国際競争力低下と内需拡大2

リーマンショックで困ったからと言って、アメリカが借金で内需振興すれば貿易収支がよけい赤字になりますから、リーマンショックに対する処方箋としては、借金で贅沢し過ぎたアメリカ経済の縮小しかありませんでした。
世界中の輸出を引き受けて来たアメリカがいきなり輸入を縮小させると・・・世界経済危機を招きかねないので、これを防ぐためには、巨額貿易黒字国になっていた中国に大規模な内需振興を頼るしかなかったことになります。
平成バブルまでは日本とドイツが世界経済の機関車役を担なっていたのが中国の役割に変わったのです。
ちなみに公共工事を含めた内需振興(医療・福祉やサービス業の拡充)とは、労働需給の面で見れば、海外への輸出品の製造に従事していた労働需要減とこれが減ったことによる関連職種の縮小に対する受け皿造り・失業対策事業の拡大政策と同義と言えます。
これを生活面で言えば、もっと国民の生活水準を引き上げる・・贅沢してくれというのと同義です。
未舗装道路の舗装をし、(石張りに張替えたり)階段にエスカレーターやエレベーターを付け、美術館など多く設置するのは国民としては利便性が上がりますし、福祉施設を増やせば高齢者を世話する家族は楽です。
内需拡大はいくら増やしても(国民は忙しく働けますが・・)外貨を稼げませんから、経済の論理から言えば貿易黒字の蓄積した国しか出来ない芸当です。
海外輸出向け生産縮小=労働市場の縮小に対して、内需拡大で対応するのは、大工さんが外からの受注が少なくなったヒマなときに自宅を増改築したり、家族旅行したり自宅でパーテイをし、具合の悪い母親を病院へ送り向け出来るようになったと言えます。
高度成長期は大工さんで言えば仕事が忙しすぎて・お金は十分稼いでいるものの自分の家に手を入れる暇がないようなもので、(言わば労働力不足社会です)輸入超過の赤字国に対する失業の輸出状態です。
(赤字国では失業でヒマを持てましています)
輸出減少社会・・貿易黒字が右肩上がりに増え続けるのではなく安定成長(前年比増ではなく、上がったり下がったり)あるいは若干輸出減少気味社会になると、目一杯働かなくとも労働力にゆとりが出ますので、(他方でまだ黒字が続いていて資金的ゆとりもあって)自分の家を直したり増築したり芸術を楽しんだりするゆとりのできた社会となります。
この状態に入ったのが、昭和50年代後半から現在に至る過程ですから、最も充実した時期に我々は生きていると言えます。
従来のように連年前年比何%増の黒字というのはなくなりましたが、その代わり無茶苦茶に働かなくとも良くなって人間らしい生活が出来るようになりました。
ゆとりのある生活をしていても、リーマンショック直前までは年間18〜19兆円平均の経常収支の黒字が続いていたのですから、何の問題もありませんでした。
上記については、05/26/07「キャピタルゲインの時代17(国際収支表2)」のコラムで紹介した平成18年度までの国際収支表による意見ですが、2008年以降はリーマンショックの影響で貿易黒字が減少し、トータルとしての経常収支も減っていましたが、それでもまだ大規模な黒字のままです。
今年の発表は以下の通りです。
平成22年中 国際収支状況(速報)の概要 平成23年2月8日
財務省
【ポイント】
所得収支黒字が減少(前年比)したものの、貿易収支黒字が増加(同)し、経常収支黒字は3年振りに増加(同)。
I 経常収支

経常収支:17兆801億円の黒字(前年比+3兆7,934億円[+28.5%]黒字幅拡大)
「所得収支」の黒字幅は縮小したものの、「貿易収支」の黒字幅が拡大し、また、「サービス収支」の赤字幅が縮小したことから、経常収支の黒字幅は拡大した。
1.貿易・サービス収支:6兆5,201億円の黒字(前年比+4兆3,953億円[+206.9%]黒字幅拡大)
「貿易収支」の黒字幅が拡大し、また、「サービス収支」の赤字幅が縮小したことから、「貿易・サービス収支」の黒字幅は拡大した。
以下省略

上記の通り、昨年度は約17兆円の黒字になっています。
理想的な状態にある日本なのに、「日本はもう駄目だ」というマスコミ論調が多いのは、目覚ましい躍進を続ける日本に対するやっかみ・・何かあると、その都度「今度こそ日本は駄目だろう」という諸外国の期待感が世界世論を形成し易かったからです。
現在で言えば中国で何かあると、中国政治・経済の危うさを大々的に報道することが多いのと同じです。

国際競争力低下と内需拡大1

欧米では、日本の高度成長が始まったとき(昭和30年代後半)以降、輸出競争で日本に追い上げられていて、日本が伸びた分だけ輸出産業の衰退縮小・・労働力過剰が続いていました。
欧州諸国は競争力低下解決のためにトルコ人等低賃金労働者の受け入れで凌ごうとして来たのですが、(我が国の場合韓国台湾東南アジア等への進出策でしたが・・)低賃金競争で日本に負けたのではなく技術力(古くは繊維・ソニーやトヨタなど・・・)で負けたのですから、低賃金外国人労働者の受け入れで解決出来る筈がなかったのです。
今朝の日経朝刊の「私の履歴書」では東レが炭素繊維で世界トップ技術になって行った経過が書かれています。
後進国から未熟練労働者を受け入れると労働者の平均レベルが余計下がってしまいます。
長期的には労働人口過剰・・彼らと彼らの子孫に対する教育負担・犯罪増その他お荷物が増えるだけの結果になって・・将来への負担を残して行く筈です。
外国人労働力移入の問題点については August 18, 2011「損害賠償リスクの先送りと外国人労働」その他これまで何回も書いています。
(今夏にはイギリスで外国人労働者2世?が暴徒化して大問題になりました)
自尊心その他の要因で自己欺瞞のために低賃金国に競争で負けたと宣伝したい気持ちは分りますが・・現実を直視しないと却って傷が深くなる例です。
この辺はアメリカも同じで、外国人労働力という名目ではないですが、移民・難民受け入れ名目での低賃金労働者の絶えざる流入あるいは人口増で労働人口が増え続けていますが、この政策は国全体ではGDPが増えるかも知れませんが、平均レベルが下がってしまい却って個々人は貧しくなるしかありません。
上記のとおり、欧米では観光その他内需型・住宅産業・サービス業にシフトして失業者の受け皿として来た内需振興・・資金の食いつぶしの歴史が長く、(約50年経過))たとえば、アメリカで言えばかなり前から過去の蓄積を食いつぶしてしまい純債務国になっています。
アメリカは1986年以降純債務国になっていて、2008年までの対外純債務は13兆6418億700万ドル[3](GDPの95.6%、2008年第4四半期)と2011、10、16日現在のウイキペデイアに書かれています。
(今年の統計はまだ出ていませんが、多分もっと増えているでしょう)
ちなみに日本はバブル崩壊後でも貿易収支・経常収支共に黒字を続けていましたので、(何故失われた20年と言われるのか意味不明であることも繰り返し書いています・・・)の対外純資産は同じく2008年末で(世界最大)225、5兆円にふくれあがり、その後も経常収支は毎年黒字ですから、今年は、およそ240兆円近くになっている様子です。
収支が赤字で純債務国になれば支出を削るしかないのが経済の原則ですが、この逆に景気対策名目で、(低賃金労働力を輸入すれば人口増分だけ当然国内需要は伸びますが・・)内需拡大で誤摩化していると対外借金が増える一方となります。
これを続けるといつかはドルやギリシャ国債の大暴落のように帳尻を合わせるしかなくなってしまいます。
2008年秋のリーマンショック以降の経済危機に対しては、従来のように更なる内需振興・サービス業などを拡大して余剰人員を押し込む余裕がないので、アメリカでは失業率が上がる一方になるしかありません
(借金で20年以上も内需拡大して来た咎めが出たのが、サブプライムローン→リーマンショックですから、この危機解決のためにこれまで以上に借金して内需拡大で解決するのでは背理です)
20年以上無理(借金経済=経常収支赤字)をして来た咎めが出てアメリカでは29歳以下の失業率が4〜5割に達するとも言われていて、これがウオール街での格差是正デモに発展しているのです。

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