国民を犠牲にする社会3(中国人の論文から)

中国では、下記論文の記載では、政府赤字は3%程度しかないとなっているものの、労働者からの税による吸い上げよりも労働者への給付分の方が少ない・・言わば所得再分配の逆をやって来たことこそ大問題です。
昨日紹介した韓国の家計部門赤字拡大政策と方向性が同じです。
韓国の中国へのすり寄りに関心が集まっていますが、基礎的な政府対国民の関係の基礎・・国民犠牲の上に、不満を対外野心でそらせる政策方向の酷似性に注目すべきでしょう。
この辺は5月24日紹介した唐成氏の論文に(24日はこの部分は関係なかったので引用していません)データで紹介されていますので、一部をここに再引用しておきます。
グラフ等いくつもあり詳細・膨大ですので、関心のある方は以下に直接アクセスして下さい
https://www.andrew.ac.jp/soken/pdf_3-1/sokenk186-2.pdf

* 小論は2010年度アジア政経学会西日本大会(京都大学)の共通論題『世界経済不況下のアジア経済の 躍動 その経済構造と政府の役割』の報告内容を修正したものである。
1.は じ め に
・・・(4兆元投資による回復・下支え効果を書いている部分が先行しています・・イナガキ注)・・・・・しかし,中国はもうこの「100年に一度」と称される世界金融危機(リーマンショック・・稲垣注)から抜け出したのであろうか。その答えを探るためには必然的にこの間の景気悪化は「金融」危機による影響であったかどうかという問いにたどり着く。その答えは否である。中国経済に世界金融危機と 呼ぶべき事態が到来したというよりも,輸出低迷という外需の急激な減少によって経済環境 が悪化したのである。それは中国経済の外需依存型,労働集約型モデルを反映した結果に他ならない。したがってこの原因を本質的に解消しなければ,中国経済の危機は去ったことにならないのであろう。
では,世界経済危機は中国経済にいったい何をもたらしたのであろうか。それはグローバル経済化が進む中で輸出依存型の成長モデルは高いリスクを持っていることを証明したのである。言い換えると,これまでの経済成長方式を転換していく必要性の警鐘を鳴らしてくれたのである。
以下省略
2.中国経済の成長パターン
2・1省略
2.2 GDP 成長率への寄与度が低くなった消費項目
ここでは,需要サイド(支出面)からみた1978年以降の GDP 成長はどのような特徴を 持っているかを明らかにしてみる。需要サイド(支出面)からみた GDP は次の(1)式のよ うに示される。すなわち,
GDP=最終消費支出 (家計最終消費支出+政府最終消費支出)+総固定資本形成 (民間投資+政府資本形成+在庫投資)+純輸出 (輸出-輸入)
    ( 1 )
(1)式をもとに作成した表1からは,最終消費支出の平均成長率は一貫して低下し続けて いるという大きな特徴が得られる。より具体的に言えば,最終消費支出の比率は1978~1991 年の5.9%から1992~2001年の5.7%へと低下し,2002~2007年には4.2%へとさらに大きく低下したのである。
・・・2000年以降,中国経済の牽引役は消費から投資へと次第に変わっていくので ある。他方,貿易による経済への貢献も2000年代以降顕著に表れている。このような特徴は 表2の高度成長期における日本と中国の経済パフォーマンスの比較からも明白である。それによれば,日本は1956~1970年の平均 GDP 成長率は9.6%のうち,内需による寄与率は9.9 %であるのに対して,外需は-0.2%にとどまっている。他方の中国は1992~2007年の平均 成長率は10.5%であり,そのうち,内需は9.7%,外需は0.8%である。・・2000年以降の中国は,日本の高度成長期よりも貿易拡大を通じて,経済成長に大きく貢献していることがわかる。
中国の家計消費支出の低さは国際比較しても一目瞭然である。図3は,日本,中国,イン ド,タイ,インドネシアの諸国との比較を示している。それによると,日本はバブル経済崩 壊以降も家計最終消費支出の GDP に占める比率が緩やかに上昇していく傾向にあることが わかる。また,インドネシアとタイも消費支出の比率がきわめて顕著に動いており,2008年にそれぞれ順に57.8%,55.9%となっている。しかし,他方の中国の家計消費率は極端に低 く,2008年にわずか34%にとどまっており,諸外国の半分程度の比率となっている。2008年 中国の1人当たり GDP は3403ドルで,タイの3940ドルに及ばないものの,インドネシアの 2237より1000ドル以上も高いのである。このように,1人当たり GDP からみても,中国の家計消費率の低下は異常というほどである。
3.なぜ家計消費率が低下したのか
3.1 予備的貯蓄動機の強まり・・省略 (家計債務が増える一方の韓国とはこの辺が違います・・人民の強さです・イナガキ注)
3.2 労働分配率の低下
次に,労働分配率の側面から,家計消費率の低下要因を考察してみる。すでに(2)式でも わかるように,国民所得に占める家計部門の比率が低下すれば,家計消費率の低下をもたらすと考えられる・・・・・・・・・・・・・・・・
家計部門の第1次所得は主に雇用者報酬である。表5は分配面から見た GDP の各項目の 構成比の変化を示している。その構成比をみると,雇用者報酬は1997年の52.8%から2007年 の39.7%へと大きく低下した。名目 GDP に占める雇用者報酬の割合を労働分配率とすると, 10年前に比べて,その比率は13.1%も下がっている。その背景には,営業余剰が同時期の 18.0%から31.3%へと大きく上昇したことによるものである。また,純間接税もこの間に1.6 %を上昇している。
次に,国民所得の再分配から家計と政府部門の可処分所得の構成変化の原因を探ってみよ う。同じく表4によると,家計部門の可処分所得の比率は,1996年の69.3%が最も高いが, 2008年には57.1%にとどまっている。可処分所得と第1次所得の割合の推移をみると,1990 年代の可処分所得は,第1次所得よりも平均3%ほど高くなっており,家計部門が支払う税 金や社会保険料よりも政府部門から受け取る社会保険金,その他の移転所得の方が大きくな っていたといえる。しかし,可処分所得の第1次所得に対する比率は,1999年の103.3%から2000年には100.7%と大きく低下し,2000年代に入ると100%を割り込んでいることが多く なった。これは2000年代以降,政府部門からの移転所得よりも家計部門から政府部門への税 金や社会保険料の方が大きくなっていることを反映している。したがって政府による家計 部門への所得再分配は全く機能していないといえる。

