任命の効力2(拒否・辞職→反抗認定→小田原征伐)

小田原攻めのきっかけになった真田昌幸は、武田家最盛時には武田24将の一人でしたが、武田家滅亡後武田旧領地を一括支配させるために信長が派遣した滝川一益の与力となって本領安堵し?本能寺変後滝川一益が畿内に逃げ帰って空白地帯かしたあと甲州〜信州一帯が家康と北条の草刈り場になった時に(天正壬午の乱)北条と家康の講和条件として信濃は家康、北関東は後北条の切り取り勝手となった結果に怒って自立したものです。
すなわち、真田家は武田家の信州から上州への進出により獲得した東信濃と上州吾妻郡と利根郡だったかの沼田城を根拠地とするいくつかの枝城の支配を許されていた状態で武田家滅亡後、旧武田家領地一括支配として入った滝川一益から本領安堵されたいわゆる地元豪族・小名でした。
武田家滅亡後滝川一益退却後空白地帯となった東信濃に侵攻した北条氏に一旦従ったものの、家康の信濃侵攻に応じて家康に服属していたのですが、家康と北条との講和で勝手に上野国を北条の切り取り勝手と決められても、上州2郡を家康にもらった領地でないので服属条件・本領安堵の約束違反で飲めるものではありません。
止む無く上州の領地を北条に差し出すか、双方に反旗を翻して双方と敵対して滅びるかの瀬戸際で頼ったのがまずは上杉家であり、豊臣家の惣無事令でした。
徳川から北条への上州の領地・沼田城他の引き渡し勧告を拒否した上で上杉と真田が同盟を結んだので徳川家からの攻撃が始まったのですが、上杉の応援と(第一次上田合戦)昌幸の巧みな戦術で何倍もの徳川軍を撃退して、徳川方が攻めあぐねているうちに昌幸が次男幸村を豊臣政権に送り込み、豊臣家直接臣従に成功します。
それまでは配下武将の更迭と謀反に対する制裁は内部問題のレベルで、惣無事令の対象外でした。
この辺は徳川体制下でも同じで、大名が家臣の領地を取り上げたり切腹を命じたり処分するのは大名家内の自由でしたが、将軍家お目見え→将軍直臣までなると大名の自由処分権が制約されたのと同じです。
これによって大名として自立してしまったので、豊臣政権の惣無事令の対象となりましたので、徳川からの攻撃の心配がなくなり後は豊臣政権への出仕を拒んでいる北条との攻防だけ残る状態になっていました。
後北条は武田家の圧迫が亡くなった後、北関東に勢力を伸ばすチャンスと見てジリジリと勢力を伸ばしていて、関東地場大名連合軍との合戦(沼尻の合戦・1584年(天正12年))を制していよいよ北辺の真田領・沼田城を中心とする地域に触手を伸ばすようになったのですが、この時点ではすでに秀吉の四国〜九州征伐が終了していた点が重要です。
秀吉は西国方面の平定に関心があったのでこれまで関東の戦闘にあまり関心を示さなかったので、甘く見たのでしょう。
しかも直接の臣下になっている真田攻撃を秀吉が放置できるわけがなく、総攻撃の決定となりました。
真田昌幸は武田家滅亡〜本能維持の変後激変する信州〜北関東の政治情勢下でうまく生き延びて大名昇格を果たした類まれな政治感覚と戦巧者でしたが、うまく生き延びられたのは秀吉の厚遇があったことによるのでこの恩義を大事にしたことで歴史に名を残しました。
徳川はこの攻防戦を経て真田家の武勇・戦略の確かさを知り、味方につけて損がないと見て、重臣と真田家の縁組を図り味方に取り込む戦略を採用し、真田家はいわゆる豊臣恩顧の大名であるものの、秀吉死後家康必勝の勢いがわかっていたので家督相続者である長男信之を家康側近の娘を嫁にとって保険をかけるなど双方冷徹なプロ対応を取ります。
幸村と大谷刑部との関係や上記上杉との義理などいろんな経緯を踏まえて、関ヶ原の時には家督相続させた長男を家康軍に派遣し、自分は隠居身分となり次男信繁(通称幸村)が西軍につく義理を尽くしたものでした。
ちなみに講談で知られるように真田幸村の活躍で徳川家に信之家が睨まれていたかというと、長男の家系はその後も幕閣で重用され幕末近くには老中にまで上り詰めています。
現在でも総裁選で争って負けた政治家が組閣時に入閣に応じることは、政権を支える意思表示となり現政権に挑戦する意欲を持っている以上は入閣要請に応じないのが原則です。
反主流あるいは批判的意見を主張していても入閣した以上は、鉾を収めて従う意思表示になります。
倒閣運動あるいは現政権の続投を阻止して次期総裁選を戦う以上は、早めに閣外に出て旗幟鮮明にしておくのが普通です。
内閣にいるときに現政権施策に協賛していたのに、閣外に出た途端に現政権の過去の政策批判するのは論理的に無理があるからです。
北条氏は秀吉が関白太政大臣として上洛を命じても応じなかったのは、秀吉を覇者と認めない・挑戦権を放棄しない意思表示でした。
現在一般企業でも社員が病気でもないのに出社を拒む・・学校の場合生徒の欠席が続くなど・不審に思い、同僚上司を使い何があったのか様子を探るのが普通です。
荒木村重が、信長に伺候しないで居城に篭り度重なる同輩の勧告(秀吉配下の黒田官兵衛が説得に赴いて土牢に監禁されています)など伺候命令に応じなかったので謀反の意思表示として総攻撃を受け一族悲惨な結果に終わったのもその一例です。
その頃はしょっちゅう信長のもとに伺候していないと謀反の疑いを受けるので、諸大名は戦線現場から抜け出してでも中間報告と称してまめに伺候するのが普通でした。
気配りに長けた秀吉の場合、中国方面の支配地拡大戦略を任されていた秀吉が自分の戦功が大きくなりすぎる危険を察知して、信長直々の采配による派手な戦勝演出のため備中高松城などの小さな城を地味に落としていくのではなく、水攻めで時間をかけて毛利本軍おびき出し戦略をとり毛利本軍が出てくると「上様でないと」自分の能力ではとても無理なので・・とおだてて信長本軍の出動を懇願して信長をその気にさせたと(小説の世界です)言われます。
このお願いのために肝心の城ぜめを部下に委ねて安土に舞い戻るなど小まめな行動をしていたことがわかります。

中朝の反抗2

北朝鮮は将軍支配をやめることになる民主化要求だけはどんなマイナスがあっても飲めない・・国益よりは将軍支配維持の方が優先する国ですから、制裁強化によって経済的困窮にいくら追い込んでも、中国から引きはがせません。
等しく貧しい場合、それでも李氏朝鮮時代に比べれば良い方でしょうから、政権転覆にはなりません。
イランの場合も、制裁によって経済困窮が進めば進むほど国民大衆の反米意識が高まる関係ですから、経済制裁によって親米政権に代わることはあり得ないと思われます。
この点はリビヤ、エジプト等の政変によって生まれた政権が反米になっても同じ関係です。
彼ら民衆による政権は、アメリカと対立して経済が苦しくなってもその理由で自分たちの立ち上げた政権を非難しないでしょう。
石油利権の恩恵の分配によって何とか独裁を保って来た国々が、ここ何年かの石油価格の下落によっておこぼれを配れなくなったことがアラブの春を引き起こした経済原因ですが、中国も成長停滞が始まったことによるおこぼれ分配縮小による不満のはけ口に困っています。
独裁国家を経済的に見れば、巨額収入を得る特権階層とそれ以外に分かれる社会ということですから、この点はアラブの王族と共産党幹部とは名称が違うだけです。
中国に政権崩壊が起きるとすればネットの発達による民主化要求によるのではなく、成長が停滞して分配資金が縮小して来たときに、食えなくなったことによる命がけの暴動・巨額利権を独占して私腹を肥やしている指導層に対する怨嗟の声によることになります。
食えなくなったら数日から1週間後にはどうせ死ぬのですから、そうなった民衆ほど怖いものはありません。
そのときには中国の存在するこの地域で、古代から繰り返して来た流民発生による王朝崩壊図式の繰り返しになるのでしょう。
昨日から書き始めたアジアにおける米中角逐に話題を戻しますと、今回の尖閣諸島問題が大きくなればなるほど、日中間の政治・経済・文化関係が縮小することになるので、これも日本と中国の密接な関係の冷却化・引き剥がしの(ミャンマーに次ぐ)成功例になります。
アメリカの民主化要求は全世界規模で行なわれていて、中国に対しても本来例外ではあり得ません。
中国では反日教育をしてきましたが、反米教育は殆どしていませんので民衆には反米意識は伝統的にありませんから、権力側が対アメリカ協力姿勢をとってもアラブ諸国と違って国民の反発はなく、直ちに政権が瓦解する訳ではありません。
しかし、民主化要求だけは、これに応じると共産党独裁政権を維持出来ないのと、成長停滞開始による社会矛盾の激化が始まりつつあるこのときには、アメリカのご機嫌を取るために微温的にでも民主化を進め広げるどころではありません。
むしろこれまでなかったネット検閲まで新たに始めて、今まで以上に民意を封じ込めたくなったのが中国政権です。
(これの協力命令に応じないグーグルが2010年3月に撤退になりましたので、アメリカの民主化要求は他国に対する高見からの問題ではなく、アメリカ企業自身が踏み絵を突きつけられ・・アメリカは敢然と拒否してグーグル全面撤退となりました)
正面から反民主化行為・検閲協力を挑発されてアメリカを代表する大企業が全面撤退に追い込まれたとなれば、アメリカは黙ってられない筈です。
イランの場合、既に民主化されていて政権関係者が私腹を肥やしていると言う不満が民衆にはありませんので、アメリカとの対決によって国民が困窮しても政権に向かって牙を剥くことはありません。
中国の場合、ここでアメリカと対決して経済がもっと激しく停滞したら、私腹を肥やしてる政権幹部に対する国民の不満が爆発してしまいます。
中国は核兵器を持っているのでイラクのように軍事攻撃される心配はないものの、アメリカと正面から事を構えて経済成長が止まるリスクを取れません。
そこが民主化を果たしているイランやアラブ諸国との違いであり弱みです。
中国は民主化要求だけはのめない・・言論の自由に関するネット検閲要求・・グーグル問題では米中共に国是にかかかわるので双方妥協出来ないが、それ以外の経済進出は歓迎するので「穏便に・・大目に見てくれないか」と言う取引(この種では口頭約束も文書もあり得ませんが、相手の軟化を期待して静々とやるものです)になってもおかしくありません。
アメリカも中国に対する経済制裁による中国国内の大騒乱は世界経済への影響が大き過ぎて困るので、妥協するしかない面があります。
グーグルが中国の検閲を受入れないで撤退する代わりに、アメリカの別の企業をその何倍も受入れてお茶を濁すのであれば、経済的利益のためにアメリカが民主化要求を引っ込めたのと結果は同じです。
日本は約3年前に民主党政権成立によって軍事的にもアメリカ離れが起き始めていたのですが、2010年9月7日狙い済ましたかのように中国政府の後押しで漁民と称する者達による尖閣諸島への領海侵犯行為と漁船による体当たり事件が行われました。
中国との緊張勃発によって日本民主党政権は、アメリカ依存を強めるしかなくなるし、日本の各種商品・車は売れなくなるし、その隙を衝いてGMやフォードは売上を伸ばすなどの経済メリットの外に、中国はアジアで孤立して行くので、中国との覇権争いになりつつあるアメリカにとっては尖閣諸島問題の勃発は良いこと尽くめです。
こんなにアメリカにとって絵に描いたようなうま過ぎる話・・中国の政策ミスは本当にあり得るのか?
と言う疑問が湧いてきます。
この段階では欧米や韓国企業等が得して日本だけが損をしているように見えますが、実は中国政権幹部の利益維持のための民主化拒絶と引き換えに人民が割高な商品を買うしかなくなっている・・損をしていることになります。
日中紛争の結果トヨタのシェアが20%から7%に減ったということは、中国人が自由に選択出来ないために、性能と値段の関係で有利な車を買えなくなって、割高な車を買わされていることになります。
同じことは、その他の商品・部品でも言えます。
今年の年末旅行商戦では日本から中国への旅行者が5〜8割減と報道されていますが、その分何倍もする欧州旅行が何割も増えていると報道されています。
日本人も経済的に不合理な選択をしているのです。
日本人はお金持ちが多いとは言え、中国韓国等安い所へしか行けない人は我慢しているということでしょうか?

