外国人の政治活動自由6と反発

以上見てきた通り、今では政治活動を表向きの理由にして入国拒否しそれが訴訟で合法と承認されれば、却って日本は言論の自由度の低い国・・先進民主主義国家としての国際的評価を下げるリスクがあって、他方訴訟的に見れば裁量権の乱用とされる可能性が高いでしょう。
July 14, 2018に紹介した和歌山県大地町の鯨博物館入館拒否事件では、このリスクを慮り、博物館側では反捕鯨運動家だから拒否したと言わずに、「入館規則に基づいて拒否した」と主張し和歌山地裁も憲法論を相手にせずに入館規則に該当しないとして、拒否を違法としたもので、思想や政治運動歴を判断理由にしていません。
これが現在の実務でしょう。
ただし、そこで引用したように朝日新聞の報道は判決で書いていない憲法的関心を全面に出して報道しています。
もう一度引用します。

★≪思想・良心や表現の自由を保障した憲法の趣旨を踏まえ、女性は情報を得ようとする行為を妨げられたと判断≫(朝日)という。

朝日は本来の争点を報道したつもりでしょうが、報道はまず客観事実を報道し、その深読み解説と分けて行うべきでしょう。
そうでないと見出しだけ見る多くの人は、憲法判断であったかのように誤解してしまいます。
高度社会で好き嫌いを正面の理由にせずに婉曲的表現・例えば食事に誘われて「あなたと食事したくない」言わずに「都合がつかない」と断るなどが普通ですが、それを「嫌いだからと断った」と書くのはフェイクであり、事実報道としては、「都合がつかずに食事会が流れた」と書くべきでしょう。
総理の外国訪問でどういう晩餐会を開かれるか、遅れてくるかなどは重要シグナルですが、相手が日本軽視の意図かどうかの読みですが、それをどう評価するかは別問題です。
それをどう解釈するかは読者の判断事項ですから、自社の意見を言いたければ、別に解説として分けて書くべきです。
入管法の相互主義の条文も拒否理由に該当する場合でも機械的適用ではなく、外交に及ぼす影響その他総合判断でこの発動を抑制的に運用するのが普通でしょう。
マクリーン判決の事案は、アメリカ人が日本に来てアメリカ政府の嫌うベトナム戦争反対の宣伝デモ活動をしていたことが、在留更新拒否の理由でしたのでアメリカ政府が期待する結果であって、当時圧倒的強国であり自由主義社会のトップであったアメリカが歓迎する事件だったので、国際問題として批判が広がりにくい事件であった点も無視出来ません。
政治運動の自由があるとしても、国内的支持を広げる目的運動ではなく、反発が広がるのを目的に行う挑発的政治活動はどうでしょうか?
政治運動に挑発目的〜自己満足的行動かどうかの区別をする基準がないので、せいぜい「喧嘩言葉は言論の自由の枠外」という程度の基準しかないのでしょうが、表現を受け取る方が、日本民族のための言動と受け取るか、日本民族を貶めるための運動と受け取るかは受け取り手の自由・・これが自由市場論です。
表現者の真意が日本のためであっても、自己満足的感情表現に溺れるのは逆効果でその点の配慮工夫が必要です。
外国人の政治発言が、日本世論無視で日本人感情を刺激するので困ると思っても、日本は国際世論無視でトランプ氏のように乱暴なことはできませんので、政治要素はビザ発給段階の隠れた?考慮要素になるか?というだけです。
クジラ博物館の事例でいえば、当てはめに10㎝の幅があるとすればその枠内の裁量でギリギリ収まる場合には好感度の低い人に対して規則を盾に断ることが可能ですが、その枠を超えての拒否は、ルール違反「言いがかり」になります。」
クジラ博物館の場合に「言いがかり的拒否」だったことになります。
ただし、私のような弁護士業務から実務的に考えると、政府の方はビザ発給段階でブラックリストに載せた人物を自動的に弾いてしまえば良いのに対し、これを争う方は大変です。
手続き的には不許可処分取り消しの行政訴訟になるのでしょうが、韓国や中国の日本大使館へのビザ申請して拒否された場合、外国にいながら東京での裁判になりそうですから、そんなことに金と暇をかける人がいるか?となります。
トランプ氏の入国拒否がすぐ執行停止仮処分訴訟になっていたのは、あらかじめ予告されていたので、応援弁護団が組織されていて待ち構えていたことや米国空港に着陸後のことだからと思われます。
一般人が駐北京大使館やソウル日本大使館などの窓口で拒否された時に理由を聞いても「〇〇該当」とコンピューターに出るので私にはわかりません。
「あなた何か心当たりがないですか?」と逆に聞かれる始末では、本当の理由不明で?ビザ発給段階で普通は泣き寝入りです。
裁判などしていても予定の商談や芸能人の公演スケジュールなどに間に合いませんので誘致企画した方は大損です。
結果的にビザ発給拒否されるのではないか?の疑心暗鬼程度でも、興行的にはものすごいブレーキになり・・政治問題のある芸能人のツアーを企画する事業が激減します。
政治的に拒否したい場合=政治テーマでマスコミ注視の大事件では、在日や文化人等の応援団が訴訟費用負担してでも訴訟を仕掛けるリスクがあるので、政治的にセンシブルな事件(例えば竹島上陸した韓国人芸能人?や反捕鯨団体の入国拒否など)ほど政府は不許可にしにくい変な運用になります。
以上見てきたように、マクリーン事件当時と違い現在では政治的パフォーマンスを正面の理由にした入国拒否は難しい・・ほとんど出来ないと理解すべきです。
ヘイト規制に関しては、ヘイトを挑発する政治運動をどうするかなど、ちょっと見ただけでもいろんな考慮すべき要素がありますから、言論規制まで行くには「差別的言動の何がいけないか」について多方面の議論が出尽くすのを待つ必要があります。
現行法では「差別的言動」の(地域社会排除)目的等外形的アプローチのみで、差別の内容自体の定義を書いていません。
韓国や在日からどのような挑発があっても適法居住者に「出ていけ」は許されないという点では国内合意があるという国家意思の表明でしょうか?
ただ、適法居住者であっても刑事犯罪行為があれば国外退去を求められる留保付き滞在許可が国際原理ですから、それを要求する「特別永住者資格=特定民族だけの例外を認めるな!」という政治運動自体はヘイト・・差別的言動の例外となるのでしょうか?
ここにこそ在日に対する不満の本質があるとすれば「在特会」→「特別な地位を許すな」と言う名の運動は本質を衝いていることになります。
辛淑玉に関する本日現在のウイキペデイアの記事からです。

在日特権について
「在日韓国人が獲得した数々の権利のほとんどは、日本政府から一方的に与えられたものではない。1世中心の過去の民団が、長い年月をかけて理論整備をし、法的・人的連携を各地域で地道に構築した結果として得たものだ」[43]
「のりこえねっとで在日韓国人への日本の公民権運動を行う」[4

しかし、先祖が勝ち取ったものであれば「特権があっても良い」かは別問題です。
各種の特権的地位・世襲の貴族制その他は、その時の先祖の功績や政治事情によって勝ち取って公認されたものでしょうが、それが一定時間経過により現在も許されるべきかは時代変化によって検証していくべきものでしょう。

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