プロの判断と司法審査(伊方原発)2

NHKニュースに戻りますと、ニュースの関連資料として、ワンクリックで見られる原発運転基準を決めているルールを資料としてつけてくれると分かり良いので、こういうサービスが欲しいものです。
その上で、

この規則第○条○項に「具体的危険があれば停止すべし」という規制基準が設定されていて、具体的危険に当たるかどうかの規定に・・
(1)①〜⑤の場合は即該当
(2)⑥〜⑩の場合は多数意見で決める
などの要件があるなどの類型的説明があって、本件では、(1)③にあたるかどうかが争点であった。
(1)③とは、半径Xキロ以内に活断層がある場合のことであり、本決定ではX㎞内にあると認定され、規制委員会がXキロ以上距離があるとした測定がABCDEの各データと矛盾することを理由に否定されました。

という論理構造であればスッキリします。
そうすれば、その次のレベル・・活断層の定義分類規則がどうなっているか、活断層にはABCDEの〜の10種類があり、その種類に応じて原発までの距離が決まっている場合、数十のデータの組み合わせでABCD〜の種類を決めるのが、学会の通説となっていればそのデータの正確性・当てはめが合理的に説明されているか次第となり、そこに関心のある人だけさらにそのデータを読み込めば良いことです。
例えばAB分類境界値付近の場合には、プロ集団の委員会の決議による場合があるでしょう。
規則詳細やデータは公開されているとしても、一般人には容易にアクセスできないのでこういう報道の際にはその報道に関連している関連規則や事前公開されていたデータをワンクリックで見たい人は見られるサービスをすべきでしょう。
ところで、関連法令や規則はワンクリックで閲覧できるようなサービスが可能でしょうが、科学関連事件(医療関連事件でも)はデータの信用性や読み方で勝敗が分かれるのが普通ですので、報道機関がデータそのものを閲覧可能にしない限り事件当事者以外は厳密な理解は不可能です。
裁判手続きはIT化に向けて準備中(千葉県弁護士会でも2月7日総会前の研修?でIT化訴訟手続きの実演してくれる段階)ですが、今はまだ紙媒体なので決定要旨が配布されても各種科学的な検査や実験の生データは配布されません。
(そもそも決定書あるいは本案判決書全文を入手しても証拠の配布はありません)
訴訟手続きはまだIT化されていないとしても科学者段階のデータはほぼIT化されているはずですので、双方弁護団の手元資料はほぼ全て電子化されたもののはずです。
私の現在進行形の事件で、経理事務所から約17年に及ぶ膨大データを元にした表をもらっていますが、この表が事態正しくを把握できるよう表になっているか、自分で生の会計資料を拾い出して検証作業するための試行錯誤で色々な表に作り直すには、データそのものをネットでもらわないと作業ができませんので、会計事務所の作ってくれた表自体を紙媒体だけでなくデータでもらっています。その表で説明するのが妥当としても、(訴訟では原証拠提出が原則必要です)生の会計資料から間違いなく作成したという説明だけで訴訟提起するのは心許ないので、この引当用の表を作るなど色々な作業が必要です。
このように訴訟外の準備段階では私のような高齢者でさえもIT化作業が進んでいますので、報道機関はやる気があれば、予告された決定前に入手した実験データをもとに決定と同時に双方提出証拠(本当に訴訟提出済み証拠かの確認は相手方に確認すれば簡単にできます)のネット配信可能です。
このように予めの準備があれば、裁判所の手続き進行指揮等からどの点に焦点が当たっていたかの予測がついているので、決定要旨入手直後の検討でどの実験記録や過去データがどのデータと矛盾するとして採用されなかったかも短時間で解説可能です。
原発訴訟は個人が原告になっているものの争点の多くは個人情報を除けば(活断層かの判定に必要なデータや火山噴火データ)客観的データの解析である以上、これを国民に秘匿する必要性がほとんどないはずです。
訴訟当事者双方に提出済み証拠の提供を求めれば、双方がこれを拒否する必要もない・自陣営の主張を理解してもらうために積極的に協力してくれるし、懇切に説明もしてくれるので簡単作業です。
こういうサービスなしに裁判の結果「具体的危険があると認定されました」という報道は、停止決定があった以上裁判所が具体的危険を認定したに決まっているイコールの関係であり、同義反復・・実は根拠説明になっていません。
国民が知りたいのは、規制委員会が具体的危険がないとしていたのが、裁判所がどういう根拠で具体的危険があると覆したかの説明でしょう。
NHKは根拠の結論を書いているかのようですが、実際には結果として同義反復に過ぎず「当面原発は停止になるらしい」としかわかりません。
庶民は「結果だけ知れば良い」と言うならば見出しだけで十分です。

