格差社会5(サービス無償意識2)

サービス業の無報酬意識→報酬の低廉化傾向に戻ります。
大分前に書きましたが、女性の仕事は単価が安くても良いと言う前提があるから、女性の活躍と言うと男性用に作り上げられた職場で男性顔負けで働く・・男勝り・残業もするし転勤もいやがらないなど・・誤った風潮になるのです。
女性活躍社会とは男性職場に入って男以上の能力発揮することではなく、女性固有能力を尊重する・女性の仕事には機械に置き換えられる男性の仕事よりも価値があるという意識転換が必須です。
両性の本質的平等・・相互に違いを認めあい尊重する社会を実現することこそが本質的に重要です。
機械で代替できる分野はどんどん機械化して行ける・・最後に残るのは人の温もりでしょう。
「女性のやさしい介護等はお金変えられないから・・」といって、無償や低賃金で良い筈がありません。
「お金に代えれない貴重なものだ」と言う言葉の本来の意味を実現して行くべきでしょう。
そうなると女性の方が有利・人件費が高い時代がきます。
若い人でも家庭内では奥さんの地位が高いと思いますが、高齢化するともっと地位が高くなる・高齢化してからの方が妻の有り難味が分かるのは体が効かなくなって世間との代替性が下がるからです。
トランプ氏は製造業従事者数の減少を国民平均収入低下の原因として問題視して製造業の復活を主張していますが、製造業では機械化・ロボット化が進む一方で労働者の需要が減っていくのは防げませんから、サービス業の尊敬が必要です。
少なくとも、製造業従事者の賃金底上げにはアメリカのように移民を入れて労働者を増やす政策は間違いです。
製造業の重要性は変わらないとしても、活躍する人材は製造業の省力化・ロボット製造関係などの研究開発に移っていますから、底辺労働者の需要がなくなる一方です。
無限の底辺労働力を抱える中国でさえ、ロボット化・少量化投資に邁進中であることをMay 23, 2017「ロシアの台頭と資源(民族文化の有無)2」
で紹介したとおりです。
近代工業に比べて収入が低くなった農業収入を上げるとしても、農業従事者を増やせという人はいないでしょう・・底上げには従事者を減らすしかないのと同じです。
金融のプロやIT技術者に昇格出来ない在来のアメリカ人が多いことは確かでしょう。
しかもこれはアメリカに限らずどこのクニでも同じ問題です。
そこで高度に専門家した知識群の理論的・実践的な応用を対象とする「H-1Bビザ」で、高度技術者になれる移民を入れて上層部に組み込んで行く企業行動によって、下層階級化・・落伍して行く元中間層がノーを突きつけている構図です。
15年程前にこのコラムで移民でも有能・エリート層を入れれば良いと言う意見に反対意見を書いたことがありますが、アメリカ人も自分が追われる立場になるとそう言うことです。
アップル、ウーバーその他IT業界で高額所得者になるインドを中心とする新移民と、IT業界隆盛の御陰で企業の警備員や受付係・ホテルのベッドメイキング係や掃除夫・運転手の職にありつける・・移民2〜3世の雇用を守る構図を従来政治家は前提にしています。
今後アメリカ国籍取得後2〜3世には原則現場労働・サービス業しかなくなって行くとすれば、(企業トップやIT技術者になれる人もいるでしょうが大方の話です)GDPが半分〜3分の1になっても自分たちが政治家や社長・中間管理職をやれる方が良いと思う人が多いのではないでしょうか?
アメリカ国民平均で言えば、優秀な技術者を入れない限り能力不足で世界の潮流に着いて行けないとすれば、自分の民度をあげる努力をして底上げ出来る限度で中流国レベルで落ち着き納得するか、これが嫌ならば自国民の能力不足を補うためにインド人などのIT技術者等を移民として受け入れるしかありません。
戦中戦後ドイツ系を多く受け入れて科学技術の発展を享受したのと同じ流れを繰り返すかです。
この場合、国家社会は発展するでしょうが、自分達の仕事の多くがビルの受付や掃除夫などに転落して行き、毎日働いているのにフードサービスに頼る生活になって行きます。
都市近郊地域にホワイトカラーが移り住んでくると農村地帯の地価が上がって一時農村住民が潤いますが、落ち着いてみると自分達の出来る仕事は公園整備などの現場系しかないのと同じです。
このジレンマで国内で面白くない人が増えてきた結果、ただ不満・怒り発散のために対外強行策を政府に求めても、目先の溜飲を下げるだけで本来の解決にはなりません。
お腹の空いた赤ちゃんが泣くのを宥めるために「ガラガラっ」と音を出すだけのことです。
クニの方向として無理をしないで(有能な人を引き入れないで)引き上げられる民度に応じた中〜下流国になって行くのを認めるかどうかの決断をするのが合理的です。
どうあがいても民度以上の生活が出来ないのが正しいとすれば、低賃金労働者を求めて数世紀に亘って(黒人奴隷〜中国人奴隷(クーリー)〜戦後のアジア系移民)大量に移民を受け入れてきた過去蓄積が重荷となってきます。
威張るために低賃金移民をドンドン入れる・・人口の多さや資源だけが自慢では、ブラジルや中国、インド並みのレベルに落ち着いて行くしかありません。
クニ・民族の栄誉を求めるために、IT技術者を大量に移民受入れて元々の国民の多くが移民の運転手や掃除夫になるのは、レストランで言えば自分は運転手や掃除をやりその給与で働きながら経営者・技術腕利きの調理士を高給で雇うようなものです。
経営者としては客が半分、従業員も半分・収入半分になっても、自分が経営者のままでラーメンを作っている方が良いか、有能なコックを入れて自分は皿洗いして皿洗いの給与で我慢するかの問題です。
個人の生き方で言えば大きな家を貸して門番や受付を掃除をしているよりは、小さくても自分の家の方が良いかの問題です。
「世界の警察官をやめたい」と言うのは、トランプ氏が言い出したことではない以上、身の丈にあった生活の方が良い・後者の人が多いことを表しています。
トランプ氏の主張は単純粗野な印象を受ける人が多いですが、国民の素朴な願望を表現している点が重要です。
これをソフトランデイングさせるプロの政治家が必要なだけで、方向性が間違っているとは思えません。
そこで17年3月11日以来、彼の思想を整理して実現させるプロの実務家が不足していることを書いて来ました。
中国解放後の欧米政治は,北米ではNAFTA(域内総生産はEU以上です)西欧はEU結成→移民受け入れによる人口増・市場拡大政策で分るように、飽くまで従来型規模の利益を追う方式の延長であり、新興国並みの競争力維持策・ひいては熟練工・熟達事務系不要社会の追究でした。
そして一方では国際展開・・IT化を進めその主導権を握ろうとして来ました。

格差社会4(サービス無償意識1)

格差社会に戻りますと個人投資家でも海外債券投資比率の高い人と低い人あるいは内需関連企業とで円安の恩恵が違う・・この分野でも投資先相違による明暗・格差が発生します。
株価好調でも消費がそれほど増えないのは、海外収益中心・投資利益の場合、株価が上がったからと言って、(配当の入る預金残高1500万前後の人が数十万円増えたからと言って)あるいは昨年より配当金が数%増えても喜んで食事に行くような人があまりいないから当たり前です。
サービス業従事者が増えると平均賃金が下がる傾向がありますが、この分野の賃金引き上げには「電気釜や冷蔵庫などの物品よりも、生身の人間のサ−ビスの方が高い」ものだと言う意識変革が必要でしょう。
介護・保育その他各種サービス分野は女性中心職場であったこと・・元々家庭サービスから始まっているので、無償奉仕が前提になっている点が問題です。
このため男性中心職場であった製造業に比べてサービス関連は基礎賃金が低過ぎるのを容認して来たことに対する意識変革が必要です。
それをしないで徒らに製造業の維持拡大・・従事者数の復活を主張しても時代錯誤にしかなりません。
我々弁護士業界ででも、訴訟になれば大金でも払う気がするが、相談するくらいはただという伝統的意識が強く、この払拭に苦労してきました。
せっかくこの数十年の努力である程度の相談料を払う意識が定着したものの、最近若手の経営難の結果、1回目相談無料みたいな広告がはびこるようになってきましたので、元の木阿弥に戻りそうです。
米国と違いヤミクモな訴訟を回避したいのは合理的傾向ですが、その回避や円満解決に重要な役割を果たす相談料が無償または1時間1万円程度では、アマチュアやボランテイアなら別ですが、事務所家賃やスタッフ給与その他のコスト負担のある弁護士の「業」としては成り立ちません。
弁護士業界の経営難が弁護士増員によるだけではなく、訴訟より事前相談比率が多くなっている現状に即した収入形態になっていない点が、大きな原因になっているように思えます。
実際の訴訟数の変化は本日現在の司法統計年報によれば以下の通りです。
