国連秩序と核兵器拡散2

私は以前世界平和・・公正な世界の実現を本気で願うならば、世界中の国々(国の規模の大小にかかわらず)が核兵器とその運搬手段を一定量保有すべきであると書いたことがあります。
軍縮よりも核兵器保有の普及こそが、核兵器の報復が怖くてどんな大国も武力に訴えられませんから、本当の世界平和・本来の正義を招来する筈です。
軍縮では、平和を守れませんし正義も守れません。
1万の軍備を相互に5000に減らしても、更に3000〜1000〜500〜100と減らしても、お互いに似たような兵力である限り腕力に訴えたい人がいる限り戦端は開かれます。
昔から刀や槍しかないときからでも、(そのもっと前・青銅器しかないときからでも)戦争はしていたのです。
ですから、相互に兵器や兵力をどこまで減らして行っても、(軍事費に使わない分民生が豊かになりますが・・)平和維持には効果がありません。
(戦争になれば双方共にいつでも兵力増強可能です・・・軍縮交渉の場合、兵器生産能力以下に無理に削減しているので、イザとなれば直ぐに生産拡大が可能です。)
ましてやこれまでの軍縮交渉の歴史を見ると、国力と言うか、現状兵力比を前提にして、同率で兵力削減交渉をするものでした。
これではどこまで行っても兵力格差がそのままですので、言わば過去の実力差を固定しようとしているに過ぎず、新興国は不満を抱くことになり却って国際秩序が不安定になります。
第二次世界大戦前の軍縮交渉・・米英仏日独伊の戦艦比率を決めたワシントン軍縮会議に続くロンドン軍縮会議(条約)がこれでした。
軍縮の逆張りで、弱小国にいたるまで核武装と運搬手段を保有出来るようにすれば・・大国も全く手を出せないから武力に訴える紛争解決は皆無になります。
(米ロだけで使い切れないほど核兵器を持っているのですから、毎年最新式の核兵器を世界中の国々へ配給制にしたら世界中の軍事費が何百分の1に減るでしょう)
イランや北朝鮮の行動は、アメリカによる理不尽な攻撃の繰り返しに対する対抗手段獲得・・あるいは戦後の武力基準の正義に対する順応行為と言えます。
彼らは核兵器を広めることによって、世界平和に貢献するつもりではないでしょうか?
核兵器を拡散させる方が、戦争発生を抑制し世界で正義が守られる・・武力解決が皆無になるという意見を06/20/06「核兵器7と通常兵器(偶発戦争の確率3)国際秩序1」前後で連載しました。
どんな小さな国でも核兵器を持っている時代になると理不尽な行為・違法行為に対する制裁が出来なくなると思う人がいるでしょう。
しかし・・世界の警察官役としてのアメリカあるいは超越した強国が必要という意見は、世界の紛争解決手段を武力解決に頼る意見と同じになります。
アメリカあるいはその次に出て来る強国の意見がいつも正しい訳ではないのですから、おかしな論法です。
国連常任理事国に対してだけ拒否権を認めるルールは、この理事国らにだけ超法規的存在を認めることになりますから、これら強国の主張する正義だけを保障する・・裏返せばそれ以外の諸国は強国の主張する正義に従わねばならないことになります。
その差別基準は強国か否かというだけですから、正義の物差しによる合理性・保障がありません。
アメリカが覇者の時代にはまだ表向きだけでも「民主主義を守る」「人権を守る」と言う大義名分がありましたが、中国が覇者になる時代が来ると彼らは表向きも金儲けだけですから、(人のものを剽窃することすら問題にしない)(アヘン戦争の例で見るように)何ら名分がなくとも好きなように侵略しても良いというイギリス主導の19世紀型剥き出しの武力主義の時代に逆戻りする可能性があります。
ここに来て、世界中が自分の家を自分で守るしかないという意識に目覚めて来るのは当然です。
常任理事国を決めた基準は、国連創設当時の大国・武力強盛国だというだけですから、戦後の国連体制は、武力による懲罰出来ない強国を超法規的存在として認める価値体系にせざるを得なかったことになります。
戦後世界は「強国の判断だけが正義」の価値観を体現して(好きなことをして)いたのがアメリカだったし、これを露骨に実現しようとする中国の粗暴な対応によって、戦後の価値基準が武力にあると言うことが白日の下に曝されることになりました。
これに対する小国の最適対応としては核兵器保有願望・行動となるのは当然です。
通常兵器拡大競争は際限がないので世界全体で経済的に疲弊しますが、核兵器の場合、一定量持てばそれ以上は不要ですから、経済的にも少額で済みますので中小国に有利です。
(あるいは世界全体で見ても軍事費が低額化して民生が豊かになる全世界的メリットがあります。)

