ウクライナ政変とロシア4

戦場になった地域よりは遠征した方に負担が大きいという昨日・・4月11日のテーマに戻ります。
ロシアによるクリミア編入でも、現地クリミア住民には大したコスト負担がなく、クリミアを手に入れたロシアの方が、巨大な軍事力移動その他の事務負担や援助で莫大な財政負担が生じています。
ウクライナ本体を西側に引き寄せた筈の西欧も、その分巨額財政支援の必要性に追い込まれています。
日本はその綱引きにき関係した訳ではないのに、西側の一員としての冥加金の負担を求められています。
大陸でのプロシャ対オーストリア覇権争いであった英仏7年戦争では、重商主義経済の発達していたフランスが財政疲弊に対する経済界の不満が大きくなったので革命になったし同じくイギリスがアメリカの独立運動に繋がったのに対して、戦場になったプロシアやオーストリアでより王権が強固になっていったのは、まだ農業主体社会で社会資本の破壊が少なくて済んだ面が考えられます。
ロシアもロシア革命直前まで古代農奴社会でしたから、戦争による被害というものをあまり深刻に経験していません。
シベリアへの東進政策・ポーランド分割やトルコに対する南下政策等々、まだまだ古代的領土拡張しか経験がないし、ロシア革命までは古代農奴社会のままでしたからナポレオン遠征やナチとの攻防戦等によって国土蹂躙される戦争があっても、(農地の場合踏み荒らされても復元は容易です)それほど痛手を受けた経験がありません。
例えば冬には畑では何も作っていませんので、そこが戦場になって馬が駆け巡っても大した被害になりません。
仮に成育中の麦畑を踏み荒しても、その歳の収穫が激減して苦しみますが、翌年には普通に作物の植え付け収穫が可能です。
工場設備の破壊や熟練工の喪失による長期的生産能力の損失とは比べ物になりません。
中国も対日戦争や国共内戦で何千万と死にましたが、基本は農業でしたから・インフラ崩壊に関係がなかったことになります。
戦争被害がそれほど深刻ではない農業社会では、領土拡張の旨味・成功経験が未だに忘れられない・・遅れて参加した国々が、大雑把な味方をすれば、中ロ等の独裁国と言えます。
韓国は半島南部まで占領された朝鮮戦争で傷ついたと言いながら好戦的なのは朝鮮半島南部は農業社会でしたから、インフラ損失が皆無に近かったことが大きいでしょう。
今やロシアも中国も韓国も古代社会のママではなく、経済インフラ蓄積が進み、国際経済交流の網に組み込まれているので、国際物流遮断の影響を受ける度合いが半端ではありません。
物流遮断に最も威力があり簡便な手法は、イラン禁輸で採用された国際金融取引禁止です。
イランと金融取引する金融機関をアメリカでの金融業務から閉め出すという方法でしたから、アメリカと取引のある金融機関・・世界中の金融機関ひいては金融取引のあるすべての企業がこれに従うしかなくなりました。
今では巨額取引で現金決済をするのは例外中の例外ですから、金融機関を使えないと殆どの場合決済が出来ないので、ナポレオンの大陸封鎖令のときとは根本的に違う封鎖力です。
これをくぐるための資金洗浄が新たな問題に浮上しています・・・表向き暴力団などの違法組織対策と言われていますが、マフィアは昔からあったのですから、イラン禁輸以降急激にうるさくなったのはアメリカによる世界支配の道具である金融監視の効率化・・その抜け穴防止が主眼ではないでしょうか?
アメリカの軍事力にかげりが出ていると言われますが、アメリカはその代わり金融支配によっていつでも相手の息の根を止められるという道具を手に入れているし、これを更に強化しようとしていることになります。
どこの国もアメリカの許可なく(小口の現金取引以外には)イランから物品を買うことが出来なくなりましたので、イランは金融取引禁止によって、血流の停止・・事実上大口の輸出入停止になってしまいました。
イランの輸出代金の多くは原油代金・・巨額決済ですから、マトモに利いてしまいました。

