原発コスト22(安全基準2)

稼働中の原子炉や使用済み燃料棒の貯蔵施設・プールでは水の循環で冷却していたのですから、この循環システムが壊れてしまうと、電源があっても3時間以内にその修理をして再開出来るかの問題に帰します。
一般家庭で言えば、停電しなくとも、洗濯機が壊れれば修理するまで動かないのと同じです。
装置が全面的に壊れている場合、(特に今回の場合)修理が短時間で出来ないことは直ぐに分りますから、3時間半以内に外部からどうやって格納容器に水を送り込んで冷やし続けて冷却装置の復旧までの時間を稼ぐかの問題になります。
(マスコミでは電源喪失・確保に焦点を当てて報道していましたが、実際には電源の補完だけしても装置は動かないので、平行して如何に早く冷却用の水を供給出来るかが、関係者にとっては焦眉の急だったことになります)
事故後半年以上経過したいまでも、100度以下の冷温停止状態に持ち込めない・・未だに蒸発を続け、放射能の拡散が続いている(・・これを遮蔽・封じ込めるためにするために建家の再建築を急いでいますが、これが年末頃までかかるという報道です。)ことから明らかなように電源喪失の問題ではなかったのです。
(1号機が約一ヶ月前に3号機が9月19日にようやく連続100度以下になったと報道されたばかりです)
上記の通り今回の大事故・・冷却装置故障→過熱によるメルトダウンや水素爆発は電源喪失によるのではなく冷却関連施設の破壊・故障・・その復旧作業が短期間では出来なかったことによることが明らかとなってきました。
関係者には地震発生と同時に分っていたことでしょうが、これを報道すると何故そんな単純な準備をしておかなかったのかの批判が起きるので津波による電源喪失という一点にしぼって報道しているのではないでしょうか?
ここで安全基準のあり方に戻りますが、ずんぐりしたカプセルみたいな格納容器は容器ごと揺れるようにしておけば内部は一緒に揺れるので震度8でも10でも理論的には対応可能ですが、配管類は建家その他各種周辺施設や地面に固定して伸びていて格納容器に繋がっているので、固定部分・支持基盤ごとに違った揺れをします。
ずんぐりした容器と違い、縦横に伸びていて支持基盤ごとに違った揺れをする配管類は地震に対する耐性が単体の格納容器とは違って格段に弱いのですから、これに対する耐震性こそを優先的に研究しておく必要があったことが分ります。
この研究・準備をせずに格納容器・お城で言えば、天守閣だけ残せば良いという発想で地震その他の災害に対する備えをして満足していたのですから不思議です。
天守閣だけの丸裸状態になれば、城主が腹を切る時間(原発で言えば3時間半)を稼げるだけであって、最早戦闘能力皆無と言うべきでしょう。
原発敷地内の諸設備は原発・原子炉を維持して行くために必要な設備ですから、冷却水循環用配管に限らずこれらに付随する設備全部が壊れても、丸裸の格納容器だけ残れば安全だという安全基準の設定自体がおかしかったことになります。

原発コスト18(安全基準2)

損害賠償費、事故処理費用や廃炉費用を加えてコストが明らかにしても、結果的に火力発電と同じくらいのコストで仮に収まるとした場合、国民の不安心理からすれば、「同じ程度のコストだったら火力・水力発電にしてよ!」という国民が圧倒的多数でしょう。
仮に原子力発電のコストが半値でもどうかな?という国民が多いのではないでしょうか?
月平均1万円前後の電気代が2倍の2万円になっても、月々1万円のためにこんな危険と隣り合わせに生きて行く必要がないという人が多いでしょう。
元々1万円くらいは、ちょっと良い思いをするためにちょっと高めの洋服を買ったりアクセサリーや嗜好品に使っている人が多い時代です。
あるいは健康維持のために中国産ではない割高な国産農産物や健康食品・化粧品などを買ったりしている人が多いのですが、その追加出費額は月間1万円どころではありません。
あるいはちょっとした付き合いで、気持ちよく過ごすために冠婚葬祭や懇親会費として1万円程度のお金を包んだり出費することはいくらもあるでしょう。
放射能汚染地域で1万円出せば放射能汚染がなくなる魔法の設備が仮にあった場合、そんな便利なものがあれば1万円出してでも安心して暮らしたい人が多いのではないでしょうか?
事故直後放射能汚染された水を恐れてペットボトルを買う人が急増した事実がありますが、ペットボトルだけ月に数千円よけい出費しても空から降って来る放射性物質その他による被曝を避けられないのですが、飲み水にだけでもそれだけのよけいな出費を厭わない人が多い事実を重視すべきです。
とは言え、個人生活は別として、産業界が海外に比べてあまりに高い電力料金で流行って行けないという問題があるので、悩ましいことです。
どんなに国債競争上不利でも損害リスクをないものとした架空のコスト計算では意味がないので、繰り返し書いているようにもしも事故があった場合の損害コストを加算したコストでなければ意味がありませんから、ここはやはり損害を加味したらきっちりしたコスト計算を示して欲しいものです。
原子力事業に関する何重のチェック体制があろうとも、そのチェック目的が危険回避目的ではなく、事業をやって行ける範囲で国民の不安に応えて行けば良いという逆転の発想であったことが、今回の大事故に繋がったものと思われます。
9月16日にヤフーニュースに掲載された各地の原発訴訟を担当した元裁判官10人のコメント・印象が報道されていましたが、一旦原発を停めるとなると大変なコストがかかる・・国全体で原発を推進しようとしているときにそんなこして良いのか・と言う心理的圧力がかかってしまう・・結果的に格好がつく程度の証拠調べをして先ず認めてしまう心理状況が全体として流れている感じです。
(読み方・読後感は正確ではないかも知れませんので皆さん独自にお読み下さい)
この後で原子力安全・保安委員会班目委員長の浜岡原発訴訟での証言を紹介しますが、一々対応していると事業をやってられないと言う「割り切りが重要だ」という視点で安全度を判定していたことが分っています。
安全かどうかではなくコスト的にやれるかどうかを基準に保安院はチェックして来たことを自ら如実に証言しています。
こうした運用の結果、原発は火力より安いと言われても、火力より安くあげられる範囲で安全審査をして来た結果であれば、同義反復でしかありません。
各地の原発訴訟での裁判所の判断基準もやれる範囲でしか原告の主張を認めない・・どこもかしこも循環論法ですから安全審査も基準も意味がなかったのです。

原発のコスト13(安全基準1)

原発の被害はひとたび起きれば天文学的被害・・少なくとも兆単位ですから、政治・法で決めるのではなく、よく分らないならば市場経済に委ねる・・・引当金が少なすぎれば株式市場の信任を受けられないので結果的に無制限保険方式採用しかないでしょうが、これを採用すれば保険業界・市場が決めてくれます。
市場に委ねずに政府が決めると安全基準自体が怪しくなります。
政治で決めると、原子力発電事業を増やして行くことを既定の路線とした上で、原子力事業が維持出来る範囲で損害引当金額を決めて行く・・被害総額予測によって決めるのではなく、経営が成り立つ限度で安全対策をして行くことになりがちです。
今回の事故後明るみに出たいろんな事実によると、経営が成り立つ限度で安全対策も講じるし、賠償引当金も考えて行くという本末転倒の議論が普通に行われていたことが分りましたが、これは関係者個々人の責任というよりは、原子力政策の根幹・・先ずやることが政治的に決まっていて、それに抵触しない限度で危険を考え・安全対策をして行く予定だったからでしょう。
いみじくも事故当初東電側では「政府の基準に従ってやっていたので、自分たちは文句言われる筋合いではない」という言い訳をしていましたが、(世論受けしないので直ぐにこの主張を引っ込めましたが、)元々自民党・原発族議員を中心とする政府の立場は、本気で危険度を検討するのではなく、先ず原子力発電をやることに主眼があったのです。
先ず第一に巨額交付金をバラまき、利益誘導型地元政治家を巻き込んで行き、土地買収で大金が入る人に始まり、原発関連の仕事に関係する地元民も賛成派に巻き込んで行きます。
こうして地元政治家や地元民の多くは目もくらむ巨額交付金や補償金欲しさに、建前上安全対策を求めながらも「形さえ付けてくれれば良い」というなれ合い的チェック体制が構築されて行きました。
今回の原発近辺からの避難民の多くの元勤務先が原発関連事業が多いとも言われています。
これが再開是非を問う公聴会でのやらせメール事件の背景でもあり、今回の大事故後でも、ともかく何らかのテストして格好が付き次第再開したいという伝統的支配勢力の立場に繋がっています。
ストレステストは再開の道具であり、再開することが目的のようなマスコミ報道で、テストしても反対するような輩は非国民と言わんばかりです。
しかし、事故処理費用や賠償金のコストを含めたら火力発電よりも何倍もの高額コストがかかるなら、何のために伝統的支配勢力がヤミクモに原発を再開したいのかの合理的理由が見えてきません。
コスト計算を公開しない・・合理的論争を封じられたままで根拠不明ですがともかく「大変なことになる」とヤミクモに再開を急かされると、巨額の利権が裏で動いているのかな?と勘ぐりたくなる人が増えるでしょう。
いまはやりの風評被害の一種です。
風評被害はキッチリしたデータを隠すから起きるのですが、原発再開も何故必要かの根拠を示さずに「大変なことになる」というばかりでその先の議論をさせない不思議な風潮ですから、裏で何かあるのかな?と痛くない腹を探られることになります。

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