4.お わ り に
以上の分析から明らかにしたように,リーマン・ショック以前の中国経済の成長方式は 1980年代の消費主導から1990年代以降次第に投資主導へと転じ,さらに2000年代以降は貿易 の拡大による輸出主導型が鮮明となっている。
・・・・・本論でも明らかにしたように,内需拡大のための重要な課題は家計消費の拡大である。家計消費率は,中国経済の高度成長と逆行するようにむしろ低下し続けている。その理由は,労働分配率の低下と家計の予備的貯蓄動機が強まったことによるものが大きい。
・・・・・・・重要なことは企業部門の営業利潤を引き下げて,雇用者に分配していく制度設計 が肝要である。この点については,中国政府は中央直轄国有企業に対する利潤の上納比率を 現行の5~10%からさらに引き上げることを決定している。しかしながら,その原資を政府部門に残さず,家計部門年金や医療などの社会保障へ資金投入を行うことが重要となる。

国民を犠牲にする社会2(韓国人の論文から)

以下は、私の推論や当てにならないネット報道ではなく、(10年近く前の論文で引用データが更に古いですが)専門家の論文を紹介しておきましょう。
今も同じ状態・・昨日紹介した記事は、07年に比較して更に限界近くまで家計債務が増え、自殺や国外脱出願望が増えていると言う記事でした。
今回紹介する論文は2006年発表でその前のデータを引用しての論文ですから、昨日の記事によれば、以下紹介する論文の前提事実よりももっと国民生活は悪化しているのですから、この間にこの論文を参考にして社会が変化したのではなく病態がそのまま悪化し続けて来たことが分ります。
この論文には、現在韓国の病弊の基礎的状態・・ひいては同じ方向に進んでいる中国の病根が良く出ています。
網羅的でしかも省略するには勿体ない明快な文章ですが、長くなり過ぎるので仕方なしに大幅に割愛しました。
関心のある方は引用先に入って全文をお読み下さるよう期待します。
なお、以下の引用文は2006年のものですが、その後指摘されている問題点が解決されることなく、更に拡大悪化していることは昨日のコラムで紹介したとおり周知のとおりです。