ウクライナ政変とロシア3

日本経済新聞3月30日朝刊でウクライナでは、過激派がもっと民族主義的政策をとるように新政権を攻撃している・・ロシアが自国民保護のためにウクライナ本体に対して介入する口実造りに励んでいることも不思議です。
ロシアは場合によってはそこまで行くような姿勢を示しておいて、クリミアだけで矛を収めてアメリカの顔を立てて欧米と手打ちする予定ではないでしょうか?
ロシア系住民を排撃する過激な行動をとれば、ロシアによるウクライナ本体に対する軍事介入口実になるのが分っていて、何故こうした過激主張やデモが頻発しているのか・・背後資金関係が不思議です。
各種大規模暴動が長期化するには、巨額資金援助組織が背後にないとやれないのが普通です。
ロシアは、過激派によるロシア系住民迫害を口実にウクライナ本体に介入するとしても、本体を手に入れると図体の大きな貧乏を招き入れるので仮にやるとしてもせいぜい東側の切り離しに動く程度でしょう。
そうした動きを示しておいて制裁をやめるなら撤退すると言う条件を出して欧米もその辺で落ち着くと見ている可能性があります。
ネトウヨによれば、日中紛争が起きれば、在日中国人が先ず国内で騒いで右翼を挑発して事件を起こさせ、日本右翼が挑発に乗らなければ、工作員を潜入させて中国系人を殺して、日本で中国人が迫害を受けているという状況を作り出す恐れが早くから指摘されています。
上記従来からの指摘によれば、アンネの日記破損事件は、中国ないし韓国系の工作員による予行演習が始まったのではないかと言う意見です。
ヘイトスピーチも韓国系によるやらせではないか?という意見もあります。
いわゆる右翼団体員には、韓国系が多くを占めていると指摘されています。
根拠のない意見はいつもうがち過ぎと批判されますが、「うがち過ぎ」と言って、マスコミのように根拠のある・・政府発表ばかり報道していると真相に迫れません。
(工作員がやることがそのまま直ぐにバレルことがないのが普通です・・北朝鮮による拉致疑惑も何十年も根拠・・証拠がなくて「疑惑」と言われ続けてきました。)
中韓工作員による事件起こしだと言う疑いを払拭するためにも、犯人像を早く明らにすべきです。
犯人が検挙されるまであれだけ国際発信して日本の右傾化を宣伝していたマスコミが、検挙された途端にマスコミがだんまりになったのは不自然ではないかと追及されている所以です。
精神障害と思われる人が、仮に在日や中国系ではないとしても障害者の行為としては、彼の住居や検挙された場所とかなり離れた場所で、短期に且つ大量にやっていることと符合しない・・マスコミ大報道に触発されて便乗した付和雷同型の可能性があるとも言われています。
そうとすればなおさら、当初に大量破損事件を起こした真犯人グループの検挙・・動機解明や背後関係開明を急ぐべきです。
プーチンの賭けに戻りますが、政権が落ち目のときには、民族感情に訴えるのは短期的には国内支持固めに有効でしょうが、国家利益のためには長期的にはマイナスに作用してボデイーに利いてきます。
ブッシュ大統領も9・11を理由に泥沼のイラク〜アフガン戦争を開始して支持率を盛り返しました。
しかし、結果的にアメリカの威信と体力を損なってしまった・・現在のオバマの交渉能力低下に結びついていることは、歴史が証明しています。
古くはベトナム戦争を始めたケネデイ大統領も、その結果世界に宣伝していたアメリカの大義が大きく傷つき、経済も下降現象になる切っ掛け(・・ニクソンショック)になったのですが、何故か今でもアメリカの英雄です。
(未だにダーウインの進化論が受入れられない・・公教育では教えていないと言われる非合理性に支えられている社会であるからでしょうが、・・日本のように歴史を直視し、言論の自由な国では、逆にぼろくそに言われる筈です・・)