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?filter%5Btype%5D=3&filter%5ByYear%5D=&filter%5ByCategory%5D=&filter%5BmYear%5D=&filter%5BmMonth%5D=&filter%5BmCategory%5D=1
第1-1 全新受事件の最近5年間の推移
【全裁判所】年 次
     全事件 民事・行政事件 刑事事件等 家事事件 少年事件
23年 4 059 782 1 985 305   1 105 826  815 523 153 128
24年 3 798 126 1 707 715   1 098 989  857 237 134 185
25年 3 614 236 1 524 023   1 050 716  916 409 123 088
26年 3 494 100 1 455 716   1 018 673  910 687 109 024
27年 3 529 977 1 432 279   1 032 791  970 018 94 889
上記の通りですが、弁護士の主たる収入源である民事事件数が、この5年間だけでもほぼ25%も減っているのに弁護士数が逆に約2割増えている,・・この10年間で見ると約8割増の矛盾です。
以下は日弁連の発表数字です。http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2015/1-1-1_danjo_nenrei_suii_2015.pdf
 年   正会員総数(内女性数)   女性割合
1994   14,809 (938)      6.3%     
1995   15,108 (996)      6.6%
1996   15,456 (1,070)     6.9%
1997   15,866 (1,176)     7.4%
1998   16,305 (1,295)     7.9%
1999   16,731 (1,398)     8.4%
2000   17,126 (1,530)     8.9%
2001   18,243 (1,849)     10.1%
2002   18,838 (2,063)     11.0%
2003   19,508 (2,273)     11.7%
2004   20,224 (2,448)     12.1%
2005   21,185 (2,648)     12.5%
2006   22,021 (2,859)     13.0%
2007   23,119 (3,152)     13.6%
2008   25,041 (3,599)     14.4%
2009   26,930 (4,127)     15.3%
2010   28,789 (4,660)     16.2%
2011   30,485 (5,115)     16.8%
2012 32,088 (5,595)     17.4%
2013  33,624 (5,936)     17.7%
2014  35,045 (6,336)     18.1%
2015  36,415 (6,618)     18.2%
この表を見ると日弁連執行部は女性比率に重大な関心を持っているようですが、弁護士業界にとって焦眉の急・最重要な増加率には全く関心がなさそうな表の作成には驚きます。
刑事少年事件では、当番弁護や被疑者国選がこの5〜10年ほど前から始まっているので私選の刑事事件受任がほぼ壊滅・・ゼロになっていて、言わば弁護士業界の収入源の半分が官業による民業圧迫でなくなっている勘定です。
少年事件もほぼ同様です。
離婚事件等は増えていますが、弁護士に相談する程度で自分で調停などにでかけるのが圧倒的比率です。
このために若手弁護士が生活保護基準すれすれのような低報酬目当てに(昼間だけでは食べて行けないので夜9時ころまで遠くの警察まで接見に行く状態)国選事件や少年事件受任を競っている惨憺たる状態に陥っています。
この結果若手弁護士の多くが年収300万円以下という状態になってきた様子ですので、法科大学院の応募数が激減..ひいては応募者の劣化が始まっていると言われます。
このママでは、司法界崩壊目前ですから、偏った運動ばかりする?弁護士業界潰しの政策意図があるかどうかは別として、国家における司法(判事検事の供給源のあり方を含めて)に関する基本戦略の策定が必要な段階に来ています。
この時にあたり、千葉県弁護士会新会長が4月1日就任直後に従来同様に大量合格を続ける場合、「一定数以上の修習生受け入れ 拒否 も有りうる」という趣旨の通知を発したことが大激震になりました。
(会内的にはしかるべき会内手続きなしに、会長が一方的に対外外通知をして良いのかが5月総会の大テーマになりました)
多くの見方は「一種のフライングである」と言うことでしょうが、時機にあっていた・・放置できない状態・発火点に近づいていたことは相違ないでしょう。
これが逆に判検事と弁護士の別立て試験になっていくリスクを開いた結果になった・・単なる暴発の結果になるかは別ですが・・。

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