構造変化と緩和策3

ユニクロの貢献に戻しますと本社が日本にあると言うだけでは、本社そのものも海外移転するのは簡単ですから、何時海外企業になるか知れません。
ユニクロは今のところ国内売上・国内店舗が圧倒的に多いのですが、海外展開事業が成功すれば海外売上比率・店舗の方が多くなっていきますので、販売店舗さえ国内に多ければいいと言う根拠自体怪しくなります。
結局商業系企業(デパートであれ、スーパーであれ、あるいはホテルチェーンであれ、)が海外展開で仮に成功しても、生産工場が国内にあるのと比べて国内雇用創出には殆ど役に立たないということではないでしょうか?
多くの人を雇用する生産工場でさえ海外展開すれば理屈は同じですから、結局は輸出商品を国内で作らない限り多くの人を養えないことに帰します。
ところが、一方的な輸出超過は永続出来ない・・究極的には輸出入均衡しかないとすれば、これまで輸出超過を前提に国内で国内需要以上に大量に物を作って来たこと・・これに対応する多くの生産用人口を増やし過ぎたのが誤りだったことになります。
これで何十回も繰り返し書いているように輸出用に人口を多くし過ぎていた点に無理があって、人口を縮小均衡に戻すしかないための失業の不安や就職難・・ひいては、賃下げ圧力に伴う閉塞感がここ20年ばかりのストレスの根本ですから、早く少子化が完成し労働需給が均衡すれば、社会が安定します。
少子化未完成の間における構造変化に対する企業による緩和貢献に話題を戻します。
トヨタなど愛国心の強い日本企業の多くは海外の儲けを注入して国内雇用を守り続けているのですが、これらの努力は急激な雇用縮小・賃下げを回避・・緩めようとしているに過ぎず、彼らの出来る努力もそこまでが限度で、半永久的に高賃金・大量雇用を維持することまで期待出来ません。
高賃金を半永久的に保障出来るのは高賃金に見合う仕事をしている者に対してだけ・・高度化対応人材に対するものだけで、それ以下の汎用人材が汎用人材のままで新興国の10倍もの高賃金を取得し続けるのは無理があります。
(10〜8〜6〜4〜2倍と順次倍率が下がっても同じことで、同じ仕事をしている限り、ほぼ同じ賃金であるべきです)
同じ仕事をしているのに、日本人だというだけで10倍もの高賃金を何十年も要求しているのは日本とアジア諸国が今のところ別の国だという前提で問題になっていませんが、これを一体の社会と見れば社会不正義と言えるでしょう。
(短期間ならば、激変対応準備期間として容認されるとしても・・・)
海外で儲けている企業にとっても高賃金維持努力を永久に出来る訳ではなく、いきなり大幅に賃金を後進国並みに下げるのは可哀想だから企業が海外の儲けを投入して下支え努力してくれているだけであることを忘れては行けません。
いつまでも海外の稼ぎで高賃金支給を続けるのでは、上記のような社会不正義かどうかの理屈だけではなく実際に日本企業は高コスト過ぎて国際競争に負けてしまうので、どんな企業でも長期的には国内賃金を徐々に下げて国際相場に合わせて行くしかないでしょう。
ところで海外からの投資収益のある企業は自分の企業内の高賃金(実は正規雇用だけですが・・・)を維持出来ても、海外の儲けの少ない企業は同じ賃金では国際競争出来ないので、補助金の分配がない限り工場縮小を迫られ、雇用自体を守れなくなって行き、国内雇用縮小がこの分野で急激に進んで行きます。

構造変化と緩和策2(日本企業の利益率)

