な支持・命令をくれないと不満が起きます・・スポーツその他現場指揮官は果敢な、分り易い指示を出すことが重要です)逆に支配グループ内である程度多様な意見交換がないと政権が脆くなって行きます。
ソ連は対外的には、カクカクたる成果ばかり強調していましたが、虚偽発表の限界がきて遂にソ連崩壊となり、結局自由主義国の進歩に大幅に遅れてしまいました。
余裕があれば政権に遠い庶民も大事ですが、近衛兵のクーデターがいつあるかと言う段階になって来ると関心が権力周辺組織固めに集中しますから、側近層幹部の利権を守り政敵の利権殺ぐのに精一杯で遠くの庶民の面倒はあと回しになります。
逆に庶民から資金を吸い上げて側近幹部クラス関与企業等の保全や延命を計りたくなるのでしょう。
マンションなどを庶民に高値でつかませてしまってから値下がりして庶民がいくら困っても長期的にボデイーに利いて来る程度ですから、目先の政権維持に必死の政権は超短期的政策として庶民救済を重視しません。
目先の共産党幹部間の権力争いに有利かどうかで政策判断をして行くしかない状態に陥っているのが習近平政権ではないでしょうか?
粛清し放題で向かう所敵なしと言う面を外部あるいは政権内部から見れば最強政権とも言えますが、政権全体では硬直性が進み危機状態が極まっている結果の現れとも言えます。
経済政策では、国民全部底上げは無理になって来た現実を踏まえて、権力に近い幹部の関与する国有企業の経営権維持が先ず第1の目標になります。
昨年来の政策を見てると、時々政府資金投入でバブル再燃させることによって、投機心の高い個人にまだもっと儲けられると期待させて、在庫(マンションや株式)の多くを末端個々人に売り抜けさせる目的のように見えます。
実際に今年前半には値上がりした株を元手に多くの不良企業が持ち直して不良債権が減少して金融機関の業績が急上昇している・・助かっています。
不振企業も相場上昇前提に新株発行によって巨大な資金を手に入れたようです・・この分、庶民から企業への所得移転が進んだことになります。
この逆で6月以降の株価下落で新株発行(資金吸い上げ)はぴたりと止まっている外、大半の株が売買禁止状態ですから、資金流通が阻害されています。
「売買禁止とは荒っぽ過ぎるやり方ですが、株式市場が何のためにあるか、資本取引の場である以上これが戒厳令のような命令で取引停止にするとその影響が(高速道路の通行禁止のように)目に見えないだけあって尋常ではない筈です。
株価上昇で一息ついていた企業が今後酸素・血液不足になって来るでしょう。

