人民元相場の重要性3

ところで、恒常的赤字国が実力以上に高すぎる為替相場を維持している場合に、その国の通貨下落を狙うには、その国・例えばイギリスポンドの場合、貿易赤字によって流出したその国の通貨・ポンドを大量浴びせ売りすれ(空売りを繰り返せ)ば足ります。
その国は手持ち外貨の限度しか自国通貨の買い支えを出来ないので、継続的赤字国では外貨準備が乏しいので直ぐに参ってしまいます。
これを狙ったジョージソロス氏がポンド相場で成功した論理です。
では、ある国が管理制で自国通貨を安すぎる水準に抑えている場合、貿易赤字国が為替相場の是正を相手国に迫る・・その国の通貨切り上げを迫るにはどんな手段があるでしょうか?
空売りに代わる空買い・・・昔流行った株式の仕手戦のようなことが成り立つのでしょうか?
小国と違い中国等経済規模の大きい国の通貨では仕組みが詳しくは分りませんが、何となく無理っぽい感じですが、(株式の仕手相場も中堅の軽い株式を狙ってやるもので大型株では無理でした)仕掛人としてはアメリカドルの売り浴びせをすれば結果的に日本円や人民元は値上がりします。
しかしこの方法が仮に可能であるとしても、特定国の通貨が切り上がるのではなく、全世界が平均してドルに対して切り上がるだけですから迂遠で薄い効果しかありません。
まして、管理相場制をしいている国・・アメリカドルや日本円下落に合わせて自国通貨両替基準を自由に変えられるので、資本自由化されていない中国には殆ど効果がありません。
市場原理を利用して相手国の通貨切り上げを迫るには、その通貨買いを入れるしかありませんが、相手国は自国通貨を輪転機の続く限り印刷すれば無制限に自国通貨売り出来ますので、市場は相手国の通貨切り上げを強制出来ません。
対象国は輪転機で刷れるだけ刷って買い注文に答えれば巨大な量の紙幣が海外に流出するので長期的には、却ってその国の通貨が下がってしまう結果になります。
為替相場管理制をしいている国が意図的に自国通貨安を決めている場合、市場原理だけでは適正相場まで引き上げさせる方法がないことになります。
一般商品でも同じで、品質よりも高過ぎる場合買い手がつかないことによって、市場は値下げ強制出来ますが、品質の割に安い定価の場合、売れ行きが好調になるだけで、値上げ圧力には必ずしもなりません。
供給に限界がある場合、・・例えば人力に頼っている料理や工芸品の場合、適正能力以上の受注があると次第に品質が落ちて来るので、品質維持のためには受注制限・・引いては買い手の方が多いので単価アップになることがあります。
しかし、工業製品の場合、生産能力以上に売れるときには工場新設・・設備投資して更に多く作れるように出来ますので、この場合規模の利益によって、より低価格で生産出来るようになりかねません。
(値上げ圧力にはなりません)
資本取引の自由化が進めば、その方面からの修正(・・実力以上に自国通貨が安いことによって儲け続けるとその儲けに参加しようとする外資流入が増えますので、結果的に通貨が上がります・・)が起きて来るのでしょうが、今のところ中国の場合、外資の自由参入(短期取引)や無制限自由な両替が認められていない様子ですので、その方面からの圧力も生じません。

人民元相場の重要性2(米中の確執2)