高度化努力だけではなく痛みの分かち合い方面でも日本企業がよく頑張っていると思います。
欧州危機や地震によって売れ行きが落ち込んでも直ぐに解雇せずに社内失業を抱え込んだりしている御陰で、アメリカその他の先進国に比べて失業率が低く留まっています。
海外投資収益を還元して国内労働者の高賃金を維持しているのも企業努力の御陰です。
このため海外に比べて企業収益が低くなっていて株式相場もずっとさえないままですが、それは痛みの分かち合い国家である以上甘受すべきです。
海外投資家にとっては、せっかく儲けても国内高賃金の穴埋めに使われて配当率が低いのでは、魅力がないのは当然です・・。
企業にとっては市場での資金調達力に影響するので株式相場は重要ですが、我が国の金利は世界一低いので社債等での調達に支障を来す心配がありません。
日本は中国や韓国等のように外資の導入で回っている経済ではなく、長期間蓄積した自前の資金が豊富であって、国債の引き受け手に困っていないのと同様に企業も資金が潤沢で外資の導入を必要とはしていないので、株式相場をそれほど気にしなくて良いから儲けを国民に還元し続けられるのでしょう。
(株が下がれば自社株買いなどでそれなり努力していますが・・・下がったところで買い戻すのはいい方法です)
高賃金・高コストの国内工場をドンドン閉鎖して海外展開を進めれば利益率は上がるでしょうが、それではアメリカ並みに高失業社会・高格差社会となってしまいます。
ユニクロが衣料品市場を機能性と廉価品で席巻し始めたのは、(製品に工夫があった点が単なる海外生産移行企業とは違っていますが)ほぼ全量中国生産でコストが安くなっている(国内に高賃金工場を殆ど抱えていない)面とのダブル効果があった点を無視出来ません。
日産のように国内工場を閉鎖して思い切ってタイ王国へマーチの全生産工程を移管した例もありますが、その他の企業は、国内労働者を安易に切り捨てる訳に行かないので国内高賃金従業員を大量に残しながらの海外進出ですから、海外の儲けを国内の高賃金支払原資に投入せざるを得ないことから、国内雇用維持にこだわるトヨタその他の企業は利益率が下がって苦労することになります。
この苦労の部分を見ないで、日本企業はもう駄目だなどと言い、国内雇用に大して貢献しないユニクロを賞賛しているのは誤りです。
外国人投資家にとっては、儲けを利益配当するよりも労働者保護に回している企業の株は魅力がないのは当然・・もう日本は駄目だと見放すのは立場上当然ですが、これを受け売りして日本人まで「日本企業は海外企業に比べて利益率が低すぎる」と批判しているのは馬鹿げた話です。
バブル崩壊後華々しいユニクロがいくら儲けても本社が日本にあり、販売店の多くが日本にあるだけで、それ以上のことはありません。
今、日本で必要なのは国内(高賃金)雇用を如何に守るかの問題です。
日本発の企業であれば本社部門その他比較的多くの日本人雇用が生まれていることは確かですが、国内工場中心の企業に比べて雇用比率が少ない筈です。
ユニクロが拡大して採用した国内店舗での採用従業員は、ユニクロが成功していなければ他所の販売店が残っていた筈ですので、差引増えた訳ではないでしょう。
この点は海外デパートが大量出店して国内デパートが廃業した場合雇用が拡大したと言えるかと同じ問題です。

構造変化と緩和策1(ストレスとその対処)

バブル崩壊以降の我が国の苦境は、汎用品製造に関しては、低賃金国とのコスト競争に無理があることによるのですから、汎用品製造向け人材は徐々に低賃金国の水準に生活水準を合わせて行くしかないことにあります。
最近、今後4〜5年もすれば中国の人件費の上昇によって、日本国内生産の方がカントリーリスクを加味すると安くなると言う願望的意見が出始めています。
こうした願望が繰り返されること自体、人件費格差が我が国経済低迷の最大の原因であること・・結局は先進国の賃金が下落し新興国の水準が上昇して結果として生活水準の平準化の完成しかないことを物語っています。
そうとすれば、新興国の賃金上昇と日本国内の賃金水準のジリ貧・長期的下降が続くのは不可避です。
この現象はこれまで豊かな生活をして来た先進国国民にとっては大きなストレスであることは疑いのない事実ですが、このストレスの吐け口として特定政治家・政党の責任にしたり、今の若者がだらしないと言って世代問題や教育の所為にしても解決しませんし、特定のスケープゴート探しで解決出来るものではありません。
現下の閉塞感の根本は、グローバル化の進行・・構造問題・・結局は生活水準低下の見込みを国民が体感していることにあり、誰に文句言っても仕方がない・行き場のない不満・・これをストレスというのでしょうが、政治家や誰かの責任にしても意味がありません。
この苦境を乗り切るには国民みんな一人一人の智恵の結集しかないのですから、国難に「明るく」対処して行くしかないでしょう。
ただし、急激な国際平準化進行による痛み・・職場縮小の速度を落とし、失業の増加、生活保護の増加を緩和する必要があるのは確かですから、これをどのように実現するかが重要ですから政治家の役割がなくなったのではありません。
ただ・・・・誰がやっても後ろ向きの政策が中心ですので、国民にストレスが溜まるのは仕方がないでしょう。
破竹の勢いで進むときの大将は楽ですが、損害を少なくしながらの撤退作戦は難しいのです。
急激な失業や賃金下落に対する緩和策としては海外展開によって儲けを多くして国内に送金する穴埋めも1方法でしょうが、海外収益の送金に頼るのは日本の過疎地で言えば出稼ぎによる送金・仕送り頼みと同じですから先の展望がありません。
前向きの施策としては、正月以来東レなど高度化の成功例を紹介してきましたが、こうした成功事例を少しでも大きくして行く努力が政治であり経済人のつとめです。
こうした成功事例が少しくらいあっても、高度化対応出来る人材は限られていて大量生産職場縮小の穴埋め・・この種人材は大量にいます・・には追いつかない・・精々賃下げ圧力を少し押しとどめる程度に過ぎないのが実情です。
すなわち、努力がうまく行っても急激な落ち込みを緩和するくらいが関の山ですから、徐々に平均的人材の職場が減って行くのは防ぎようがない・・・国民は痛みを我慢するしかなくストレスを感じるのは仕方がないことです。
これが不満だからと言って政治家のクビのすげ替え・内部分裂・・何でも反対ばかりしていては、却って落ち着いて対処出来ず国力が低下するばかりです。
ここ数年千葉県弁護士会の総会では執行部提案が次々と否決される時代が続いています。
会の基本方針が何も決まらない状態・・ともかく反対が多いのですが、私はこれをストレス発散時代が来たのではないかと理解しています。

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