消費者信用の拡大5(破産増加?2)

融資には一定の不良債権発生が(金融機関にとっても不良債権発生が少ない方が良いでしょうが)あるのは仕方がないことですから、6万人程度の破産が岩盤かどうかは、論理の問題ではなく長期観察の問題でしょう。
同じ6万人でもトータルでの消費者債務(破産債務額)が増えているのかなど多様な吟味が必要です。
人口比だと約5〜10%のレンジですが、昔から東大入学者のうち約5%のハズレがあると言われてきたように、どんなに精選しても歩留まり率というものがあります。
経済政策巧拙の問題よりは、社会的落伍者が債務管理能力不足による・・誰でもカードを安易に作れるし借りられる・庶民でも消費を謳歌できる良い社会?になったので注意しないと過剰債務・落伍者になる時代が来ています。
誰でも腹いっぱい食べられるようになると肥満が増えるような関係です。
子供は自己管理能力の低さを懸念して親等の保護下におかれ社会の荒波に揉まれないように保護されていたように、成人でも(法的には平等としても実際には)経済取引に参加できるのは経験を積んだ資産家だけだったのが、今や庶民までもが直接金融取引に参加する便利な「大衆消費」時代が来たのです。
こういう時には自制心や訓練だけに頼る他に、公的に各種勧誘規制等をしていかないと弱い消費者は守られません。
この一環としての金利規制もあるのですが、消費債務の中でサラ金系より金利の低いカードローン系の比率が上がるようにしたのは当然の進歩と言うべきで、それ自体が(金利の低い庶民向け商品が提供されているのは)庶民にとって良い方向への変化であって銀行系が非難されるべきものではありません。
震災被害者向けに昨日紹介した超低金利・長期間据え置きの融資をした結果、公的債務の占める比率が高いからといって公的融資が悪の元凶だという人はいないでしょう。
ところで、過剰貸付の基準は可処分所得による・・総量規制は年収の何分の1で決めているのですが、可処分所得の増減は、雇用・景気動向状況に左右されます。
毎月無理なく払える限度が4万円の人が、6万円の支払い義務があってその支払いに苦しんでいる場合に、可処分所得が2万円増えれば(月収30万の人が32万になれば)危機を脱します。
ここにきて学卒の就職率が97%前後の勢いが報道されていますが、正規非正規雇用の関係でも改善が進んでいます。
以下は総務省統計局の労働速報です。
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/
労働力調査(詳細集計) 平成29年(2017年)1~3月期平均(速報)結果
2017年5月9日公表
「結果の要約 役員を除く雇用者5402万人のうち,正規の職員・従業員は,前年同期に比べ47万人増加し,3385万人。非正規の職員・従業員は4万人増加し,2017万人。非正規の職員・従業員について,男女別に現職の雇用形態についた主な理由をみると,男女共に「自分の都合のよい時間に働きたいから」が最も多く,男性は前年同期に比べ3万人増加し,女性は21万人増加」
実質賃金アップについては日経新聞によると以下の通りです
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF22H0E_T20C17A5EAF000
実質賃金6年ぶりプラス 16年度、名目も増加 」 2017/5/23 9:04
上記のとおり正規社員就労数が増えて賃金手取りも増えているなど好調ですから、昨年の破産申し立て統計が若干(1、2%)増えたとしても、そのまま増加傾向が続くのか?増えそうになっても今後どうなるかが不明です。
