仮処分の必要性2(即時効の威力)

小規模裁判所で停止の仮処分決定が出ると、細かい証拠を見るまでもなく(決定書を見られないので詳細については外野には分りませんが・・)、認定が「一見して無茶だ」という意見が圧倒的多数であっても、異議審も同じ裁判長が担当しますので、異議を出してもほぼ100%是正されません。
アメリカ大統領令の司法審査報道では異議申し立てではなく、日本で言えば異議ではなく抗告審の印象です。
この辺の原稿は高浜原発停止の仮処分が出た直後頃の16年3月に書いていたのですが、昨年初冬ころに異議審決定が出たことを紹介しましたが同じ裁判官が出す(大津地裁の裁判官構成もこのシリーズで紹介しています)ので結果は同じでした。
(その間に著名な科学の進歩がある訳がない・・同じデータを元に同じ判断基準で判断する限り同じ結果になるのは当たり前です)
結果的に停止の効力は地裁に事件が係属している限り(本件決定内容不明ですが,仮に大多数の法律家から見て論理建てに無理がありそうな場合でも)是正されないことが事実上決まってしまいます。
いつ地震があるか分らない・・または100%安全を証明出来ない理由で停止を命じられる・・例えば年間これだけの交通事故死があると言う統計が出されるとその段階で安全性の立証(疎明)責任が転換されるとした場合・・電車もクルマも医療の安全性も損害の程度も全ての分野で操業停止仮処分の対象になる理屈になります。
一定のリスクがあっても社会の発展や社会全体の利益のためには許容範囲と認めるかどうか・・これは民意・政治の場で決めるべきことです。
原発被害は一定のリスクと言える程度を超えている巨大なものであるからエリートが決めてやると言うのでしょうが、ソモソモ司法官僚が何故このリスク判断について専門家であると言えるのでしょうか?
その道のエリ−トが一定の手続で選任され、規制基準を作って基準に合致しているかどうかを判定しているコトについて素人の裁判官がその決定を覆す意味が分かりません。
あるいは、規制基準と現状を審査したところ、その基準に合致していないと言う判断もあり得ます。
しかしこの場合もその基準に合致していないことと甚大な損害発生可能性とイコールではありません。
細かな基準には念のためと言うものが一杯あります。
今築地市場移転問題で規制以上のフッ素だったかが出たと騒いでいますが、フッ素規制値は水源地の基準で毎日(何十年も)その含有量の水を飲用し続けても絶対大丈夫ですと言う基準です。
環境省データの一部抜粋です。
(下記のうちPFO、PFOAはフッ素の中でも毒性が強いとされているものらしいです)
https://www.env.go.jp/council/09water/y095-13/mat07_2.pdf
1.4
水道水質基準
平成21 年4 月1 日より、水道水に係る要検討項目は従来の40 項目に加え、過塩素酸と「パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)」、「パーフルオロオクタン酸(PFOA)」及び「N-ニトロソジメチル
アミン(MDMA)」の 4 項目が新たに指定された。このうち、PFOS と PFOA の 2 項目については、以下のような考え方が示され、目標値の設定も見送られた。
注:「要検討項目」とは、平成15 年4 月28 日厚生科学審議会答申「水質基準の見直し等について」において、「毒性評価が定まらない物質や水道水中での存在量が明らかでない物質を対象とした項目」として位置づけられており、必要な情報・知見の収集に努めていくべきものとされている。
豊洲市場の地下の土からしみ出して来る水を毎日何リットルも飲む人は皆無ですから、(まして出荷される魚がその水を飲むわけがないのでどう言う関係があるか意味不明)元々市場立地の危険性と・・何でも反対流にしている?無意味な基準であることが明らかです。
このシリ−ズでは行き過ぎたPC(慰安婦問題で国際的に政治的に?完成させた上で・いわゆるPCが出来上がっている以上反論すること自体がおかしいと言うののがアメリカの支配的風潮で・・日本攻撃をされましたが・・政治的正しさをマスコミが作り上げてはその強調する弊害)批判も書いていますがこれもこの一種です。
最近、マスコミ内の特定勢力による反対運動があるとこれに迎合して無茶な基準・・いわゆるpcを決めてしまうことが多過ぎるからこう言う馬鹿げたことになります。
原発設置基準でも原発アレルギーに便乗したいろんな不合理な基準が一杯ある筈です。
こんな無茶な仮処分をする裁判官はいないので、裁判官の裁量に任せておいてもこれまで社会問題にならずに来たのですが、昨年春の高浜原発稼働停止の仮処分は正にこのような基準による裁判でなかったかの疑問です。
