デフレの効用1

 

少子化が進むと国内需要もその分縮小しますが、その分養う人口が少なくなるので問題がありません。
今後海外貿易あるいは所得収支による黒字も徐々に減って行く可能性がありますが、仮に黒字が1割減っても人口が2割へっていれば、オツリが来ます
まして過去の経済大国としての蓄積・遺産でやって行くには、これを使う人口が少ない方が長持ち出来ます。
遺産額が同じとすれば相続人が少ない方が一人当たりの相続が増える関係は国全体でも過去の蓄積利用と言う点では同じですから、日本の政治家がこの難局・・グローバル化対応能力に欠けているならば、ここは一旦少数精鋭主義・・内部留保に努めて身を縮めて一時しのいでおく・様子を見るのが賢明です。
不利な状況時に(為政者やリーダーが対応能力に余るならば)これをやり過ごすには、身を縮めるのはあらゆる生物の本能ですから、この際身を縮めた方が合理的です。
新しく飛躍するには身を縮めてジャンプする必要があるように、いつも伸び切っている必要がありません。
経済規模の縮小・少子化の進行は経済界で言えばデフレの進行と(の原因でもあります)同じで、ここ百年あまり経験していないのでマスコミも学者も頭から悪いことと決めつけたいのでしょう。
06/27/03「学者と実務家 6(教育改革の方向)」05/01/03「プロとは?2」その他で繰り返し書いていますが、学者(文字通り他人の経験を学ぶ人のことです)には過去の経験値の集積が得意な人が多く(学校の成績判定はこうした能力を試すように出来ています)、新しい未経験時代への想像力に乏しい人が偉くなっているのが原因ではないでしょうか。
都市等を縮小してコンパクトにして行くべきですが、その主張の行き着くところがデフレと共通ですので、これについてここで一言書いておきましょう。
私はここ20年ばかりのデフレ傾向は国民にとってとても良いこと尽くめ(と言うのは言い過ぎかも知れませんが・・・)だったように思っているのですが、学者は歴史上の経験を前提に少子化の進行同様にドグマとしてこれを非難するばかりです。
新聞やテレビを見れば一日中どこかでデフレ脱却が急務だなどと言うまことしやかな議論が溢れているので、マスコミの受け売り中心の日本中はこれが今では宗教の如くになっています。
「デフレだと何故悪いの?」と言う質問でもしようものなら、よほどバカのように顔を見直されかねない勢い・・言論の自由がないのです。
図式化をすれば、インフレ・・販売単価が上がれば商人が儲けやすく国民は困るし、デフレ・単価が下がれば売る方が困り消費者が喜ぶと言う図式でしょうか?
所得税も累進税率ですから、インフレで物価が倍になって給与も倍になれば同じようですが、税率がアップするので自動的に引き上げになります。
インフレが良いかデフレが良いかの問題を所得の国内分配率をどこに置くかの問題として見れば、デフレ/円高による輸入物価が下がっても賃金の下方硬直性があるので国民個々の所得分配率があがることになります。
デフレは労働分配率が上がって政府や商人・生産者にとって困ることばかりかと言うとそうでもありません。
従来と同じ生産・物流方式のままで値下げ競争だけと考えれば産業が疲弊するだけですが、コストダウンにしのぎを削っている中からユニクロのような成功者が必ず出てくるものですから、デフレは技術革新に繋がりやすいと言えます。
薄型テレビやパソコンその他電子機器がレベルアップしたにもかかわらずダンピングで値下がりしているのではなく、他所より早くあるいは効率が良くなった・・技術革新に成功した会社が、値下げに成功しているに過ぎません。
技術革新や生産方式の革新によるコストダウン競争について行けない企業が、従来製品よりも品質を落として値下げ競争に参加していると脱落していくことになります。
平成元年頃に2〜300万していて、月額4万円前後の月賦だったかリースだった大きなパソコンが今では10万円内外で買えるのは、技術革新のお陰です。
飲食その他いろんな業界になると新機軸を出せる企業は一つの業界に一つあるかないかですから、業界全体の多数でデフレ反対の大合唱になりがちです。
しかしデフレが続くと原価割れの値下げや、品質を落とす値下げには限界があるのでそこから苦し紛れの工夫が生まれる可能性が高くなり、国家としてはプラスです。
(雪印や船場吉兆あるいは原産地虚偽表示のように後ろ向きの工夫もありますが、これは競争下でいつでも生まれる一種の病理現象に過ぎません)
歴史を辿れば産業革命・・生産効率の革命は、結果的に価格破壊・製品値下げ競争でもあったのです。
この値下げ競争に負けたインドの木綿職人は壊滅的打撃を受け、新興のイギリスは世界の覇者になれたのです。
このように円高等によるデフレの場合、国民の生活水準は上がるし企業努力が起きやすいので国際競争力の源泉になります。
(・・企業努力を怠って、大変だ大変だと言っているだけですとイギリスに負けたインドのようになります)
インフレの場合、国民個々人が出来ることは節約くらいしかなくて(給与アップはインフレに追いつかないのが普通ですので)結果として生活水準が低下する一方となります。
他方業界は(仮に円が半値になった場合を考えれば分りますが、)特段の努力をしないでも海外で飛ぶよ売れるし、国内でもインフレの場合、(安易に便乗値上げしていれば儲かるので、)産業を筋肉質にして行く努力が弱まるマイナスが大きいのです。
これといった努力をしなくとも作りさえすれば、売れるような状況では進歩がありません。

