ヘイトスピーチ12(わが国憲法論議1)

この辺で感情応酬の現状紹介を離れて、以下わが国の憲法論を見ていきます。
立命館大学の市川教授の意見です。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/15-2/ichikawa.pdf
研究ノート ◇立命館法学 2015年2号(360号)

表現の自由とヘイトスピーチ
市川正人  立命館大学大学院法務研究科教授
1 日本国憲法における表現の自由の保障
2 ヘイトスピーチとその規制
3 ヘイトスピーチ規制と憲法

特定の民族や国籍を有する人々などに対する憎悪を表明し,憎悪を煽る表現であるヘイトスピーチ(hate speech)が深刻な社会問題となっている。
在特会(在日特権を許さない市民の会)などによる在日韓国・朝鮮人を口汚くののしる街宣活動が活発になされ,それが「ネット右翼」によって拡散されており,ヘイトスピーチが日本社会において跋扈している感がある。
「ヘイトスピーチ」が2013年の新語・流行語大賞のトップテンに選ばれたほどである。
こうした事態は国際的にも関心を呼び,昨年7月に自由権規約委員会が,8月には人種差別撤廃委員会が,それぞれヘイトスピーチに対する法的規制を求める勧告を行っている1)。
もっとも,京都朝鮮学校事件については,抗議活動に参加した者の刑事責任,民事責任が認定されている。
このことは,ヘイトピーチに対して現行法によって一定の規制がなされうることを示すものである。
しかし,現行法では不十分であるとして,また,ヘイトスピーチの禁止・処罰が国際的な人権条約の要請であり,既に100ケ国以上の国においてヘイトスピーチを禁止し処罰する法律が制定されているとして,わが国においてもヘイトスピーチを禁止し処罰する法律を制定すべきであるとする意見も強い。
そこで,以下では,ヘイトスピーチを禁止することには,日本国憲法による表現自由の保障との関係でどのような問題があるのか,あるいは,日本国憲法の下でヘイトスピーチの禁止がどこまで許されるのか,について論ずることとしたい。

以下論点ごとにまとまった論説・スッキリした論理展開と思われますが、引用するには長すぎますので、関心のある方は直接上記論文を参照してください。
私が読んだ印象では「思想自由市場に委ねるべきで性急な規制は禍根を残す懸念が強い」という論旨のようです。
以下、結論だけ引用しておきます。

終わりに

以上の私の立場からすれば,人種差別撤廃条約4条abが挙げているものをそのまま禁止・処罰するような法律は日本国憲法の下では認められないが,他方,ブランデンバー
グ判決の基準を満たすような人種集団に対する暴力行為の煽動や,侮辱を自己目的とするような特定の民族に対する特にひどい侮辱的表現を処罰するような,きわめて限定的なヘイトスピーチ処罰法ならば,規定の文言が明確であるかぎり,日本国憲法の下でも許容される可能性があることになる。
しかし,憲法上の許容性と立法することの政策的適否とはまた別の問題である。
後者についても,ヘイトスピーチ処罰法の差別解消にとっての効果23),表現の自由の保障に与える影響を考慮に入れて,慎重に検討すべきである。
こうした拙稿のような立場については,ヘイトスピーチがマイノリティの人々に対して与えている被害についての理解,想像力を欠いたものである,所詮,マジョリティの立場からの立論に過ぎないといった強い批判がある24)
確かに,ヘイトスピーチの問題を考えるにあたりマジョリティに属する者にはマイノリティの人々の被害についての想像力が求められる。
しかしまた,ヘイトスピーチを禁止し処罰する法律を制定した場合,それがわが国における表現の自由の保障に対してどのような影響を与える可能性があるかについての想像力も必要ではないだろうか。

[補足]
本稿は,日本司法書士会連合会(以下,連合会)の機関誌である「月報司法書士」201
5年5月号のために執筆したものであり,校正も終了していたが,ヘイトスピーチの実例が記述されているために不掲載となったものである。
以下中略
その結果,不掲載という結果となったわけである。
月報司法書士は連合会の機関誌であるから,依頼した論稿を掲載しないと連合会が判断したことは,表現の自由行使の結果であり,非難されるべきことではない。ただ,本稿をめぐるやりとりが,ヘイトスピーチの規制の可否を論ずることの難しさを示していることは確かである。

市川氏が「憲法上の許容性と立法することの政策的適否とはまた別の問題である。」と言うように仮に憲法論をクリアーしても規制が先行するとかえって民族間の亀裂を深くするマイナス面の考慮が必要でしょう。
この辺は同感です。
政治は国内分裂を広げるためにあるのではありません。
辛 淑玉氏のウィペディア記載の意見は以下の通りです。

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(いわゆる反ヘイトスピーチ法)について
「保護の対象が限定されるなど十分ではない。ヘイトの被害は米軍基地に反対する沖縄の人々にまで及ぶ。」[2]。
「反ヘイト法ができました。一歩前進するかな、と期待したんですが、全く変わらない。罰則がない。増えたのは、これを作ったことへの逆ギレですよね」

彼女は罰則などを厳しくしていないのが不満なようですが、逆に民族間憎悪の過激化を煽る言動の方こそ問題ではないでしょうか?
ウイキペデイアによれば、以下の通り在日からも批判があるようです。

前田日明(元在日韓国人、1984年に帰化)は、「名前を出して悪いんだけど、辛淑玉さんなんか見てると、情けなくなってくる。差別されたとか、日本は加害者だとか言うだけで、それだけ叫び続けて一生を送るのかなと思うと、とてもおれは共感できない。」と批判した[29]。
鄭大均(在日外国人、韓国系日本人)は、金嬉老事件における辛の発言を引き合いに出して「メディアに登場する在日のなかで、姜尚中と辛淑玉ほど違和感を覚える人間はいない。辛淑玉に関して言えばその歯に衣着せぬ語り口はいいのだが、思いつきやデタラメが多すぎるのではないか」「在日コリアンの被害者性という現実的であるかもしれないが非現実的であるかもしれない状況に、自己を憑依してものを語る傾向がある」「辛淑玉の一見奔放な語り口が、驚くほど古風な被害者的立場や対抗主義的立場との見事な整合性を維持している」と批判した[30]。

過激なことを言ったりやりすぎると「自民族のためにならない」と危惧するまともな意見というべきでしょう。
ヘイト問題も厳しくすれば解決するものではありません。

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