「また火山の噴火に対する安全性については、熊本県の阿蘇山で噴火が起きた場合の火山灰などの影響が過小評価されているという判断を示しました。」

とも書いていますが、過小評価しているという結論だけの記載でどちらが正しいのか、さっぱり分からない報道です。
規制委と裁判所の判断が違った前提事実のどこが違っているのかの説明がないので、どちらが合理的判断なのか、司法の政治的偏りなのかそれぞれの立場で憶測に基づく非難合戦をすることになります。
https://www.sankei.com/column/news/200118/clm2001180003-n1.html

【主張】伊方原発停止 高裁の迷走が止まらない
2020.1.18 05:00コラム主張

引用省略しますが、上記主張は否定的批判論ですが、NHK以上の決定理由の掘り下げがないままのイメージ主張です。
報道機関であれば、決定書要旨が手に入っているはずですし大手新聞の掲載する批判論である以上は、決定論理のどこに問題があるかの具体的指摘が欲しいものです。
担当裁判官はこの春だったかに定年退官というニュースも断片的に駆け巡り、「良心に従った公正な判断が定年前でないと書けない」あるいは「定年前で政治的立場を露骨に出した」かのような憶測も広がります。
こういう次元の低い議論が広がるのは後進国みたいで恥ずかしいことですが、決定内容要旨自体の報道がないから根拠不要の言いたい放題の応酬になります。