ここ数年来の欧州危機は、ユーロ相場がドイツ等競争力のある国の輸出に引きずられて南欧諸国の実力以上に高くなってしまいましたが、彼らが自国貨幣を持たないことによって、為替相場変動によって競争力を修正出来ない(ユーロとはマルクベッグ制の一種?)ことから起きていることです。
相手がドルであれ、マルクであれ、ペッグ制採用国はドルやマルクとの関係では為替変動が一致しているので、ドルやマルクが下がり続けるときには旨味があるものの、ドルやマルク・ユーロが上がるときには一緒に上がってしまうので逆に大変なことになります。
アメリカのドル高政策について行けなくなってアジア通貨危機が発生し、この教訓によって危機以降殆どの国がドルペッグ制から離脱し(振り落とされ)ましたが、中国はその後ドルが下がり続けるトレンドになってからの世界貿易参加ですので、ドルにべったり吸い付いていれば損がない関係で来ました。
リーマンショック以降のドル安展開には、中国としてはドルにくっついている方が得・・(対ドルで上がった日本円に対して人民元も下がります)アメリカにとってはいくらドルを切り下げても人民元が背中に張り付いて来て振り落とせない・・対中国赤字解消には効果がない・・いらつく関係が起きています。
アベノミクスで日本円がせっかく下がっても、仮に、韓国ウオンが円に連動して一緒に下がれば日本は(いい加減にしろ!と)怒りたくなるでしょう。
アメリカの場合、南欧諸国と違って自分で自分の為替政策を自由に出来ますが、肝腎の巨大赤字の原因になっているUSドルの切り下げにそのまま反応しない・人民元がその分切り上がらないのが難点です。
バスケット方式の場合緩い関係ですがその構成比率に応じて反応しますが、中国の場合、バスケット内の比率等一切明らかにしないで政府の秘密基準で勝手に為替水準を上げ下げしているので、これではバスケット方式とも言えません。
結果、アメリカの為替相場政策には効果がない・・アメリカはいくらドルを切り下げても対中国ではこれに関係ない為替水準を決定すれば、対中国ではドル下げの効果が出ません。
猛獣に襲われて車のスピードを上げて逃げようとしたら、猛獣が既に車のうしろに飛び乗っているようなものです。
小さな国の場合、アメリカドルに連動してもアメリカに取っては大した問題ではないですが、中国の世界貿易に占める比率が上がって来ると、この巨大貿易プレーヤーがアメリカドル相場に連動して来るのでは、無視出来ません。
中国としてはアメリカをあまり怒らせないようにバスケットの比率によらずに、適当なサジ加減で程々に切り上げている・だからバスケットの比率/中身は秘密と言うのでしょうが、この方式では今時あまりにも不透明過ぎます。
アメリカがドルを実力相応にせっかく低下させても最大貿易赤字国である対中国で効果が大幅に尻抜けになれば、アメリカの中国に対する不満がファンダメンタルズとして高まってしまいます。
昔(1985)のプラザ合意が日本だけをターゲットにした為替水準の変更であったのも、当時日本だけが巨額貿易黒字国であったのですから、この原理から理解可能です。
中国の場合2005年6月までは、1ドル8、25元の固定相場制でしたし、その後一時バスケット方式の変動制をとっていましたが、最近では組み込み通貨の比率を秘密にして適宜為替基準を発表するだけです。
これではバスケット方式というよりは政府が都合よく決めるための参考数値を内部で秘密に収集しているだけになります。
バスケット方式の場合、組み入れ比率を公表しているので予測可能ですが、中国はこの比率を秘密にしているので、為替管理が恣意的に行なえる・・この意味では、中国の為替管理制度はバスケット方式にさえなっていないことになります。
(この意味ではバスケット方式をやめるという4月7日に紹介したウイキペデイアの説明では、完全変動制になるのかと誤解しますが逆に)バスケットまでも行かないように後戻りする意味では正しいことになります)

人民元相場の重要性1(米中の確執1)

力のある国の場合、限界が来るまで時間経過が長い分、イザ市場の反撃を受けると巨大な落差効果・衝撃になります。
この始まりがサブプライムローンに端を発するリーマンショックでした。
アメリカはリーマンショック以降急激にドル安政策に転じたのですが、これは市場原理にもマッチしていたので、そのまま市場に受入れられてうまく行っています。
バーナンキ議長の手腕というよりは、実体経済に合わすしかない局面で実態に合わしただけのことです。
この辺はアベノミクスという円安政策も実態に合わしているだけで、放っておいても円が安くなる局面であったことは、2013-4-1「アベノミクスと円安効果?2」前後で連載して来たことと同じです。
何の寓話だったか忘れましたが、王様が何故政治がうまく行くかを聞かれて、「国民の期待する方向で命令するから守られている」と説明している場面がありましたが、これと同様に、政治というのは経済実態・国民の期待にちょっとした先取りをすれば成功します。
アメリカがせっかくドルの下落を通じて貿易収支の改善をしようとしても、貿易相手の大半がドルペッグ制やバスケット方式(リンク制を間接化したものです)を取っていると貿易相手の為替も一緒に下がるので、為替変動の政策効果がペッグ方式採用国に対しては空振りに終わってしまいます。
ドルが下がる一方だった数十年間ドルが対日で下がればドルペッグ制の国々はアメリカドルと連動して一緒に下がるので、いつも良い思いをして来たのです。
この逆張りと言うか、アメリカがドル高政策への変更したときにドルに連動していたアジア諸国がドル高について行けなくなって(現在の欧州危機と同じです・・輸出力のある独蘭等北欧諸国を基準にユーロ相場が決まると競争力のない南欧諸国がついて行けません・・)アジア通貨危機になりました。
この通貨危機を利用して、アメリカはアジアのドル・ペッグ地域・国の多くを振り落としてしまいましたので、(南欧諸国はユーロから今のところ離脱しませんが・・・)今ではドル安政策転換の効果がかなり大きくなっています。
アジア通貨危機の後に東南アジア諸国に代わって中国が巨大貿易相手国に浮上してきましたが、中国は未だにドル連動?管理制にしがみついているので、リーマンショックでUSドルを大幅に引き下げても一緒に中国元が下がるのでは、対中国関係の赤字解消にはアメリカのドル安政策の効果が直接的には出ません。
この結果、アメリカの中国に対する人民元安為替管理政策への批判・いらだちが強くなってきます。
アメリカの貿易赤字の主たる要因が対中国赤字にあるとした場合、対中国通貨で為替相場を変更しなければ解決しません。
ちなみに本日現在中国がどのような為替管理制度を採用しているのかネットで検索しても何年か前の意見ばかりでまるで何も出ていません・・多分秘密過ぎて誰も客観的論評出来ないからでしょう。
元々アメリカとしては自国通貨を下げると全世界に対する薄まった効果しかありませんが、そんなことよりも対米黒字の大きい国(中国)が通貨を切り上げてくれた方が効果が直接的です。
身体全体に効果のある薬よりも患部にだけ効く薬の方が効率がいいのと同じです。
まして対米大幅黒字国が(直接連動式は少なくなったとしても、バスケットによる間接的でも)USドル連動式ではUSドル切り下げの意味が薄まるので、アメリカが腹を立ててもおかしくありません。