独裁と結果責任主義1

中国では、底堅いと言われていた上海でもマンション価格が昨年秋頃には下がり始めたことに危機感を抱いていました。
マンション価格下落が全国的に進行している現状に打つ手がなくなってしまい、国有大手企業ばかりではなく中小企業も放置出来なくなって来たことと、ローン金利引き下げや2戸目購入に対する規制緩和するなどによって何とかマンション購入意欲を引き上げに誘導したい意図が見え見えです・・バブル破裂の先送りを策していると見られています。
この辺は昨年夏から秋に書いておいた原稿ですが、その後の経過はこのシリーズで書いているように、今年5月までの短期間に3回も次々と金利引き下げ・・6月以降の株価下落では、各種金融緩和をするしかないほど追いつめられています。
投資家・投機家?とすれば、困って来れば政府が次々と手を打ってくれるので、その間に儲けられると思って、再参入する人が増える・・景況感悪化が報道されると却って政府のテコ入れ期待でマンション購入が増えたり株が上がったりする国民性です。
採算割れで海外投げ売りによって企業業績悪化が鮮明になっているのに、景況感悪化の報道があると逆にこれを理由に政府テコ入れ期待で上海株が逆に急上昇する不思議な国です。
原発事故後に整理ポストに入った東電株式など、その段階から大儲けしようとハイエナのように群がるプロ投資家心理が知られていますが、中国では庶民までこれに競って参加する社会です。
欲深と言えばそれまでですが、これまで書いてきたように専制制度の下で2000年も生きて来たので、「権力は何でも出来る」・・権力の崩壊は何百年に一回で・・それは滅多にないので、権力者や君主の顔色を見て先を競って行動していれば自己保身や金儲け・・出世に繋がると言う生き方が骨の髄までしみ通っているからかも知れません。
政府が株式相場を上げようとしていると知れば我先に買いに走る・・大方損はない・・政府が手じまいしようとしているとなれば、我先に売り逃げる・・この辺で政府がテコ入れしそうだとなればまた買いに走る・・こう言う生き方です。
政府の煽りとおりにして来た以上は、結果が悪かったら政府に責任をとってもらいたいという意識が強くなるようですから、独裁政権・強力なリーダほど責任転嫁出来ないので、被支配者の不満に敏感にならざるを得ません。
我が国で言えば消費税増税による景況感悪化に関してはむしろ安倍政権に同情的世論でした・・その違いを見れば明らかです。
民主国家では思うように行かない分政権の責任も軽くなる・・安全弁になると言う実例です。
もちろん・・指導力がなくて何も決まらないとそれはそれで国民不満が生じてきますので、民主国家ではその塩梅が難しいところです。
自己責任の原理は・個人の主体的判断によって生まれて来るものですから、何事も強制による社会では、主体的判断が許されない・・訓練のないところに自己責任の思想は生まれないでしょう。
個人の主体的判断によって行動する社会では、行動の結果は自分で負うしかない・他人の責任に出来ないので政府責任もありませんが、その判断の前提たる情報が判断を左右することから、その加工や隠匿に対する責任追及社会になります。
民主主義・自由主義社会では、情報透明性が重視される所以です。
他方政府の言うとおりで良い社会では、情報の透明性需要がなく、むしろ政策の強制性に頼っている状態ですから、(統計がデタラメでも)何の不満にもなりません・・「言うとおりする代わりに結果責任とってね・・」と言うのですから・・。
スポーツその他強いリーダーシップが要請される分野では、民主国家においても結果責任主義です。
強いリーダーシップを求める社会では、庶民の方は何も考えずに将棋の駒のように動くだけですから気楽と言えば気楽ですし、言わば能力差や階級差の激しい民度の低い社会向きです。
サムスンなどでは、決断が早いと日本マスコミが賞讃しますが、合議する習慣のない社会ではそれで良いのです。
大量生産の1万人単位の大工場の誘致で成長する段階では、この種社会の方が効率が良かったでしょうが、一定以上の賃金になってこの種工場が低賃金国に負けて来ると、次の段階に進むには、個人の工夫能力等が重要になってきます。
日常的に主体的判断している社会かどうかでこの差が出て来ます。
中韓では大規模工場があっても、中小企業の存在感が少ない所以です。
大企業はサイバーテロや技術者招聘・引き抜きなどで、先端技術を導入出来ますが、中小企業の方はこんなコストをかけていては成り立ちません。
旧ソ連では、人工衛星を飛ばせたのに、日常的な製品であるクルマ1つマトモニ作れなかったのはこの原理によりますし、今の中国も同じです。
ただし中国地域では、古代から商業社会・・都市国家製で始まっているDNAがあるので、商業面での個人才能を侮れないことは大分前から書いています。
中国が商業国家から始まっていることについては、12/14/05「海路の発達と中央アジア交易の縮小」前後を参照して下さい