国連秩序と核兵器拡散1

パックスアメリカーナと言うと何か有り難い感じですが、平たく言えば「アメリカの言うこと・やることが正義」として強制出来る世界秩序の別名です。
アメリカによる戦後支配とその限界を書いているうちに、中国の反日暴動にそれてしまいましたが、元に戻ります。
アメリカは一定の豊かさのある国に対しては諜報機関を通じた政権幹部の汚職・不倫等のリークで政権を揺さぶる方法で他国支配を意のままにして来ましたが、これの通じない国が現れて来ました。
イラン等聖職者の支配する国ではマスコミを通じた汚職や不倫等のリークの意味がなくなってしまいました。
アフガンの場合もイラン同様に、アメリカによるどんな経済制裁も気にしない国民性があると思われます。
こう言う国にはマスコミを通じた煽動も経済制裁の効果がないばかりか、却って反米意識が強固になるばかりですから、アメリカは武力侵攻するしかなかったと見るべきでしょう。
そこで湾岸戦争・イラク侵攻以来アメリカによる明からさまな武力侵攻が繰り返されるようになって来たのですが、当初は独裁政権を打倒して国民を救済するかのような名目が唱えられていましたが、アフガン戦争になると独裁・国民救済の名目すらなくなってしまいました。
9.11の報復としてのアフガン侵攻を見ると、アメリカは気に入らなければこれと言った大義名分がなくとも気に入らない国に侵攻することの出来る国だということを世界に示したことになります。
国家の歴史で見ると、国内混乱を治めるのに武力に頼るようになると統治能力の欠如を示すことになって、人心が離れてしまうので却って政権の最後を早めてしまうのが普通です。
戦後約70年間(それなりに自制しているでしょうが・・外部から見れば・・)アメリカがやりたい放題?して来た過程で、アラブ等の国では国内政治家が清廉で国民の支持を受けていても、国を挙げてアメリカに敵対している限り圧倒的な兵力差があるのでアメリカに攻撃されればおしまい(第二次世界大戦で負けた日本がその先例です)ということが分ってきました。
この過程で小国がアメリカによる要求に屈服しないで済ますためには、核兵器さえあればアメリカは無茶を出来ない・・経済制裁しか出来ないことも分って来ました。
今回のイランによる核兵器保有行動・動機の底流には、アフガン侵攻を見た結果アメリカに対する不信感・何をされるか知れない恐怖感が大きくなった裏返し行動と見るべきでしょう。
イランあるいはアラブ諸国では国民大衆が反米意識が強いようですし、イランでは聖職者が絶対権力を保持していることから政権関係者の金銭的腐敗もなさそうな(この辺が中国とはまるで違います)ので、軍事攻撃を受けるリスクさえなければ、経済制裁などあまり気にしなくてもいいのです。
そのうえ、経済制裁と言っても半永久的なものではなく、インド&パキスタンなどの例によれば、開発成功後直ぐに制裁が解除されています。
核兵器プラス運搬手段の開発に成功してしまうまでの短期間(今後10〜15年前後もあれば開発可能でしょう)の経済制裁を我慢すれば良いとなれば、その間だけの我慢ですから、制裁にメゲズに開発をやり遂げる可能性があります。
元々食うのにさえ困っているのですから、北朝鮮だって近いうちに核兵器を自前で保有出来るとなれば、それまでの短期間の経済制裁くらい、今更どうってことはないでしょう。
一連の核拡散が進む世界の動きを見れば、アメリカの言いがかりによってはいつ滅ぼされてしまうかも知れない恐怖があちこちで芽生えていることの裏返しと言うべきでしょうか?
アメリカによる強権行動が行われれば行われるほど、この恐怖から逃れる必要のある・・アメリカに楯突きたい国々に対して、アメリカは自衛のための核兵器とその運搬手段保有の拡大意欲を後押しして行くことになります。
アメリカ与国は、核の傘というレトリックに騙されて・・逆らえないので騙されているフリをしているしかなくて無防備のママで弱体化が進みます。
(近い将来北朝鮮が核保有国になると、日本は中国だけではなく、北朝鮮にも脅かされてしまう時期が来るでしょう。)
世界を見渡すと、アメリカ敵対国の方が核武装が進んでアメリカからの政治的自由を獲得出来るパラドックスになります。

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