ウクライナ政変とロシア2

西欧との間でウクライナ取り合いの綱引き程度にしておけば、燃料その他多くの面で死活的にロシアに頼っているウクライナはロシアのご機嫌を損ねる訳に行かないので、程々につき合って行けた筈です。
実際今回のデモ等の騒動で追い出された前大統領は、直前までEUとの協定を結ぶ予定だったのを昨秋ドタキャンしてロシアとの協定を結んだたことが騒乱の切っ掛けになったのですが、彼としてみれば南欧危機で懲りたEUから緊縮財政の要求その他うるさいことばかり言って来るEUとロシアを両天秤にかけて破格の好条件を引き出してロシアと協定を結んだのは、それなりの計算があってのことでしょう。
これに負けずにEUが条件を緩めて来れば、そのときにまた話に乗ればいい程度の腹づもりだった可能性があります。
ウクライナにとっては、どっちつかずの方が双方から有利な条件を引き出せるのでそうした行動をしていた筈です。
EUとの協定をボイコットしてロシアと仲良くしようとしたことに憤激した民衆暴動で彼は追い出されましたが、政治家の奥深い腹の底は民衆には見えません。
ロシアが陰陽の介入をせずに民衆暴動を座視していた・・なす術もなかったように見えることが疑問ですが、EUとの競争上ウクライナに譲歩し過ぎたので損な取引だった(ご破算になった方が良い)と思って放っておいたのかも知れません。
こんな人口の多い貧乏国をEUと競り合って勝ちとったものの高い買い物に気づいた・・破綻状態のウクライナを抱え込むとロシア経済が持たないという冷静な計算が働いた可能性もあります。
ロシアとしては戦略的要衝であるクリミアさえ確保できれば良いのであって、図体の大きい貧乏国をまとめて抱え込むのは大損です。
今回の強行策の結果、本体のウクライナを敵に回して小さなクリミヤを手に入れただけですから、一見ロシアの大損ですが、逆から見れば必須のところだけ手に入れて貧乏な不採算事業を切り離したと見るべきかも知れません。
そのままであれば経済援助しなければならないウクライナを、クリミアの併呑によって文句なしの敵国に追いやってしまい、無駄飯食いを切り離してEUに任せて清々したとも言えます。
企業がお荷物の主力不採算事業を恩を売って切り離すようなやり方です。
マレー半島からシンガポールが独立したことやイラクからクエートが分離独立したことがあります。
中国だって沿海部が内陸から切り離して友好国程度にして独立した方が有利に決まっています。
ウクライナを完全な敵国に追いやったロシアの行動は失敗だったのか、計画どおりだったのかは歴史が証明して行くことでしょう。
西欧にとってはロシアの裏庭とも言うべきウクライナ取り込みに動き過ぎた・・(民衆暴動を煽って)露骨にやり過ぎたことが、ロシアの反発するチャンスを与えて貧乏国を(昨年秋まで要求していたきつい条件を突き付けられないまま)引き受けるしかなくなったのですから、やり過ぎの結果の貧乏くじだったと言うべきでしょう。
御陰で日本にまで奉加帳が回って来て日本が千億か1500億の援助をすることになったと報道されていました。
中国成長鈍化やシェールガス期待→資源価格下落による経済変調でロシア経済は下降状態になっていて、支持率低下に焦っていたプーチンは、西欧のやり過ぎを捉えて、民族感情に訴え易い対外喧嘩に賭けたと言うのが一般的見方です。
しかし、穿った見方によれば、ウクライナの政変自体ロシアが(西欧が煽ったかのように見せかけて)裏で煽ってこれを攻撃材料にしてクリミアの切り離しに成功した可能性があるとすら言われています。
ロシアの対応がびっしり予定どおりと言わんかのように、一糸乱れず何の混乱もなく行なわれています。
兵員移動や住民投票その他がかなり前からの綿密な計画と準備がなければ不可能なほど手際よく進み過ぎていることと、ウクライナでイキナリ過激な暴動になって行った過程と前大統領がこれと言った抵抗(暴動制圧努力)をせずにあっさり国外脱出をした手際が良過ぎる不思議さがあります。