先進国デフレの原因

日本の(技術及び借款)協力で中国に最新鋭の製鉄所その他が生まれすべての分野(農業も指導者が懇切に指導して逆輸入商品に仕上げましたし繊維・衣類その他すべてご存知のとおりです)でそうなってくると、人件費が今でも日本の10〜20分の1ですからそれまでの輸入国が輸出国に入れ替わるのは時間の問題でした。
この関係は日本と中国だけではなく欧米と中国との関係でも同じですが、日本の場合、中国に近いだけではなく上記のとおり積極的に
野菜の作り方餃子の作り方まで手取り足取り指導して、逆輸入しても日本で売れるようにわざわざ出かけて行って指導していたのですから、指導が成功すればその効果として逆輸入品が増えるようになったのはあたり前です。
日本は失われた10年と言われ、更に今では20年と揶揄されていますが、これは上記のとおり早くから後進国への技術移転に努力していて成功した分だけ、日本は欧米よりも早く・・1990年頃から低賃金による低価格品の洗礼を受けるようになったのは当然であって先進国中で日本だけ問題があって低迷していた訳ではありません。
こうして、徐々に新興国と呼ばれる国々が製品輸出国・貿易黒字国として台頭して来て、日本だけではなくアメリカもEUも新興国による低価格製品輸出に脅かされるようになり、世界経済を論じるには今やG7だけではどうにもならなくなり、G20にまで経済会議が拡大されている状況となりました。
日本は中国への進出が初めてではなく、その前から韓国や東南アジアへの現地進出を進めていて日本に関係した国々(韓国・台湾やタイ等)は順次経済離陸出来ていったのですが、いずれも人口的には少数ですので、世界に与えるインパクトは小さかったのですが、そのとどめが巨大な人口を有する中国であったと言えるでしょう。
中国は隣国ですので身近な野菜の作り方まで指導して逆輸入するようになったので、(この点東南アジアは気候風土が違い過ぎて珍しい南洋の果実を輸入する程度でした)全面的な影響を受ける・・文字どおり経済一体化が進んでしまったのが大きな違いです。
中国その他の新興国は資本・技術の受け入れによって・・天然資源以外の国際競争力のある輸出商品を作れるようになれば、物価水準・賃金水準が均一化に進む・・先進国から見れば輸入物価の下落によってデフレになるのは当然です。
後進国への生産移管は当初普及品中心ですが、低価格・普及品では人件費の高低差がもろに価格差に跳ね返るので、国際競争力の有無は人件費差になります。
こうして何十分の1と言う低人件費に支えられて同じ機械を使って同じ品質の製品を作れるようになった後進国では爆発的な輸出競争力を付けることになりました。
産業革命以降先進国が一方的に輸出していた工業製品について、日本については1990年以降(世界全体では大雑把に見て2000年以降)逆流が始まりこれが国内物価の引き下げ圧力になって来ました。

デフレ2(輸入)