http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/571/571-02.pdf

【特集】韓国における賃金構造と貧困問題 大原社会問題研究所雑誌 No.571/2006.6

韓国の貧困問題
柳 貞 順/佐藤静香 訳
はじめに
2006年は韓国がOECDに加入して10年になる年である。韓国国民はこの機構への加入とともに先 進国入りの夢に胸をふくらませもした。過去10年間,韓国は外貨危機の衝撃と,続く新自由主義的 構造改革で,一人当たり国民所得16,500ドル達成の経済成長はしたが,成長の成果は市場強者におもに分配され,不平等が深化し貧困が量産されるにともなって両極化現象が深刻な社会問題として台頭している。
・・中略・・左派的であるという盧武鉉政府は・・・景気浮揚と市場雇用の創出に汲々として,均衡よりは効率,分配よりは成長に重きを置く政策を繰り広げた。政府は親財閥化,親既得権集団化保守化していき,その結果韓国労働者の半分以上が非正規職に転落し、労働市場賃金の両極化,財閥と中小企業の両極化、上下階層所得の両極化が急激に深化し貧民が量産された。
・・・・とくに失業と非正規職の広がりによって量産された労働貧困層は、労働能力を理由に基礎生活保障制度からほとんどが除外されているが、彼らの労働権と生存権の保障の問題が深刻に浮上している。福祉予算が少し増加したとはいうが,そのほんの少しの福祉予算(総予算の10.3%)で市場で 発生した不平等を埋めて貧困問題を解決することは‘ぞうの鼻にビスケット’に過ぎず、両極化に突っ走る社会的間隙を埋めるには途方もなく不足している。
・・・支持率が非常に下がるとあせった盧武鉉大統領は再び社会的両極化解消を国政の第1課題として設定し,雇用対策と社会安全網の構築に総力を尽くすと発表 し,必要な財源作りのために増税の意思を明らかにした。しかし,増税の意思を表明した大統領の 新年演説が終わるやいなや証券市場が暴落し,マスコミと野党は,むしろ減税が必要な時点であると逆攻勢に出た。その結果,法人税,所得税の引き上げおよび株式譲渡差額にたいする課税はほとんど不可能に見え,単に間接税をもう少し賦課し,所得控除範囲を狭めることに方向を変えると, 庶民の財布の底をはたくのは所得逆分配的であるという批判が沸いている。
本稿では貧困の原因を,労働市場の所得分配機能の不備と社会福祉制度の所得再分配効果機能の不備の2つの観点から考察した後、国際的標準と比較し,政府の政策を批判的に検討して対案を提示しようと思う。
I 韓国の貧困と不平等の現況
・・・外貨危機直後の貧困層は,所得(flow)は不足していても財産(stock)はある程度保有しており,1998年低所得層の家計数値黒字率は- 7.6%であった。しかし,2000年代初になって襲った家計 信用大乱を経験しながら、低所得層の家計数値黒字率は急激に悪化し,2004年には- 24.1%を記録 した(8)。低所得層の家計財政状況が破綻状況に至ると,1993年10.6人であった人口10万人あたりの自殺者数は2002年27.4人に跳ね上がり(9),1981年~1995年に4.1%であった経済問題による離婚率は, 2001年~2004年に12.1%に急激に上昇した(10)。
このように,外貨危機を起点に韓国社会は急激に不平等が深化し,貧困問題が深刻になっているが,支持基盤が低所得階層である進歩政府の統治の下で社会両極化が深刻な様相を見せているのが韓国の現実である。

II 先進国と比較した韓国の経済・社会指標
・・労働所得分配率は2002年58.2%で日本72.7%,アメリカ 71.4%,ドイツ72.9%などのOECD国家より10%以上低く,・・社会保障制度の未成熟などで社会福祉支出の規模が小さく,公的移転所得の所得再分配効果は韓国が1.5%(03年)であり,アメリカ10.9%(99年),イギリス26.4%(01~02年),日本15.7%(96年),ニュージーランド18.7%(96年),カナダ16.7%(01年)に比べ て非常に低い水準である(13)。
GDP対比福祉予算は,2000年までOECD加入30国中,韓国は29位で最下位をかろうじて免れた状態にあったが,2001年にメキシコが11.8%に改善したのに比べて韓国は8.7%で足踏み状態にあるため最下位の30位に墜落した。
2004年韓国の出産率は,1.16でOECD国家のみならず,世界最下位であるにもかかわらずいまだに子女養育手当て制度が導入されておらず,保育や教育は受益者負担の原則によって市場財とみなされているだけで,公保育と公教育の水準は劣悪なことこの上ない。
・・・社会指標が国際的標準に比べて途方もなく低いことは国民の暮らしの質低下につながり,人口10万人あたりの自殺者数はハンガリーとともに共同 1位を記録している。

III 貧民量産の原因
1 雇用の両極化
1997年以前の韓国の貧困問題はおもに労働無能力層の貧困問題に局限されていたが,外貨危機を起点に労働貧困層が新貧困層として既存の労働無能力貧困層に加わることによって、労働貧困層問題が台頭している・・後略

