原発コスト18(安全基準2)

損害賠償費、事故処理費用や廃炉費用を加えてコストが明らかにしても、結果的に火力発電と同じくらいのコストで仮に収まるとした場合、国民の不安心理からすれば、「同じ程度のコストだったら火力・水力発電にしてよ!」という国民が圧倒的多数でしょう。
仮に原子力発電のコストが半値でもどうかな?という国民が多いのではないでしょうか?
月平均1万円前後の電気代が2倍の2万円になっても、月々1万円のためにこんな危険と隣り合わせに生きて行く必要がないという人が多いでしょう。
元々1万円くらいは、ちょっと良い思いをするためにちょっと高めの洋服を買ったりアクセサリーや嗜好品に使っている人が多い時代です。
あるいは健康維持のために中国産ではない割高な国産農産物や健康食品・化粧品などを買ったりしている人が多いのですが、その追加出費額は月間1万円どころではありません。
あるいはちょっとした付き合いで、気持ちよく過ごすために冠婚葬祭や懇親会費として1万円程度のお金を包んだり出費することはいくらもあるでしょう。
放射能汚染地域で1万円出せば放射能汚染がなくなる魔法の設備が仮にあった場合、そんな便利なものがあれば1万円出してでも安心して暮らしたい人が多いのではないでしょうか?
事故直後放射能汚染された水を恐れてペットボトルを買う人が急増した事実がありますが、ペットボトルだけ月に数千円よけい出費しても空から降って来る放射性物質その他による被曝を避けられないのですが、飲み水にだけでもそれだけのよけいな出費を厭わない人が多い事実を重視すべきです。
とは言え、個人生活は別として、産業界が海外に比べてあまりに高い電力料金で流行って行けないという問題があるので、悩ましいことです。
どんなに国債競争上不利でも損害リスクをないものとした架空のコスト計算では意味がないので、繰り返し書いているようにもしも事故があった場合の損害コストを加算したコストでなければ意味がありませんから、ここはやはり損害を加味したらきっちりしたコスト計算を示して欲しいものです。
原子力事業に関する何重のチェック体制があろうとも、そのチェック目的が危険回避目的ではなく、事業をやって行ける範囲で国民の不安に応えて行けば良いという逆転の発想であったことが、今回の大事故に繋がったものと思われます。
9月16日にヤフーニュースに掲載された各地の原発訴訟を担当した元裁判官10人のコメント・印象が報道されていましたが、一旦原発を停めるとなると大変なコストがかかる・・国全体で原発を推進しようとしているときにそんなこして良いのか・と言う心理的圧力がかかってしまう・・結果的に格好がつく程度の証拠調べをして先ず認めてしまう心理状況が全体として流れている感じです。
(読み方・読後感は正確ではないかも知れませんので皆さん独自にお読み下さい)
この後で原子力安全・保安委員会班目委員長の浜岡原発訴訟での証言を紹介しますが、一々対応していると事業をやってられないと言う「割り切りが重要だ」という視点で安全度を判定していたことが分っています。
安全かどうかではなくコスト的にやれるかどうかを基準に保安院はチェックして来たことを自ら如実に証言しています。
こうした運用の結果、原発は火力より安いと言われても、火力より安くあげられる範囲で安全審査をして来た結果であれば、同義反復でしかありません。
各地の原発訴訟での裁判所の判断基準もやれる範囲でしか原告の主張を認めない・・どこもかしこも循環論法ですから安全審査も基準も意味がなかったのです。

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