破産や再生申立て数は(震災特別有志で紹介したように据え置き期間が五年もあります)4〜5年前の不景気時に借りた借金の破綻が今頃出てくるなど・・)超遅行指数ですから、これだけで現在の政策を批判したり将来を判断することは出来ません。
将来を見るには、過去5〜10年間の消費者信用残(が増える一方だったか)の増減や、延滞者数の変化表などを読み込んで行かないと今後2〜3年先の破産増加を予想するのは無理があるでしょう。
この道のプロ集団である日弁連消費者委員会が昨年1、2%増加したことを仮に問題にしているとすれば、上記の関連データを読み込んだ上での主張なのかもしれませんが、もしそうならばそこまで言って貰わないと読む方は消化不良です。
下記の通り意見書が出ているようですから、そこには多分詳細データが出ているのでしょう。
http://www.jc-press.com/news/201610/101302.htm
消費者最新ニュース2016年10月
銀行系カードローンで自己破産、過剰貸し付け「防止を」 日弁連が意見書
「銀行系カードローンによる多重債務被害の増加が懸念されるとして、日本弁護士連合会は10月12日、過剰貸し付けの防止を求める意見書を金融庁に提出した。」
とあったので日弁連が破産増加を懸念している意見書を出したのかと思って日弁連意見書に飛んで見ました。
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2016/160916_3.html
要旨を見ると破産増に対する懸念ではなく、銀行カード系も総量規制すべきという論旨であって理由を見るためにpdfの全文に入るとアンケートによるとサラ金系が減って(所得無視の)カード系債務が増えていることが中心関心らしく、ついでに16年5月までの新受件数が前年比100%超えるようになったことを触れているだけです。
2000年代に入って消費信用が何故伸びるかというと、高度成長の終わった国では、内需拡大しかないがお金を全国民に直接配るわけにいかない(という思い込み)→景気対策として「金融緩和すれば借りて消費する人が増えるだろう」と言う方向になったことが窺われます。
その中でわかり良いのが新築件数の増加目標は、てっとり早い効果が見込める分野ですから中韓もこの方面に精出してきました。
住宅ローン金利を下げればお金を配らなくとも自然に使ってくれるので簡単だからです。
100%融資を前提にすれば、金利を5%下げれば販売価格を5%値引きしたのと同じ効果になり、価格一定の場合、金利下げに比例して購入者の購買力が増します。
例えば年収800万の人しか買えない高額物件が5%年収の低い人でも買えます。
これに加えて頭金500万以上の残金ローンの条件であったのを全額ローンにすれば(この何年も前から仲介・登記等の諸費用や転居費用等の融資もあります)これと並行して「当初5年間金利だけ払えば良い」という設定の場合、本来500万円貯めるまでの期間と5年間の昇給を待たないと買えない人が5年プラス5年の合計10年早く買えます(消費先取りがその先どういう影響を及ぼすかは別問題ですが.・・)。
20年ローンを35年ローンに伸ばすと毎月の支払額が減るので、この面でも債務総額が増えても支払額が同じで一時的に購買力が上がります。
リボルビング方式の住宅ローン版で、多額の債務を負うようになっていることは同じです。
日本は平成初めのバブル崩壊以降、あの手この手で消費拡大・・弱者の生活水準向上に精出してきたことになります。
返済期限の先送りは低金利を前提にしていますから、日銀のゼロ金利政策同様にある日ローンやクレジット金利があがると収拾がつかなくなくなります。

消費者信用の拡大4(破産増加?)

