会社の運営4(取締役の役割1)

2013/07/24「会社の運営3(総会の機能・事後評価1)」で、総会は運営権・執行を一任するだけで具体的関与権がないことを書いた後に、事後評価より事前関与の重要性・・取締役会の重要性を書くつもりで次の日から話題が行政手続きへの関与等大分横に行ってしまいました。
取締役会の活性化・外部委員の有用性に戻ります。
ところで、社長の部下が社長に推薦されてなっている社内取締役に比べて外部委員・社外取締役には健全な意見を期待出来るところですが、行政決定に関する外部委員や社外取締役は自分の本業を別に持っていて(何らかの分野で成功している人が選任されるのですから当然です)多忙な人が多いのが難点です。
他会社やたまに行く行政内部の業務を専門に見ている訳ではないので、詳細なチェック・内容を精査した結果の意見はなかなか言えません。
ですから、大きな方向性について疑問を呈することは出来るものの、基本方向性に問題がない場合、あるいはあるとしてもこの辺のしっかりした調査をして欲しいという程度の付帯意見を着けるくらいが関の山で実際にしっかりした調査が出来ているかの膨大な資料のチェックまではとてもする時間がありません。
そこである程度出来上がった事務局の意見・・原案(しっかりした調査をしたと言う膨大な資料がついています)を約1週間前に届けられて本業の仕事の合間に読むだけでは、ちょっとした補足意見を言える程度で、お茶を濁すことが多く、お飾りの批判を免れません。
それでもイエスマンばかりの会議よりは良い・・外部委員にあまりみっともない議題を上げられないという抑制効果という微温的・次善の制度になると言うことでしょうか?
取締役がこれまで書いて来たように元々創業者の部下で固められて始まっていることが多い結果、取締役会議は業務執行・・創業者社長の意向(指示)伝達機関であった歴史経緯からして、法律条文上では、取締役が社長を選ぶ→監督機関となっていても、現実の取締役はそのように身体で理解していません。
最近増えて来た執行役員制度は、会社法でも明文で記載されるようになっていますが、これこそが執行機関の「重役」という区分けです。
これは従来型のイエスマン・・執行伝達機能は、執行役員に任せて取締役会議は法の予定しているとおりの意思決定機関・ケンケンガクガクの議論を戦わせるべき機関に純粋化するための機関に区分けしてすっきりした制度になりました。
このように意思決定の取締役会と執行役員とに分離した以上は、取締役会はいずれも総会で選任された同格者間の自由な論議の場になるべきです。
最近川崎重工の社長や首脳陣が多くの取締役の意見を聞かずに三井造船との合併交渉を進め過ぎたとして、解任されたのはその取締役会が法的に期待されている「本来?」の機能を発揮した象徴的事件と言えるのでしょうか?
取締役会が選任・解任権を実行した点を見れば法律に従っていますが、解任までしてしまった点に疑問があります。
取締役の職責は社長等執行部提案に対して・・賛否の意見を述べて堂々と議論すべきであって、社長提案が気に入らないからと言って、陰で反社長グループを結成してクーデターを起こすことが期待されているものではありません。
意見が違えば解任しかないというのでは、普段から真っ当な建設的議論が出来ていなかった・・トップの決断に反対することなどあり得ない前提・・イエスを前提にした上でミスがないかのチェックをするために部下に期待する役目・・・旧来の重役会議の域を出ていなかったことになります。 
(同じ意見ばかりならば議論する意味がありませんから)会議を開く以上はいろんな意見があってその智恵を出し合うために開催の意味があるのですから、意見が違えばマトモな議論をした上で多数決で決めれば良いことです。
これをしないで解任動議に走ったということは、取締役会議に期待している意見の違いは、基本方針決定のための議論ではなく執行方法に関する細かな提案や細かい調査資料チェック程度に関する意見交換だったことになります。

会社の運営2(株主の権利)

オーナー企業の場合、行政のように民意を反映すべきステークホルダー(省庁間対立)が内部には存在しませんが、債権者と顧客(市場)双方からの監視があります。
銀行や社債権者保護のためには、1つには会計帳簿の厳格な運用・・会計基準の絶えざる見直しと非上場企業には担保付き社債しか発行を認めないなどの制約があります。
商品に対しては保健衛生や建築基準、工業規格等による行政による各種規制によって品質確保を図ること等によって、一応の暴走が避けられます。
規制に従うだけでは市場競争に負けてしまう(市場の監視がある)ので、必死の努力が必要です。
規制をかいくぐった品質不良・不正があればいつかはバレるので、そこで市場からの大きなしっぺ返しが来て命取りになりかねないので、経営者は余程のことがないと虚偽データ作成に走りません。
最近大騒ぎになった事例では、姉歯1球建築士の鉄筋偽装問題やオリンパスの不良債権飛ばし・・粉飾決算問題と現代自動車の燃費虚偽発表の発覚でしょうか?
(大分前になりますが国内では、雪印や高級料亭吉兆の食品偽装も社会問題になり、雪印や高級料亭もつぶれました。)
一定規模以上の規模になると上場するのが普通になりますと株主=オーナーではなくなりますので、上場前にオーナー=経営者に背くことのないように発達して来た旧来の法規制・・内部統制・・不正防止策だけでは済まなくなります。
オーナーではない普通の株主を大株主あるいは経営者の横暴から守る必要が生じます。
上場して部外者の株主が増えて来ると会計帳簿整備・監視だけはなく、会社の意思決定システム段階自体に重要利害関係者である株主の意向を反映するシステムが要請されます。
大株主と言えども、総会での議決権行使によって意向を反映出来るだけでは、このシリーズで書いている大統領制と同じで、一旦選任すると株主権行使の機会が次の株主総会まで何もないので、その間どのような無茶をやられても牽制する方法がないことになります。
また政治と違って日々の業務執行状態・・方針決定等になると企業秘密があって、会社のやっていることややろうとしていることが政治に比べてもっと分り難いので、事前監視・・事前計画段階での意見を述べるチャンスが全くありません。
(日々向き合っている取引先や顧客の方が、敏感に会社姿勢の変化を知るチャンスがあります)
商法時代から少数株主の保護制度がありますが、ことは少数株主だからツンボ桟敷に置かれるというのではなく、企画や実施段階で関係するチャンスがない点は(オーナー・創業家は別として)大株主でも同じです。
株主は株主総会で意見を言えますが、それまで(期中)の結果(業績)に対する事後評価・・事後的質問や主張しか出来ません。
一定数以上の株主は帳簿閲覧権や臨時株主総会招集請求権もあって、これを講学上少数株主権の保護制度と言っています。
大株主は、経営を自分でしている(オーナー=経営者)という前提で法律が出来ているから少数株主の保護で足りるという考えでした。
3%以上という要件はもの凄く比率を下げて少数株主保護のつもりで作ったのでしょうが、今になると世界企業の株式を3%も持ってれば2〜3番以内に入る大株主様です。
(私の司法試験受験勉強中から同じ比率です・数人の友人で作ったばかりの会社で仲間割れしたとか、相続で細分化した株式を取得したような場合に限って3%の比率が妥当する比率ではないでしょうか)
帳簿閲覧権は経営陣の不正追及にはなりますが、これらは事後的追及・・後ろ向き権利でしかなく,企業運営をどうするかの決定への前向き参画権ではありません。

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