ウクライナ政変とロシア1

この基本原稿は昨年秋(シリア問題でのオバマの腰砕けに関連して)ころに書き、その後昨年末頃掲載のつもりでに書いていたものですが、間にいろいろ入って2014/01/14「アメリカの指導力低下1」以下」2014/02/22「アメリカの指導力16(引き蘢りのリスク4)」まで書いてきました。
3月中旬からクリミア問題が起きたのでその続きになります。
オバマ大統領はシリア問題でロシア・プーチンにひねられ、今度はこの2〜3週間程度の急展開でロシア編入承認まで突き進んでしまったクリミヤ問題で、ロシアの武力行使を押しとどめる力のない状態を満天下に曝しました。
アメリカはロシア高官20人に対するビザ発給禁止程度をロシアによる編入承認と同時(21日ころ)に発表していましたが、こんな程度の制裁?しか出来ない・打つ手なしの状態に陥っています。
(・・ちょっと揉めている間くらい政府高官がアメリカへ行けなくとも痛くも痒くもないでしょう)
その後彼らに対する資産凍結もしたようですが、こんな程度では短期的な効果が知れています。
(ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領の世界平和に対する考え方・・これからの世界秩序維持は武力行使による圧力ばかりの時代ではないと言う精神でオバマがやっているから立派だという意見もあり得ます・・。)
従来基準で言えば、オバマがロシアにやられっぱなしになっているのを見れば、アメリカの国際交渉能力が劇的に低下し始めたと多くの人・・世界中(特に中国)が見ているでしょう。
ただし、ロシアは当面やりトクのように見えていますが、長期・総合的に得するかどうかは別問題です。
ウクライナをめぐる綱引きでロシアが秋にどんでん返しをやって、これに反発する西側諸国がデモや暴動でロシアと結んだ政権を倒壊させるなどしてロシアを追い込み過ぎたのが今回の騒動の直接原因です。
資源価格下落による経済失速で、内政的に落ち目になっていたプーチンが腕力で反撃せざるを得なかったとも言えます。
ロシア介入後の急展開の局面だけ見ればプーチンがやりたいようにやっているように見えますが、追い込まれて焦った行動に過ぎず長期的展望を持っていなかった可能性があります。
結果的にロシアも西側諸国も大損・大打撃を受ける結果に終わる可能性があると思われます。
西欧は南欧諸国問題処理で手一杯・・ウクライナを取り込むほどの大した力もないのに、ウクライナを取り込もうとしてやり過ぎたと思われます。
西欧が仕掛けて今回の紛争が起こったのですから、乱暴をやった西欧もロシアも双方が深い傷を負うことになる筈です。
アメリカはロシアによるクリミャ併合に対して武力では何も出来ない無力さを世界(特に中国に対して)に示した(元々ロシアの勢力圏内ですからアメリカの最盛期でも同じですから、当然と言えば当然です)。
ロシアは脆弱なクリミアを手に入れることによって、継続的膨大な援助が必要になり、他方でクリミヤ奪取により旧ソ連圏随一の人口大国であるウクライナを完全に敵に回してしまい大損です。
こんなやり方をされたら困るその他旧ソ連圏諸国も、一歩引いていて直ぐにクリミア独立を承認したのはベラルーシだけです。
ロシアは、19世紀型武力を背景にした併呑実行で世界中を敵に回す(警戒の対象にする)大きなマイナスを背負いました。
黒海艦隊維持のため踏み込んだ対応をしたというマスコミ解説が多いですが、ウクライナが仮に親西欧になってもイキナリ黒海艦隊に出て行ってくれというとは考え難いので、マスコミ解説は不合理です。

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