中朝の反抗1

北朝鮮がアメリカによる安全保障を欲しがっていることや、あくまで核兵器保有にこだわるのは、理不尽なイラク侵攻に虞れをなした対アメリカ恐怖症・・パラドックスですが、恐怖感が強くて簡単に妥協出来ないので突っ張るしかない状態になっています。
アメリカによる将軍様体制保障さえしてくれたら良いという北朝鮮の立場は、国民に対する反米教育をそれほどしていないから、成り立つ論理なのでしょう。
アラブ諸国と違って、建国以来アメリカと正面から敵対して来たことによって、傀儡政権ではなかったことから具体的な被害を受けて来た歴史がないので、国民レベルでのアメリカに対する不満が蓄積していないことによります。
もしもアメリカが民主化要求を引っ込めて将軍体制保障下でアメリカと正常な交際が始まると、一昔前の中南米独裁政権やアラブの王様や独裁政権とアラブの国民関係同様になります。
アメリカによる半端な承認を得るやり方は、当初は開放経済化によって高度成長するので何とかなりますが、一定期間経過で成長の停滞が始まると、石油収入の一部を分配して不満を抑えて来たアラブ産油国が分配出来なくなった場合と同じような騒乱が待ち受けています。
(等しく貧しい方が政権維持し易いのですが・市場経済化で大もうけした人が出て来ると・・それも政権に近い人が多いのでなおのこと国民は不満を抱きます)
中国もアメリカから共産党独裁を大目に見てもらって市場経済化の果実だけ得ていたのですが、停滞の始まりかけた中国は、おこぼれの分配が出来なくなって来てアラブの独裁政権並みの瀬戸際が目前に迫って来ました。
ですから独裁を当面大目に見てもらう方式は、時間の経過で無理が出て来て独裁は自然崩壊するので、アメリカとしては先ずは市場経済化を迫る方が合理的です。
北朝鮮は国民の反米意識が具体的ではないとしても、中国同様に民主化要求には絶対従えませんから、今のところこの面で6カ国交渉が行き詰まっている状態です。
中国がグーグル事件以降、民主化要求に逆切れ的拒否反応・・・開き直って膨大なアルバイトを雇ってネット検閲して都合の悪い文字が出れば直ぐに消去する体制を維持しているのは、政権崩壊が迫って来たことの逆証明と言えるでしょう。
民衆暴動に対する中国の必死さが、ここ数年の北朝鮮問題の交渉停止に連動していると見るべきでしょう。
北朝鮮が最近打ち上げ失敗したロケットの砲身?が中国製であることが報道されていましたが、中国が北朝鮮の強硬態度を背後で後押しているのは、アメリカによる民主化要求に対する利害が一致しているからです。
対北朝鮮関係は、米中対決が露骨になってくれば来るほど、何ら進展しないことにならざるを得ません。
我が国では中国の海洋権益拡大志向・・小さな島の取り合いだけが注目されていますが、ヘゲモニー争いは国単位でみれば協力国の奪い合いですから、アジアにおける親密国の奪い合いに関する米中角逐が始まっていて、中国の影響下にあったミャンマーの引きはがしにアメリカが成功したところです。
ミャンマーは、政権が個人崇拝になっていないのと政権の腐敗が進んでいないので国益にさえなればある程度民主化に応じても良い状態なのでしょう。
世界中で中南米に始まり多数の独裁政権がアメリから公認されて来た(韓国だって全斗換大統領までは軍事政権でした)中で、ミャンマーだけが経済制裁を受け続けて来たのは、イギリス支配を軍事力で覆した恨みが底流にあるからでしょう。
軍事独裁政権特有の一族が要職についたり、私腹を肥やすような腐敗はミャンマ−ではないように見えます。

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