労働収入の減少3(若者が苦しい原因)

ところで、次世代の労働収入が少なくなっている・甲斐性がないのは、次世代だけの責任でしょうか?
労働需要が一定のときに、定年延長をすればその分若者の職場が奪われる関係にあることを、0/01/03「ゆとり生活2」や01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」その他で連載したことがあります。
ただし、定年延長により不当に職場を奪われているのは、従来の定年時期の55歳から65歳前後までの人が働くようになった約10年分だけになります。
ちなみに、日本全体で労働力不足ならば、外国人を入れたり高齢者や女性をもっと働かせれば、国力増進ですが、労働需要減退の結果、失業率の上昇に困っている現状で、労働力の増加・・高齢者の隠退を1年送らせれば、その分だけ若者の職場を奪うことになるだけです。
同じ率の失業者ならば若者を失業させるよりは高齢者を遊ばせておく方が日本のためになるという意見を01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」のコラムで書きました。
・・アルバイト等の非正規雇用世代を養っている60代後半から70代前後の多くの親世代の収入は、過去の蓄積(年金を含めた)で生活しているのであって、(最早働いていないので)次世代の仕事を奪って生活しているのではありません。
次世代の苦境は、日本から労働需要自体が大幅に縮小し始めたことによるところが大きいでしょう。
労働需要縮小は、日本が先に発展したことによる高賃金化の結果、労働市場での国際競争力を失った結果であり、親世代の責任でもなければ次世代だけの責任でもないことです。
これは世界の発展段階のなせるワザであって、次世代にも適応能力として労働需要縮小を緩和するために努力・寄与すべき分がいくらかあるとしても、現在の苦境は次世代の適応能力不足が100%とは言い切れないでしょう。
このシリーズでテーマにしている労働収益から資本収益への変化を見ると、次世代の責任というよりは世界の構造変化によるところが大です。
労働需要縮小がどちらの世代責任かはさておいても結果としてみれば、今の若者は親世代に比べて親世代の恩・扶養を歴史上最大に受けている関係で子世代が損をしている関係ではありません。
世代間対立を煽っても前向きの解決にはなりません。
親世代が高度成長期に儲けた利益を海外投資していることによって、その収益で現在日本の次世代生活費の多くを賄っている・補助しているのであって若者の職を奪う関係にはなっていません。
非正規雇用等で月額15万円前後の収入で40万円前後の水準で生活が出来ているのは、親世代から現金の援助がなくとも親の家に同居して家賃が不要になっている・・親の資産収入によるものです。
もっと言えば、本来中国の労働者と同じような単純作業でありながら中国人労働者の約10倍の賃金を得ているのは、その差額・・9割分は海外からの資本収益=先人の蓄積による援助・・食いつぶしによるものです。
エルピーダメモリがついに倒産しましたが、ここに至るまでにはそれぞれの親企業の過去の儲け・蓄積を投入し続けこれも限界になって・・09年には公的資金が300億円つぎ込まれたものの、ついに支え切れなくなったものです。
この間の従業員は結果から見れば長い間に先人の蓄積した企業利益や国費としてつぎ込まれた資金と同額だけ、自分の働き以上の収入を得て来たことになります。

個人の自由と周辺援助

 

こうした考え方・・親や周辺は関係ないとする風潮に変化した結果、刑事事件はほぼ100%国選になり(窃盗や傷害事件を起こす本人に金がないのが普通ですから、自分で弁護士を依頼するお金はありません)離婚その他も(乳幼児を抱えた若年者の場合フローの収支にいっぱいで男女ともに資金力・蓄積がないのが普通です)から、お金のない若い人はどこに相談して良いのか困ってしまいます。
昭和年代までは子世代が困れば親が、親に資力のない場合叔父叔母が世話し、あるいは雇い主が弁護士のところに連れて来たのですが、こうした親族あるいは周辺助け合い風土が消滅してしまう社会はどんな風景でしょうか?
中高年者でも2〜30万円の一時的なお金を出さねばならない時に、これすら用意出来ない困窮者がいます。
これは言うならば人生競争の敗者に限定されるでしょうが、世代別に見ると若年層の場合、将来のエリートでもほとんどの場合まだまとまった資金の蓄積がないでしょうから、ちょっと困ると(将来のエリート候補生が傷害事件など不祥事を起こすことは滅多にないでしょうが・・・)
いろんなことに関して相談出来ない・・・例えばお金に困れば親や親戚に相談出来ず、サラ金に走るしかない時代が来たと言うことです。
昭和50年代から消費者金融が爆発的に広がった背景でもあるでしょう。
結婚相手も就職先も自分で探すしかないし・・・年齢に応じた智恵が必要な分野は今でも多くありますが、こうした年長者知恵者の協力を得難い時代です。
(その分、周りに聞かなくとも良いようにネット検索が発達しましたが・・・ネットだけでは、就職情報も結婚情報も上っ面しか分らないのが原則です)
若者全般及びその他世代の弱者が周辺から援助を受けにくくなって来る・・・・逆から言えば、若者の独立性が高まったと言うことですが、恋愛自由や思想表現の自由の恩恵を受けるのはそれを使いこなせる能力のある優秀な人だけだと繰り返しこのコラムで書いて来ました・・・。
みんながみんな自由にやれるだけの能力が高まっていれば良いのですが・・・自分で何もかもやれる能力のない人(これが大半でしょう)にとっては、「あんたの勝手だよ・・」と放り出されるのは不幸な話です・・法的あるいは各種サービスから取り残される時代が来たことになります。
若者が得た自由に対応する能力がないことが多いのに、親世代や成功者が「今の若い人には口出し出来ないから」と言う口実の元に若い人が困っていても周りで援助してやる習慣がなくなってしまい、放っておけば良いとする・・言わば中高年層が地位相応の社会的責務を果たしていない時代になった感じです。

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