ただし、経済成長すると収入が増える結果、(財政赤字解消には増税策と成長による収入を増やす方法があるのと同じです)過剰債務率が低下するので、安倍政権成立直後から4〜5年にわたる就労率上昇によって家計の可処分所得率アップが続いている結果、過剰債務率がかなり緩和されているはずです。
16年以来急減傾向にあった破産申立てが昨年初めて1、2%アップしたと言うのですが、1回キリの増加では、今後の増加傾向を示しているのか、ピークアウトなのか不明です。
個人破産や企業倒産は、その時の不景気にもある程度左右されますが、不景気が来ると相乗効果でとどめを刺されるだけのことであって、借金してすぐに破産や倒産しません。
倒産は事業のジリ貧傾向が数年以上続き債務残高が ジリジリと上がって行きメーンバンクが追い貸しに慎重になり、2番手の銀行から借り増し〜さらに3番手さらにノンバンクへと格を下げて行くのが普通です。
資金繰りに窮して銀行や親類縁者に追加融資を懇願しても誰も貸してくれなくなって最後に倒産するものであって、もしも泣きついて貸してくれればまた半年くらい延命します。
また貸す方も自分が貸しても1〜2ヶ月で夜逃げするような人に貸すと大損ですから、すぐに潰れるようなことは滅多にありません。
倒産や破産と本来の債務発生とはタイムラグがあるのが原則です。
東北大震災時に緊急巨額融資・・支払い期限の先送りなど大判振る舞いがありましたが、据え置き期間5年くらいありました・・この間返済が始まらないので破綻が送りされます。
家屋敷商売道具を流されてしまった人の中で再起しようとする人だけが借りたのでしょうが、普通の企業が事業拡大投資するのに比べてリスク率(いつ街が復興し避難した人が戻って来るか知れないなど)が高すぎますので、当然焦げ付き率が高まります。
だからこそビジネスに基づく融資がなり立たないので特別枠での低利融資制度が出来たのです。https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/shinsaikashitsuke.html
東日本大震災復興特別貸付の概要(日本政策金融公庫)
融資限度額 各融資制度ごとの融資限度額に6,000万円を加えた額 別枠4,800万円
※生活衛生セーフティネット貸付は別枠5,700万円
ご返済期間 (注2) 設備資金:20年以内<うち据置期間5年以内>
運転資金:15年以内<うち据置期間5年以内>
利率(年)(注2)
被害証明書等の発行を受けられた方
【当初3年間】<3,000万円まで>基準利率-1.4%(注)
<3,000万円超>基準利率-0.5%【4年目以降】基準利率-0.5%
上記以外の方 基準利率
東日本大震災に対処するための特別の財政援助および助成に関する法律(平成23年5月2日法律第40号)第2条第3項に定める特定被災区域(岩手、宮城、福島の3県は全域。青森、茨城、栃木、埼玉、千葉、新潟、長野の7県は一部)をいいます。」
据え置き期間の5年を過ぎたころからこの支払いが出来ない焦げ付きが大量に発生するだけではなく、デフォルト回避のためにカードローン等の利用に走る人も増えます。
個人の場合二重ローン解消制度が有名ですが、これは新築資金を貸してくれるのではなく、残ローン解消のために債務整理の申立してもブラックリストに載せない特別扱いするとか手持ち保留金限度を引き上げる程度です。
一般的行動を見ると、住宅ローン等の支払いが2〜3ヶ月に1回苦しくなってきて、少しだけカードローンに手を出しても、次のボーナスで返せるなどの繰り替えして数年経過で次のボーナスでも返せなくなっていき徐々にカードローン残が膨らんでいくような流れが一般的です。
ノーローン・当初何週間〜1ヶ月無利息広告が成り立っているのは当初は期間中に返せる人が大方ですが、これを繰り返している内に無利息期間中に返せなくなる人が出てくるのを見越した商売が成功することを証明しています。
破産申立て件数の激減が約十数年間続いた傾向の中で1、2%アップの増加率が仮に数年続いたとしても単なる下げ止まり・・岩盤・・全体としての減少傾向に変わりがないかも、この4〜5年の景気動向を含めてもっと詳しいデータがないと分かりません。
例えば企業倒産件数で見ると以下のとおりです。
http://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/201704.html
倒産件数が680件 4月としては27年ぶりの低水準
倒産件数は、前年同月比2.1%減(15件減)で2カ月ぶりに前年同月を下回った。前月3月が3カ月ぶりの増加に転じて推移が注目されたが、4月としては1990年(526件)以来27年ぶりの低水準になった。依然として企業倒産は抑制された状況が続いている。」
このように3月には増えていたのが4月には減っていますから、1回だけでは分かりません。
物事には岩盤があるのが普通ですから、10数年振りに破産申立てが年間1、2%増えるのが2〜3年続いてもその後また下がったりすれば、全体としては安定レベルと評価すべきでしょう。
http://jikohasan-pc.yw-information.com/toukei.htmlからのコピーです。
 年度別破産件数統計グラフ
上記によると、26年から28年の差は視覚的にはほとんどわかりませんので、岩盤に来ているのかも知れません。
月別破産件数統計 総数 月別破産件数統計 自然人

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