国債相場2(金利決定)

国際収支赤字が続く国では資金不足になるので決済資金のために外資が必要となり外資導入のためには金利が上がる(為替相場は下落する)しかないし、黒字国は資金が溜まるばかりで使い道がないので金利が下がるしかありません。
世界一の資金余剰国である日本が世界最低金利でここ20年ばかりやって来たのは、日銀によるゼロ金利策の結果ではなく実勢の追認でしかなかったことになります。
(余った資金の運用のために高金利国に資金が循環して行く・・これが長年アメリカ財務省証券へ還流していた仕組みです)
金利は実勢(需給)に従うしかないとすれば、日銀が基準金利を上げたり下げたりしているのは、シビアーに言えば自己満足的なお遊びみたいなものに過ぎません。
従来「公定歩合」と言っていたのを10数年前に「基準金利」(相場はこんなものという発表程度)と改めたのはこれを表しているのかも知れません。
この1週間ほどロンドンのライボー(LIBOR)指標が不正操作されていたことが明るみに出て騒ぎになっていますが、実際の銀行間取引がいくつもあってその結果報告をさせて、ライボーはその結果報告を加重平均して指標にしていたに過ぎません。
言わば日銀・中央銀行の決定する金利は市場での資金の需給を感覚的に受け止めて(報告させているのでしょうが・・)指標化しているのと似ています・・中央銀行の機能は今ではその程度の効能に過ぎないと見ることが可能です。
インフレになると引き締めのために中央銀行が金利を上げると言いますが、好景気=資金需要が盛んですから、放っておいても実勢金利が上がってくるのですからその追認または先導をしているに過ぎません。
景気対策として金利下げをするのも同じで、不景気になって資金需要がなくなってくると市場金利が先に下がって来るので放っておいても同じと言えば同じです。
ただし、需給によって自然に上下するのを待っていると金利はいつも後追いになるので下降局面では資金繰りが苦しくなるし、上昇局県では金利上げが後追いになるので過熱し過ぎます。
このために中央銀行が早め早めに調節している面があります。
天気予報が実際の天気より早いからと言って、気象庁が雨を降らしたり風を興しているのではありません。
もしも実勢と乖離した金利決定をしたら、市場からブーイングが起きるでしょうから日銀や各国中央銀行には実は裁量権が殆どない・・少し市場の動きを先取りすることが出来るくらいしかないのです。
株式の場合は公開市場での売買ですので操作余地がありませんが、為替取引や銀行間取引は、個々の銀行間での相対取引の集合ですから、銀行が日々の取引結果を虚偽報告していたら実勢と乖離してきます。
これが中央銀行の示唆(誘導)で行われていたとしたら、・・・と言うのが、今回のライボーを巡る大騒動・・大きな関心を持たれている理由です。
元々中央銀行は実勢そのものの発表だけでは存在意義がないので高め低め誘導するくらいしか機能・役割がないのですから、正々堂々と誘導していると言えば問題がないのですが、その代わりライボー相場金利が信用出来なくなり誰も使わなくなるでしょう。
株式相場が真実の取引価格ではなく当局の都合で潤色されて発表されているとしたら、大変なことになりますが、ライボー疑惑もそう言う問題です。