プロの判断と司法審査(伊方原発)1

昨日から書いてきたように一定の危険・可能性がある前提での漸次縮小が国民総意とすれば、可能性があるだけで停止を命じたとすれば司法権の乱用になります。
NHKニュースのまとめ方が正しいとすれば専門家で構成される委員会審査結果を素人の司法権が否定するもののようですが、その否定根拠がどうなっているのか具体的記述次第です。
まとめ方によっては誤報道の恐れがあるので、NHKが独自にまとめるのでなく、ニュースの方法としては、「停止仮処分が出た」程度の客観的事実報道にとどめ、解釈にわたる部分は解説・・NHKの意見として分けて書くべきでしょう。
裁判所の重要判断の場合決定要旨など文書配布が行われるのが一般的ですから、・・要旨が仮に10pあってもPDF等でそのまま配信公開が簡単ですので、NHKの解説・決定の読み方が正しいかどうかは読者の判断に委ねるべきではないでしょうか?
決定書が公開されていないのですが、昨日紹介したニュース記事では、NHKが鉤括弧付きで出している部分は決定書自体の引用でしょうから、この限度で推論が可能です。
「地震を引き起こす活断層がある可能性を否定できない」という文言を見ると可能性が否定できないだけで停止を命じることが許されるかの議論となります。
危険性には抽象的県と具体的危険の二種類がありますが、決定では「具体的な危険があるとして、」と具体的危険があると認定したとも紹介しています。
この紹介によれば、原発事故以降にできた新ルールは具体的危険があるかないかで停止するか否かの結論が決まることになっているように理解できます。
そうとすれば、具体的危険が認定されたので停止決定されたというニュースは、一見決定理由を紹介しているように見えて結論の言い換え・同義反復に過ぎないことになります。
新ルールは「具体的危険があれば運転を認めない」となっていたとすれば、規制委員会の運転開始判定は具体的危険がないとしていたはずですから、国民が知りたい点は、なぜ今回結論が変わったかの点でしょうから、具体的危険があると判定したというだけでは決定理由の紹介になっていないことになります。
新ルールで、「活断層から何キロ以内は具体的危険があることにする」と、画一的に決まっている場合そのルールを紹介し「活断層からの距離測定方法にこういうミスがあった」と指摘すれば済むことです。
2〜3キロの幅の誤差範囲は慎重審査という場合には、プロの経験的裁量の幅が広がり、プロの直感的判断を否定するのは司法権の行き過ぎとなります。
どういう場合に具体的危険があると言えるかの認定ルールが定まっていると仮定した場合・・例えば「活断層から何キロ以内」というルールが設定されていてそれに該当するのに〇〇の計測ミスで3キロあるとしていたのが2キロしかなかったというならそのルールと計測ミスの内容を紹介すればスッキリしますが、これらの説明がないので上記決定がどういう理由で規制委員会と結論が違ったの不明のままです。
ただし、続けて決定理由として「四国電力は十分な調査をせず、原子力規制委員会が問題ないと判断した過程には誤りや欠落があったと言わざるをえない」と指摘しました。
と引用しています。
ここで根拠を具体的に書いたつもりでしょうが、「十分な調査をしない」というだけでは、何をすれば「十分」なのか水掛け論的紹介にとどまっています。
一見決定根拠を書いているように見えるものの論証過程を省略しているので「結果」部分の引用に過ぎず、どういう論証がおこなわれた結果「十分な調査していない」と判断したのか、どういう「判断過程に誤りや欠落があった」かの事実紹介・掘り下げがありません。
「十分な調査していない」という根拠説明も、規制委調査が十分でなく裁判所決定の方が正しいという自己撞着の説明にすぎず、国民が知りたいのはどちらが十分でない調査をしたかの具体的根拠です。
いわゆる説明責任の問題ですが、一人二人のプロでなくプロ集団の決めた調査方法が、十分でないというにはそれを主張する方が言いっ放しでなくどこがおかしいかの説明責任があるというべきでしょう。
裁判所はその説明を書いていると思われますが、論証過程の短文要約は無理があるのでNHKはそのままの引用にとどめたのでしょうが、それでは決定根拠不明のままです。
決定には当然図面等利用の詳細検証過程が書かれているでしょうが、 NHKはこれの要約報道は要約ミス等のリスクがあると謙虚に考えて抑制したのであれば、ネット配信の場合紙幅制限がないので裁判所配布の決定要旨をそのままPDFで添付し、関心のある読者に直接読むチャンスを与えて自由な解釈に委ねるべきでしょう。
従来国民は難しいことは理解できないからと言う尊大な立場で事実そのものを報道しないで報道機関の解釈を事実のように報道する傾向が強すぎたのを、意見部分を抑制するようになっただけでも一歩前進です。
従来法律専門家しか判決や決定書書にあたれない状態でメデイアが一方的解説をする・素人は黙ってついてくれば良いというイメージでしたが、数ヶ月〜6ヶ月後に専門雑誌に印刷されて見られるよになって専門家が見れば約半年以上前の報道機関報道は判決内容を正確に伝えていなかったとしても、(日付や氏名などはすぐ訂正されますが)要約トーンが微妙にズレている程度では「人の噂も75日」でそのままでしたので世論に与える影響は甚大でした。
結論あるいは結論とほぼ同レベルの「言い換え根拠」紹介だけでは消化不良の感じを受けるひとが増えてきます。
例えば日経新聞朝刊最終裏面に何年か前から連載されている美術〇〇10選かな?例えばこの約1週間の連載は装束面からの、国宝級絵画の紹介ですが、聖徳太子像や伝頼朝像などを装束面からの掘り下げがあって面白く楽しみにしています。
このようにいろんな説のあることはすでに知っている読者にとってはその次の段階・どういう根拠でどういう違いがあるのかというところまで知りたい読者が増えています。
土曜の文化欄の連載これまでいろんな人が登場しましたが、本郷新氏や今は出久根氏かな?違った角度の堀下げが面白いのでこれも大いに楽しみにしています。
報道系の人も、読者レベルに合わせてもう一歩掘り下げた報道すべき時代が来ているし、PDF等でこれに応じられるようになっているのですから、適応すべきでしょう。

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