先取特権(民法)

ところで、東電の操業維持・継続を図るだけならば、民事再生法による再生申し立てや会社更生法適用申請でも裁判所による保全命令・既存債務の支払禁止によって可能ですし、実際それが合理的だからこうした制度が用意されているのです。
日本航空も保的手続きに乗せられましたが、運行は支障なくそのまま継続出来ています。
今回は既存債務(過去の投資家の内で株式で損した人は放置して)貸し付け金や社債権者だけを何故100%保護しようとしているのでしょうか?
東電の財務・収益力を信用して取引に入っていた点は、貸金業者であれ株式購入者であれ、下請けであれ同じこと・・見通しが狂って損をするべき原因は同じです。
株式に比べて、債券保有者の方が元本保証を信頼していた人が多いことや期間のある点を理由にするのかも知れませんが、国債取引に関して数日前から書いて来たように、デートレーダー的投機家は期間途中でも日々債券売買を繰り返して相場形成をしているので、彼らにとっては満期日が3年先か2年先かは、リターン計算の基礎にするだけで日々の相場で売り買いしている点では、株の売買(株式でも次の配当までは一定期間があります)と本質が同じです。
また将来の満期でのリスクに応じて満期前の現時点で日々の相場が形成されている点も、株式(円高になると交易条件悪化によって将来・・半年くらい後の収益に影響する見通しで今日現在の株価が上下します)同様です。
既存債務が・・たとえば3〜5%一律配当になると事故賠償金も既存債務の1つに過ぎません(損害額の査定が将来になるだけで事故自体は過去に発生している)から同じ配当・一律にならざるを得ないところが問題だったのでしょうか?
今回の賠償金は会社再生あるいは更生申し立て(申し立てまでには数ヶ月かかるのが普通です)前に発生した債務であるから、一律3〜5%しか払いませんとなったら、いくら温和な国民でも納得出来ません。
納得しなくとも切り捨てもあり得ますが、それをやるとその他の原子力発電は信用をなくしてしまい、停止中原子炉の再開は100%無理になるでしょう。
今回の被害・・損害賠償金に関しては民法その他の法には損害賠償金や事故後に金融機関が緊急融資した約2兆円の債務を優先支払する特例がないのです。
どうせ新たに法律を造るならば、民法の一部改正に関する特例法で・「今回の原発事故による賠償金及び事故後(地震発生後)に発生した一切の債権を先取り特権に加える」特例法制定の方が合理的だったようにも思えます。
あるいは一般法として民法自体を改正することさえも考えられます。
即ち原発事故に限らず、「倒産・デフォルトの引き金・直接の原因になった損害賠償義務に関しては、最優先債務とする」という一般的改正でも良いかも知れません。
たとえばスモンや薬害エイズなどで巨額債務を負って特定企業が破綻しそうなときに、薬害やイタイイタイ病の加害に加担していた企業の従業員の給料が優先弁済される今の法制度はおかしいと思います。
こうした場合従業員給与よりも被害者救済を優先すべきです。
以下民法を紹介しますが、雇用関係が優先的扱いですが、これは明治時代(民法は=明治二十九年四月二十七日法律第八十九号)の失業保険その他福祉のない時代の産物であって、今では何故雇用関係だけ最優先でなければならないのか疑問です。
とりわけ東電の場合、本当に救済しなければならない末端労働者は下請け・・別会社の人間で雇用の保障もないのに、労働貴族的に1千万以上も貰っていて普段威張り散らしていた人たちが正規社員・雇用者として優先されるのです。
それに給与債務と言っても最後の1カ月分だけで、半年も1年も未払いの会社などあり得ません。
民法が出来た頃とは違い、千万円前後貰っている大手企業正社員が1ヶ月前後の支払遅れで生活に困ることなどあり得ません。
その日暮らしに近い末端労働者でも失業してから失業保険受給まで一定期間あって直ぐには貰えません。
生活保障が必要な場合は、別途福祉の分野で考えれば良いことです。

民法
(一般の先取特権)
第三百六条  次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
  一  共益の費用
  二  雇用関係
  三  葬式の費用
  四  日用品の供給

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