国債相場1(金利上昇)

株式や円通貨と違い国債には満期があるので政府はいくら売り浴びせがあっても満期が来るまで支払う義務がありませんので、期中の売り浴びせは、売る方が自分の手持ち債券評価を下げてしまうだけで満期前には政府が困ることがありません。
とは言え、債券相場下落=金利上昇ですから、政府は次回からの借換債発行コストが上がって困ります。
普通に考えれば自分の保有債券の売り浴びせは自分が損するので出来ないのですが、空売りという手法があるのでこれが可能になっています。
大量売り浴びせ・一種の仕手相場形成が成功すれば、大もうけ出来ますので、December 1, 2011「ポンド防衛1」のシリーズで紹介したジョージ・ソロス氏が、1992年にポンドを売り浴びせて何百億単位で儲けたような事態が可能になっています。
こうした空売りが成功するにはその下地・・実体経済能力と国債・為替相場が大幅に乖離している(その気配が充満しているときの発火点になる)ことが必須で、実態と大きな乖離がないときに仕掛けても(燻って終わりで)失敗するだけです。
ポンド防衛に関してこの問題をシリーズとして書き掛けでしたが、また機会があれば元に戻るつもりです。
空売りが出来るようになったので、中央銀行による実勢相場把握力の鈍化あるいは意図的なお遊び・・高め誘導などが過ぎると市場の反撃・・空売りなどによる是正を受ける仕組みになっているので、この後で書きますが今ではどこの中央銀行でも実勢追認が主流でしょう。
金利上昇の下地があるかどうかは、国内にどの程度の金あまりがあるか・資金の不足度合いに国債の実質金利がかかっているので、資金不足度=長期的国際収支のプラスマイナスの状況次第となります。
我が国の国債や市場金利が世界一低いのは経済力・・黒字度が世界一であるからであり、中国が儲かっているように見えても高金利を維持するしかないのは実際には資金導入の必要な国・・資金不足国であることを表しています。
どこの国でも長期的に国際収支マイナスが続けば、国内資金が徐々に逼迫して来る・・対外債権が減少して純債務国に転落しひいては外国から借りなければ貿易決済が出来なくなって来ます。
日銀・中央銀行が政策金利をいくら引き下げたくとも、需給に応じた金利にしないと外国勢が貸してくれません。
為替相場は企業の大合唱その他の圧力で介入すれば数日程度は円高を冷やすことが出来ますが、金利は長期取引(銀行間取引は別ですが、企業の資金調達では短期でも借りる以上は数ヶ月間など一定の期間があります)のために、日銀がどうすることも出来ない・・実勢相場での取引しか出来ないのが実情です。
すなわち為替相場とは違い国債金利相場は政府が勝手に決め切れない・・国際金融情勢にマトモに連動しているので、その乖離が発生し難いのでこれを突いての空売りで大もうけしようとすることはあり得ないことになります。
国債残高が多くなって来ると少しでも金利が上がると大変なことになるというマスコミでの論調が多いのですが、残高が大きくなると金利が上がるのではなく金利は資金需給による・・すなわち長期的国際収支バランス(対外債務の多寡)によることです。
財政赤字かどうかは、国内資金調達を税収によるか国債によるかの給源問題に過ぎず、日本国が立ち行かなくなるかどうかは国際収支の問題であることを2012/04/28「税と国債の違い1」以下で書いています。
国際収支黒字継続している限り、国債発行残高がいくらであろうとも関係がありません。
一家の収入総額の範囲内で生活している限り、息子や娘から生活費として強制的に徴収するか同額を息子や娘から借りたことにするかの違いによって破綻するか否かが決まるものではありません。
一家(息子や娘を含めた同居人)の総収入が一家の総生活費を上まわっているか否か(収支バランス)こそが重要です。
借金していても収入の範囲内ならば払えるし、借金ではなく預金の取り崩しであっても収入を越えた生活をしているとその内払えなくなります。
国家で言えば国際収支の範囲内で生活をするかどうかが重要であって、生活レベルを収入よりも高くし過ぎると、対外的に払えなくなるのは当たり前です。
ですから一定の生活水準を維持する資金の出所・・財政赤字の額よりは、現状が国際収支を悪化させるほど贅沢しているかどうか・・そのデータ提示こそが合理的な議論の叩き台に必要です。

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