本案判決の場合、負けた方が控訴しないと決まるまで判決の効力が出ない・・・地裁の判決が仮に間違っていても実害がありませんが、仮処分決定の場合決定告知と同時に即時に効力が出てしまうことが先ず大きな違いです。
民事訴訟法
(決定及び命令の告知)
第百十九条  決定及び命令は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。
その上に判決の場合直ぐ控訴して上級審の再判断を求められますが、決定の場合同じ地裁への異議申し立てが出来るだけで、すぐに高裁に抗告出来ない仕組みです。
民事保全法
(保全異議の申立て)
第二十六条  保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる。
保全抗告)
第四十一条  保全異議又は保全取消しの申立てについての裁判(第三十三条(前条第一項において準用する場合を含む。)の規定による裁判を含む。)に対しては、その送 達を受けた日から二週間の不変期間内に、保全抗告をすることができる。
ただし、抗告裁判所が発した保全命令に対する保全異議の申立てについての裁判に対しては、この限りでない。
仮処分決定に対してすぐに上訴(以下のとおり41条の抗告は、保全異議に関する裁判が出てからのことになります)出来ないで、先ずは異議申し立てしか出せません。
地域経済や電力業界に重大な影響のある停止命令を、即時効があってしかもすぐには高裁へ手続が行かない仮処分を選んだこと自体も疑問です。
大津地裁としては、第1にそんな悠長な裁判をしている間に事故発生危険の切迫感があったと言う認定をしたのでしょう・・その後約1年経過してもまだ原発被害が起きるような大地震が起きていない・・(本案訴訟の結果を待てないほどの切迫性がなかった)結果から見ても大津地裁裁判官の認定が間違っていたことが事実で証明されています。
本案判決を待てない程スグに地震があると言う心証形成自体疑問がありますが、その点さえ別にすれば仮処分の場合、仮処分の当否の争いをしている間、原発が長期にわたって停止してしまう重大性から考えて、仮に担当判事が自己判断に自信があるならば、なおさら上級審のお墨付き判断を早く得るために本案判決手続を進めるべきだったように思われます。
申し立てがあっても、緊急性の疎明が足りないとして却下して本案訴訟の結果を待てば良い(大津地裁に場合本案訴訟も同じ裁判長ですから同じ結果を(進行を急ぐならば、証人尋問をしたとしても数ヶ月つ遅れ程度で出せた筈です)ことを何故すぐに上訴出来ない仮処分手続でやったかの疑問です。
尤も仮処分申請を選ぶのは申請人ですが、仮処分でやる緊急性を認めなければ自然に本案訴訟が始まりますから実際の終局的な方針決定権を裁判所が握っていたことを書いています。
もしもマトモな疎明資料が出ていないのに裁判官の主観(いわゆる心象風景で)で危険だと認定していたとすれば、私的意見を実現するために裁判権を利用したことになります。
テロ被害について16年3月31日に少し書きましたが、テロ等は社会秩序を出来るだけ長く麻痺させるのが目的です。
裁判官の主観で判断したとすれば、上級審で破棄されるのを予想出来た上で決定したことになりますが、何のために破棄されるのを承知で決定したのでしょうか?
その期間だけでも時間稼ぎ・・経済活動を麻痺させようとしたとは思えませんが・・。
ちなみに裁判官が「良心」に従い判断すべき「正義」とは16年3月31日に書いたように、個人的主観による正義ではなく,集積された判例・学説の蓄積によって導き出される予定(・・自分の考えが上級審で支持される自信に裏打ちされた)価値判断あるいは従来判例では矛盾があって変更すべき合理性のある場合です。
無茶をしない・・内部基準に従う前提で飛行機パイロットやクルマの免許があり,警察や軍人に武器携行が許されていますが、いずれも業務上決まった基準に従い個人的利用基準で使用しない信頼で成り立っています。
裁判官良心と言うと崇高なイメージですが、いろんな専門職が増えて来ると各業務ごとに要請される業務上スピリッツ+注意義務の一態様と言えるでしょう。
仮処分制度は、即効性がある分裁判官の良心を濫用する人が出るリスクもありますが、安易に仮処分を認めない・・事案の性質を見極めて慎重に運用する・・裁判官一人の判断で国政の根幹を揺るがすような決定を出来る権限があるのは、裁判官が「良心」に従う=権限を乱用しないだろう」と言う高度な信用で成り立っていました。
大津地裁の決定が日経新聞で「心象風景」で書いたのではないかと紹介されていますが、(私は決定文を知らないので)これをテロ的決定であると書いているのではありません・・ここでは一般論です。

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