夫婦の力学2(離婚の自由度2)

会社としては一括処理しないとコストが大変ですので、各末端店鋪ごとの近くにあるあちこちの銀行に振り込み出来ないのでしょうが、これなどは労働者に不便をかけている例で、実質的には労働基準法違反でしょう。
夫婦関係を捨象してもキャッシュレス時代が進行している現在では振込方式自体が合理的ですから、振込の慣習が定着してくると、会社側において一つだけではなく労働者の勤務地近くでかなりの数の銀行を提示しているなどの場合、労働者の指定・希望と違っても有効にする場合・・判例変更があるのかも知れません。
そもそも現金支給が強制されているのは、歴史上前貸し金による相殺・・事実上の人身売買の弊害を禁止することに主眼があるのですから、振込を一定の要件で法律上有効と明文化する法改正してもいい筈です。
現実には労働者が会社の指定に応じて口座を作らなければ会社も振り込みようがないので、労働者が事実上押し切られて会社の希望する銀行に口座を開設して振込が続いた後に、これは強制されて違法だと言う争いをしたときだけ・・任意の口座開設か否かが問題となった後に初めてテーマ・・判例になって来るのでしょう。
大手企業従業員は今では給与振込形式が殆どですが、まだそこまで行かない企業も一杯あります。
同居協力義務・婚姻費用分担義務に話題を戻しますと、家庭内サービスに飽き足らなくなると男は外で飲んで帰ったり帰りが遅くなったりし始めますが、その内に男が家に帰らなくなる・・あるいは家に入れるサラリーが減少してくると女性=次世代養育の危機が来ますので、女性とその子を守る法制度の充実が必須となって来ます。
浮気する男は外泊が増えて家に帰らなくなっても、別に一家を構える程の経済力がないので、(ホテル代その他の経費がかさみ)自ずから決まった収入しかない給与から家庭に入れるお金が減って行きます。
貨幣経済の現在ではこの段階で離婚騒動が持ち上がるのですが、江戸時代までの家禄に頼る武士や農業収入に頼る農民の場合、外で使うお金を男が直接管理している訳ではないので、浮気そのものでは家にある妻子の経済生活には何の影響も与えなかったでしょう。
その内、不貞行為が問題になると夫がまるで帰らないのではなく、その相手と縁を切らない限り帰れなくなって・相手の女性に対しての封建的道徳による締め付けもあって、女性との逢い引きがままならなくなります。
その結果・・思うように合えないことに我慢出来なければ「駆け落ち」(不倫に限らず身分違いその他で無理がある場合も同じです)と言うように旧来の生活圏からどこか知らない世界へ落ちて行くしかない時代でしたが、この場合にはむしろその家の財産権・・主として農業耕作権は家に残った妻子が事実上継承して行くものでした。
20年ほど前に担当した事件では、出奔した夫はまだ30台で、農家所有権は父親名義でしたので、嫁さんが姑夫婦と養子縁組をした上で、全遺産をその嫁さんだったか孫だったかに相続させる遺言書を作ったことがあります。
イギリスの王冠を賭けた恋でも知られるように、浮気は王家に限らず世襲的地位を棒に振るリスクがどこの国でもあるのです。

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