中国の過大投資調整16と個人の弱さ1

昨年末からの上海株急上昇は、(ただし6月中旬以来急落し今は相次ぐ売買規制によって小康状態ですが・・・その内たまったエネルギーが却ってダム結果のエネルギーになるでしょう)これまで書いているように政府が積極的に参加を奨励し煽っている結果でもありますが、国民性向も大きな影響がある・・両々相俟っていることによるでしょう。
我が国でのバブル退治のためには、不動産業への融資規制が始まりでした・・不動産投機過熱規制の手段として、不動産業界に絞ったトリガー融資規制・・金融引き締めするのが普通ですし、これが一番効き目があることを2015-5-18「中国バブルの本質(マンションバブル1)」に書きました。
中国では不動産過大投資だけではなく製鉄や石化製品、セメント等基礎資材に始まって鉄道に至るまであらゆる分野で過大投資の咎め出ているのですから、全般的に効き目のある金融規制こそが有効な社会です。
過大投資が始まったときこそ金融引き締めが有効ですが、過大投資の効果が現れてバタバタと倒産する状況になってからの金融引き締めは遅過ぎて逆効果です。
水に飛び込む人を飛び込む前に足を引っ張って止めるのは有効ですが、飛び込むのを放っておいて飛び込んでしまって溺れかけている人の足を引っ張ると本当に溺れてしまいます。
中国では、国威発揚が主目的ですから、バブル化して来てもこれが怖くて規制するどころか、過大投資の再拡大による基礎資材の需要拡大の後押ししてずるずるとやって来たことをこれまで書いてきました。
この先送りの終着点に個人参加を煽っていた異常さをここから書いていきます。
中国では企業規制よりは2戸目以上のマンション購入規制等をきつめにしたり緩めたりしているのは、個人の投機規制をすると企業が参ってしまうので、企業側の悲鳴にあわせて需要拡大のためにこれを緩めたりしているのですが、他方で投機活動の主役は個人であることを前提にしたものです。
末期症状を呈している経済状況を無視して、株式バブル相場に庶民に至るまで熱中している「株未亡人」様子を5月12日に紹介しましたが、中国人が地道な努力よりは投機傾向が高くなっているのは、2000年にわたって政府と国民の信頼関係が育っていないことによります。
・・むしろ政府不信を基礎にしている国・社会構造の経験しかないので、目先の金・・儲けられるときに目一杯儲けておきたくなるのは仕方のないことです。
大分前に律令制導入のコラムで、我が国では墾田奨励のために3世1身法その他で私有地の世襲を認める方向になったなど我が国の国民性に併せて制度が大幅に変容して来たこと・・科挙制は始めっから採用しなかったことなどを書いてきましたが、中国・朝鮮族の場合、こう言う変化がなく律令制のまま辛亥革命と日韓併合までやって来た・・やって来られた(程度の国民性)ことも精神構造に大きな影響を及ぼしていると思います。
科挙制の徹底は、高官の地位世襲がない点では今風の合理性がありましたが、どんなに出世しても1代限りで没落して行くのがこの制度です。
運良く出世出来たとしても、讒言や皇帝のご機嫌次第でいつイキナリ失脚するか分らない制度下では、(専制君主生徒は合理的基準がなく・・君主のご機嫌次第で失脚する制度です・・だからこそ正義や道理よりは讒言競争で勝てば良いという意識構造になります)蓄財出来るときに最大限の蓄財に励むこと(今の裸官の先祖)が最大の自己保身になります。
農地も官位も何もかも世襲出来ない制度下・・日本の班田収授法のように政府が農地を配給してくれる制度では、50年〜100年かけて耕地の地味を良くする努力や、50〜100年後に育つ植林事業や、自然の回復力を期待して環境を大事にする意欲が育たなかったのは当然です。
世襲してこそ同じ土地に住み着き動かない・・人間な関係を含めた環境重視にならざるを得ないのですが、農地の配給制ではどこへ行くかも分らない・・数百年後に子々孫々に恥をかかせる訳にいかないと言うような道徳意識も育ちません。
先祖伝来の農地に住みつかない農民は、風が吹けば飛び散る砂粒のように弱い存在ですし(このため王朝末期に政情不安になると簡単に流民化します)、官位を世襲出来ない高級官僚も風が吹けば飛ぶような存在です。
杜甫の祖父(杜審言)が皇帝の身近にいた高官でしたが、孫の杜甫の代になると食うや食わずになるのです。

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