兌換紙幣から不換紙幣になってからは、そもそも紙幣不足によるデフレなど起こりようがなくなっているのですから、(実際戦後の日本は物価上昇の連続であってバブル崩壊までは下落したことがありません)無制限紙幣発行可能な不換紙幣時代に、その前の金本位制時代の貨幣不足理論を当てはめても意味がない筈です。
先進国は産業革命以降1990年頃までは世界の工場として(今の新興国同様に)いくら作っても世界中に売れたので設備投資用の資金需要が旺盛・・何時も不足気味でした。
この世界輸出競争の過程で、先進国間での市場争奪戦争・・古くは英仏蘭によるヘゲモニー争い等帝国主義戦争を繰り返したあげくに最後はブロック化によって世界大戦が起きたのですが、第二次世界大戦後は、先進国間の経済戦争が軍事衝突に結びつかない工夫・・自由貿易が戦争抑止に必要と理解して、これを守るガット〜WTO体制の構築によって制御されて来ました。
産業革命以降、列強と言われる先進国だけが鉱工業製品を生産・輸出し、その他の国々はその市場として位置づけられ、その制度的保障・・囲い込みの対象として植民地化されていったのです。
これら植民地は第二次世界大戦後独立したので宗主国による囲い込み・・ブロック化がなくなったものの、これらの国々では先進国の市場として位置づけられたままでした。
元植民地諸国は、工業製品を買うばかりで資源以外の売るものがなかったので貿易赤字をファイナンスするために経済援助としての借款等を得て辻褄を合わしていたので、債務が増える一方でした。
このため(石油等の資源のある国以外は)いわゆる南北問題としてしょっ中最貧国への経済援助の債務帳消しが債権国会議の議題に上っていたのです。
1980年前後中国の改革開放と1990年頃のソ連の解体によって先進資本主義国の資本が今の新興国になだれ込んで工場立地するようになったことから、これまで先進国から後進国へ流れていた工業製品の流れ・・物流の流れが逆転して新興国から先進国へ製品輸出・・グローバル化の時代になりました。
現在の新興国から先進国への物流の逆転は、イキナリ技術優位が先進国と新興国で逆転して輸出国と輸入国が入れ替わったのではなく、周知のとおりこれまで先進国が技術独占を利用して実力以上に高所得・高水準の生活を謳歌していた分メッキがはがれて来たに過ぎないと言えます。
先進国内にある機械設備さえ後進国へ設置して少し訓練してやれば、後進国も同じものを作れる・・当たり前のことが分ったに過ぎません。

労働力過剰とデフレ(1)

ちなみに労働力過剰とは言い換えれば生産力過剰であり、・・製品過剰でもあり、これがここ20年ばかり我が国で続いているデフレの元凶です。
ついでにデフレ問題について少し書いておきますと、現在の経済政策はバカの一つ覚えのように(学校で習ったことしか知らない・・自分で考える能力のないヒトがエリート気分になっているから行けないのです)金利を上げたり下げたりあるいは、紙幣供給を潤沢にする等を繰り返しているのですが、こんなことをしても企業は国内投資するどころか既存設備を売却して海外に移転したいくらいですから、国内資金需要がありません。
資金需要があるとしたら、円高を利用した海外進出用資金が欲しいくらいでしょう。
日本企業が海外投資のために資金をいくら海外で使っても・・資金を持ち込んだ先の中国等の設備投資・消費が増えるだけであって、国内消費需要に結びつかないので、国内商品需給が引き締まることには繋がりません。
私の言いたいのは過去の経済学・・資金不足時代に成立した経済理論を金科玉条のように適用しても意味がないと(アホの集まりかな?)言うことです。
ここ20年あまりの日本やリーマンショック後のアメリカは、金詰まりでデフレ・物価下落になっているのではなく、先進国で作るよりも10〜20分の1程度のコストで作れる中国等新興国から商品が流入していることが原因で価格が下がっている現実を直視すべきです。
日本は中国に近かった分早くその影響を受けただけであって、今になって欧米もその影響を受けつつあるのです。
高校レベルで知っているデフレの定義をここで思い出してみると(誤解しているかも知れませんが・・・)
「資金不足で買いたくても買えない・・そこで物価が下落する・・これをデフレと言い、この結果売れないので生産が減少して再び品薄になって物価上昇が始まるとまた生産拡大になって景気が回復すると言われます。
この循環が原則だが、病人が寝たままでいると足腰が萎えてしまうように大変なことになるのと同様に・・デフレの場合自然治癒しないうちに産業構造が参ってしまうことがあるので早めに手を打つ必要がある・・そこで、足腰が駄目になる前に早めに金利を下げ紙幣の大量供給すれば購入者が増えて早めに価格が上昇する・・ひいては生産意欲が刺激されて重病になる前に景気が良くなると言うのが私が知っている程度の古典的理論です。
・・これに基づいて日銀はバブル崩壊以降金利を下げまくってゼロ金利にまでしてしまい、それでもどうにもならないのでせっせと紙幣の増刷に励んでいるのですが、(金利の上げ下げも同じ考え方です)これは金本位制と輸入品の少ない時代の結果を不換紙幣・グローバル経済時代に当てはめて紙幣発行権を利用して打ち出の小槌のように使おうとするものですが、世の中にはそんな都合の良い結果ばかりあり得ません。

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