3 好循環構造の破壊
輸出額が史上最大であるにもかかわらず、貧困問題が深刻に台頭している重要な原因のうちの1つは,庶民家計の財政パターンによる内需消費の沈滞である。上位階層の所得と消費はあまり問題はないが,信用不良者が多い下位階層で所得を負債償還に割愛することによって赤字家計をやりくりしていくために購買力が顕著に低下したことが主たる原因である。
・・後略
おわりに
・・北朝鮮(原語「北韓」-訳者)が政治的人権問題が深刻な社会だとすれば,韓国(原語「南韓」-訳者)は経済的人権問題が深刻な社会である・・後略

(リュ・ジョンスン 韓国貧困問題研究所長)
(さとう・しずか 東北大学大学院経済学研究科研究生)

中国過大投資の調整13(国民を犠牲にする社会1)

中国も純債権国と言う触れ込みですが、仮にそうだとしても、資金繰りに関しては資産表上のプラマイの結果だけではなく、どのような資金で構成しているかが重要です。
債権勘定の中身が後進国援助資金や、国外投資が失敗だらけの場合(中国の海外企業買収は殆ど大失敗で終わっていると言われています)殆ど価値がないことがあります。
あるいは急場の現金化に向かない資産中心(ベトナムやスリランカ等の軍事拠点として港湾開発や橋梁工事等公共施設援助等)の場合、実際に国内資金不足が起きても還流することが出来ません。
日本の場合海外からの収益送金で巨額貿易赤字を補っていることから分るように実際に果実を得ています・・海外投資の多くは100%簿価どおりかどうかまでは不明でも、相応に価値があります。
財政赤字は大変だとマスコミや反日勢力が日本批判する材料に使っているだけですが、この宣伝に乗る人が減って来て、(私は July 16, 2012「マスコミによる世論誘導の害3(不毛な財政赤字論2)」その他繰り返し関係のない議論だと書いてきましたが・・)次第にメッキが剥げてきました。
安倍政権が消費税増税先送りを決めた昨年秋頃に反日勢力の息のかかった格付け業者に日本国債の格下げ発表をさせていましたが、その翌日ころに逆に、国債相場が上がってその業者が大恥をかきました。
日本では、失われた20年と言われる時代に、円高進行=企業の取り分が減る仕組みでした・・この辺はMarch 3, 2012「デフレと不人気政治」その他のコラムで連載しました。
デフレ経済とは、企業の取り分が減って、勤労者の取り分が増える関係・・国民は約20年間良い思いをして来た結果、各人の自宅(庶民で言えば、木賃アパート主体からマンションへの移行や電車やバスに全部空調が効くなど、駅舎や商店が何倍も綺麗になるなど数え切れないほど生活水準がレベルアップしました)その他生活水準が約二倍に上がって来たことも繰り返し書いてきました。
「日本は失われた20年」で企業は苦しんだものの、そのツケを個人に回さずに企業が身を削って個人へ被害を及ぼさなかった防波堤になって来たと言うことです。
中国では、5月24日に紹介した中国人論文https://www.andrew.ac.jp/soken/pdf_3-1/sokenk186-2.pdfによれば、10年前に比べて逆に雇用者の取り分比率は13.1%も下がっているようです。
韓国でも、個人が貧困化して企業が肥え太る傾向は同じです・・・これが国民の貧困進行・・売春婦輸出・・外国移住願望が高まる一方であることも書いてきました。
以下はhttp://www.msn.com/ja-jp/news/money/韓国経済の「本当のリスク」・・・からの引用です。

「上昇しつづける「家計債務」=中国報道/ar-BBkr63i#page=2
「中国メディアの中金網は29日、・・・・14年末における韓国家計部門の債務残高の年間可処分所得に占める割合は164%に達し、07年末の141%より悪化していることを挙げ、「韓国の家計債務はサブプライムローンの破綻前の米国より悪い水準」と論じた。さらに、エコノミストからは「韓国の増え続ける家計債務によって消費が抑制されている」と指摘し、韓国経済にとってのリスクとなっていると論じた。(編集担当:村山健二)

以下はhttp://news.livedoor.com/article/detail/9738413からの引用です。
韓国人の5人に1人が国外脱出の願望あり? 改善されない社会に不満
「・・・注目したいのは、韓国人の移民志向が近年、急激に高まっていることだ。世論調査会社の韓国ギャラップ社が2013年に実施した統計によると、韓国人の5人に1人が「移民を真剣に考えている」と答えており、14年6月に韓国の就職サイトが725人のサラリーマンを対象にした調査でも、97.4%が「ほかの国に移民したい」と答えている。」

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC