日中の制裁合戦3

日米双方が対中貿易を縮小してGDP比5%にしたときに、この間に中国の経済規模が縮小していないで以前と同様であるとすれば、その他の国の対中貿易が穴埋め的に増えている勘定ですから、その他の国にとっては日米の要請に応じて対中禁輸に参加するには抵抗がその分大きくなります。
中国が世界貿易の1割を占めているとした場合、日本が中国から手を引いて東南アジアと貿易を増やしてもその代わりどこかが対中貿易を増やすので、世界全体での中国の比重は1割のママで同じと思うのが普通です。
日本が対中投資を縮小すると中国の生産がその比率で減って経済規模が縮小するならば効果がありますが、その穴埋めをドイツ等が引き受けるならば世界経済に占める中国の比率は変わりません。
しかし、この後で書いて行きますが、中国の場合ローエンド製品中心・・日本の安値な下請工場として経済が拡大して来たのですから、(この間にある程度中級品を作れる技術者も育っていますが・・)日本企業にとって似たような低賃金の最低労働者ならば世界中どこにでもいます。
インド、バングラデシュ、東南アジアで工場を造っても同じと言うことで、対日暴動以来対中投資が4割減でその分東南アジアに進出するようになりました。
日本にとって中国へ進出するか東南アジアに進出するかは50歩100歩でしかないので、日中対立したからと言って日本企業は困ってはいません。
国内で言えば地方で大手工場に嫌がらせをして出て行かれると困るのは地方政府の方であって、大手企業は別の県に工場を移転すれば従来どおり生産できます。
日中対立後丸1年経過後の昨年度決算で見れば、日本では、殆どの大手企業が史上最高レベルの利益を出しているのは周知のとおりです。
これに対して中国はどうでしょうか?
従来の中国の製品輸出先であった東南アジアが日本の大量投資によって国内製造業の活況によって自給するようになるだけではなく、欧米等での輸出先で中国と競合してきます。
中国国内生産の大多数を占めるローエンド製品輸出先であった東南アジア諸国が輸出先でなくなり、逆に市場の奪い合い相手になるので、中国の輸出産業が急激に縮小して行きます。
対日暴動以来、中国経済がジリ貧になって来たのは、日本の対中投資が激減して東南アジア諸国が競合生産国になって来たことによります。
ユニクロなどもバングラデシュに縫製工場を持っているようです。
実際に対日暴動以来中国の輸出は大幅減になって来て、経済停滞は顕著なものがあります。
今朝の日経新聞では国有大手の増益発表に関して子会社に資産を売却益計上したに過ぎず、売却価格が不透明で株式市場では知らん顔で株価に反映しない・・中国の株式相場はリーマンショック前の3分の1に沈んだママであると書いています。
いろんなマイナス面がこの基礎的停滞の結果表面化して来た・・シャドーバンキング問題が世界の注目を浴びるようになって来たのは・・回り回って資金繰りが着かなくなって来たことによります。
逃げ出した日本企業の代わりにドイツ企業を誘致して日本以外から基幹部品の代替輸入しても、ローエンド品しか作れない限り、東南アジアやバングラデシュ等との競争では、後発国の方が人件費が安いので先行きがなくなってきました。
そこで必死に産業構造の転換を図っているのですが、特定少数者のレベルアップならば可能性がない訳ではないでしょうが、巨大な人口の大多数を底上げするのは無理があります。
外貨が湯水のように入って来なくなったこの局面で、これまで公害対策費・衛生関連費等をケチって生産していたのが限界にきて、いよいよコストを掛けて公害対策や保健・衛生面にも気を配るしかなくなってダブルパンチを受けています。
知財剽窃や公害の垂れ流し・・町を汚いままで割安に生産していた競争力が、(本来のルールを守っていなかっただけです)この方面でも殺がれて行き、国民レベル相応の普通(以下)の国にならざるを得なくなって行きます。

日中の制裁合戦2

当時の報道では、日系企業で働く労働者数は約1000万人にのぼると言われていました。
それだけの国内産業の操業が止まると、納入業者・仕入れている企業その他の関連産業の混乱は半端なものではありません。
http://biz-journal.jp/2012/10/post_918.htmlによれば、
「中国には、国内で1千万人の雇用を創出する日本企業が不可欠」
の題名で掲載しています。
ま、特定の立場で書いている面もあるので、真実は分りませんが・・。
日系企業を痛めつけて操業不能にすると日系企業が自主的に日本本国に協力するために中国国内でゼネストをして、中国内部を痛めつけているような効果が中国国内で生じます。
このために中国は日系企業を全面弾圧することは不可能で、オバマ大統領の対ロシア制裁が西欧諸国に大した害のない程度しか出来ないのと同様で、象徴的にいくつかの日系企業を大げさに血祭りに上げて日系企業に対する萎縮効果を狙うしかなかったと思われます。
数年前の対日暴動で、パナソニックなど象徴的企業を狙い撃ちしたのもそう言う視点・・脅かす視点だったと見るべきでしょう。
数年前の対日暴動では何の被害も受けなかった日系企業の方が多かったと(嘘か本当か分りませんが)今になって報道されています。
しかし、このやり方は却って中国にとって不利な結果になりそうです。
このやり方は、日本右翼が中国進出はこんなに危険だと宣伝して中国への投資をやめるように宣伝していますが、彼らに代わって中国政府自身が日本企業に対して危険だから来るなと宣伝してくれているような結果になります。
以前ヤクザが公衆の面前で弱い者イジメの暴力を振るって「どうだ!」と粋がっていることが、彼らにとって却って自分に損なことをしている自覚がないのが不思議だと書いたことがあります。
店でダニのように言いがかりをつけていれば、その場では不当な利益を少しは得ることがあるでしょうが、大きな目では世間を狭くし、誰もマトモにつき合ってくれなくなって、人生総合で見れば損なことをしていることになります。
2014-4-24「中国の学習能力4(反日行動の損得)」で、商船三井に対する差し押さえ事件を書きましたが、目先の暴力行為や嫌がらせはトータルで損することが国家の歴史の浅い中国ではまだ理解できないのです。
ところで、経済制裁というのは相互に経済交流があるからこそ効果があるのですが、往復200万ドルの交流があれば双方100万ドルずつ損失が起きる関係です。
ですから制裁とは言うものの双方同額の損害が生じますので、制裁する方とされる方の経済規模格差が余程大きくないと強力な実行が不可能です。
世界対イランの場合、何百倍の格差だから全面実行が可能だったことになります。
イランと取引が出来なくなってもの殆どの国にとってはホンの何%の被害でしかありませんが、イランにとっては村八分にあんれば90%以上の効果があります。
ロシアにとってウクライナに対する分だけ天然ガス禁輸できれば、(ウクライナにとって被害甚大ですが・・)ロシア経済にとって小さな被害ですから簡単に締め上げることが出来るでしょう。
しかし、西欧へのパイプラインがウクライナ経由ですから、パイプの口を締めるとなれば西欧への全面禁輸となりますから、ロシア自体が収入の大方を失ってしまいますので、(ロシア政府収入の過半を占めると言われます)ロシアの方が参ります。
中国の経済規模になると中国に経済制裁・禁輸すれば、禁輸した方にも同額の損失が生じる以上は、おいそれとは実行できません。
アメリカや日本が自分にダメージが少なくなるように中国との経済交流の規模をドンドン縮小して行って、全体の5%以下に引き下げてから全面禁輸しても5%の被害で済みますが、(日米合計経済規模が中国の2倍としても)中国にとっても1割しか被害がないので制裁の効果が限定されます。

日中の制裁合戦1

ロシアと陸続きで黒海の奥深くのウクライナ・クリミア半島とは違い、尖閣諸島の場合は尖閣諸島支配に関して当面アメリカ自身に利害があるので防衛義務を果たすというのですから、そもそも軍事的に中国は手出しできません。
「日米同盟強化」Published January 7, 2013に書きましたが、尖閣諸島は中国海軍の太平洋への出入り口を扼する要衝の1つである上に台湾防衛上も重要拠点です。
アメリカが台湾を見捨てるなど、西太平洋の覇権を諦めない限り中国はアメリカの干渉を排除できません。
「戦後秩序価値観共有」という価値観外交を中国が最近西洋まで出っ張って展開し始めていますが、それだけでは、アメリカによる尖閣諸島防衛をやめさせることが出来ません。
価値観は重要と習いますが、対ロシア制裁の足並みの乱れやアメリカの尖閣諸島コミットを見ても分るように、国際政治では道徳や崇高な価値観よりは実利次第・・実利には叶わないが現実です。
個人レベルでは道徳が行動基準になっている人が多いですが、組織団体の行動基準は組織設立後の歴史によるのでまだ幼児段階にとどまっていると書いて来た応用例です。
勿論実利には大義も必要ですが、両輪そろうと最大効果を発揮できる関係になっているに過ぎず、大義だけで行動するのではありません。
中国としてはアメリカの体力がなくなって行き、西太平洋の覇権を諦めるように執拗に迫って、その実現を待つ戦略しかないでしょう。
アメリカがもし中国の覇権主義的軍事行動に対して経済制裁をした場合、中国の味方をして逆に日本やアメリカと経済断交・・金融取引中止を申し入れる国はあるでしょうか?
衰えたりとは言え,アメリカの世界支配力は強力ですし、日米合算の経済力はなお世界で突出しています。
中国の属国になったつもりの韓国でさえ、中立だと言ってアメリカの制裁に従わない・・これも無理なので、1週間待ってくれなどと先送りを申し出て抵抗するのがやっとでしょう。
アメリカによる経済制裁がなく、中韓と日本の制裁合戦になれば日本の方が多く資本を投下しているし、駐在員も多いので即時的には日本の方が不利益を被ります。
天然ガス禁輸すれば即時にウクライナや西欧が困るのと同様ですが、この場合ロシアも輸出がゼロになって経済的に参ります。
直接効果だけを見ればガス欠の方が直ぐに困るのに対して、輸出国はお金が入らなくなるだけですから直ぐに困る訳ではありません。
しかし、中長期的には輸入国の方が有利です。
輸入国が孤立していない限り、他国から輸入をすれば済むので一定期間経過で日本がレアアースを確保したように(割高になるかも知れませんが・・)ガス不足が解決します。
要は輸入先変更に必要な一定の備蓄があれば済むことです。
日本の場合短期資金の投下ではなく工場等の生産面やスーパーなどの資本投下中心ですので、簡単に逃げられない不利益がある代わりに、中国国内の操業が停止・縮小すると中国経済に与える影響が甚大になります。
生産や販売は需要・必要がある限度でやっていることですから、中国の方も国内生産機能が麻痺し製品を原料等にして加工している業界が困るし、その分の労働者も失業するので困ってきます。
2年ほど前の反日暴動ではスーパーの焼き討ちがありましたが、そこで買い物をしていた人が買い物が出来なくなったし、これの再開を認めないと納入業者が商品納入できなくなって倒産するし、店員の仕事がなくなり結果的に国民が困る関係です。
トヨタ車や工場生産設備打ち壊し・基幹輸入部品に対する関税渋滞・・嫌がらせも現地企業でトヨタに納入している部品業者にとっても同様の結果が待っています。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC