金融政策の限界9

先進国で必要とされているのは、生活レベルアップ向けの投資や研究開発ですが、これは投資乗数が低いのが原則です。
運転を快適にするために道路補修を4年1回から2年に1回にしたところで、その社会の産業効率・生産性は殆ど上がりません。
豊かになれば経営者も自宅の内装.備品をグレードアップしますが、それによって経営効率が目に見えて良くなる訳が有りません。
自宅の文化レベルが上がると文化系次世代が育つ可能性を期待出来る程度でしょう。
景気対策としての財政出動・・凸凹道を舗装し曲がりくねった道を直線にするのは投資乗数が大きいのですが、こうした投資はキャッチアップ型後進国経済には有効ですが、(開発独裁が有効な所以です)先進国では後進国への生産移管が始まって以降、規模拡大型よりは、生産力過剰→整理統合縮小が主たるテーマですから、投資誘発効果を求めるのは無理があります。
利用の減った山間僻地の道路や電線水道設備を閉鎖して行く決断の方が求められていて、他方で都市のトイレや道路美化(植栽の手入れや電柱地中化など)などの投資が求められています。
景気対策としての財政出等は特定分野狙い打ちの需要創出(長野オリンピックあるいは、映画舞台化による一時的観光ブーム=地域限定バブル・・エコ減税や地デジ切り替えなどの場合特定産業バブル)にしかならず、その期間が終わると却って後遺症に苦しみます。
ジャパンデスプレイの例で分るように一種のゾンビ(企業ではなく日本が棄てて行かねばらない)生産品の延命策も、いくら資金を補充しても切りがありません。
8月6日経新聞では革新機構からジャパンデスプレイに資本注入予定と出ていましたが,市場採算の取れない特定物の生産にこだわるのが無理になって来たのではないでしょうか?
ところで後ろ向きの応援をする革新機構って意味があるでしょうか?
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO05759850W6A800C1MM8000からの引用です。
「スマートフォン向け液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)が筆頭株主の官民ファンド、産業革新機構に金融支援を要請したことが分かった。液晶パ ネルの販売が振るわず資金繰りが悪化していた。革新機構による債務保証や融資などが浮上している。数百億円規模の支援を得て財務の健全性を高める。(関連記事企業総合面に)」
後進国・・キャッチアップ型の場合業界結集しあるいは財政資金投入してモデルケ事業育成するのは意味がありますが、先進国では既存産業技術は日々陳腐化に曝されてるので革新脱皮していく・・「リストラクチャリングして行く」のは個別企業の責務です・・。
トヨタでもトーレでもコマツでも1企業の中身を見れば、日々革新に励んでいる→新製品開発に挑戦してこそ生き残れる・・裏から見れば陳腐化した旧製造設備はしょっ中廃棄しているから生きのこって行けるのです。
世界の工場の地位を失いつつあって規模縮小予定の先進国では何を廃棄して行くべきか、その間の経営をどうするかは市場原理に委ねるが原則ですから、国策策定は無理があるので、業界総意による出資と言う形にしてこれに一部財政投融資するのも緩やかな国策・・お茶を濁してるのですが、ジャパンデスプレイの例を見ると、業界のどこの企業も維持出来ない(市場性のない)製品を業界上げて生産力維持するのは無理があることがわかります。
中国では全体的な経済低迷にも拘らずエコカー減税等の(国産優遇の部品指定?)テコ入れ策によって中国国産の新車販売が伸びているようですが、これは需要の先取りでしかありません。
・・優遇期間が終われば・・あるいは優遇(減税)をそのまま続けても数年分の需要を先食いしている以上は、数年でメッキがはがれ、反動減が来ることが明らかです。
先進国では反動減が怖いので、特定産業や地域限定プッシュ型をやめて日米欧で社会全般の消費力アップを図る金融緩和論が政策の中心課題になって来たのは、当然の流れです。
ただ中国では緩和をテコに直ぐにマンション需要に火がつく・・これもバブルの再燃再拡大が議論されていますが、その外に需要の先取りと在庫が増える点で需要減問題を先に送って行きます。
中国では、この10年間ほどマンションその他焦点を絞っての優遇策でその分野ごとのバブルを煽っては損をさせて(例えば1昨年暮れ頃から政府推奨の「株は儲かるぞ!」式のバブルを煽って於いて昨夏の株式暴落)は、別のターゲットを決めてまたバブル化させることの繰り返しでしたが、もはや、再転嫁すべき対象がなくなって来た・・国民資金の底が尽き始めた印象です。
中国や韓国の場合、モラルハザードになり易い(と言いますがまだモラルが出来ていない)社会では緩和さえすれば良い訳ではありませんが、先送り政策に頼っていることになります。
これでも・・目先の経済停滞を誤摩化すことは可能ですが、カンフル同様で問題解決を先に送っているだけですから、いつかは行き詰まるだけはなく先に送る都度おまけが膨らむ傾向があるので最後は大変なことになります。
例えば100万円借りて返せないときに借り換えると金利や紹介手数料を含めて120万借りる・・120万返すために150万借りる〜200万円などと繰り返しているうち瞬く間に最初に借りた100万が1000万になるのと同じです。
金融緩和(金融調政策)の役割が先進国・純債権国・豊かな社会では終わっていることをここでは書いています。
億単位の預貯金を持っている人は、銀行金利が下がっても消費を増やしたりすることはありません。
政府の号令一下・・金利をちょっと下げれば設備投資が増え、住宅や各種ローン購入者が増える・・国民が政府の思うように消費を増やしたり減らしたりする単純反応する時代は終わっています。
先進国である筈のアメリカが金融政策に単純反応する社会・・ここ数年の異次元金融緩和によってクルマローン安によるクルマ購入の拡大はサブプライムローンの再現と言われているのは、新興国・・から絶え間なく流入する移民の存在と貧民層が多いからではないかと思われます。
アメリカとしては、異次元緩和を早くやめたい状況ですが、中国の破綻・・世界経済混乱を恐れて政策変更出来ずに困っています・・日本とは状況が違っています。

金融政策の限界8

紙幣大量発行を利用して国民がそのまま国内消費に振り向けると(海外投資ゼロに近い場合)どうなるでしょうか?
比喩的数字で言えば、異次元緩和分が100兆円あるとした場合、日本ではその内99%以上が海外投資に向かい、資金不足の新興国では99%以上国内消費・投資に向かう場合の違いです。
単純に国内消費を増やせばこれに呼応した国内投資も増えますし、各種輸入が増えて国内景気が過熱して景気が良いように見えますが、国際収支赤字累積→流入資本引き上げ加速→通貨暴落(アジア危機)→いつかはハイパーインフレの心配がありますから、経済学者の杞憂論は資本不足国を前提にしていて資金余剰で縦横に海外投資する日本社会を1回目の東京オリンピック時期・・資金不足国と同視していると思われます。
ちなみに中国だって将来の経済失速を前提に海外資金逃避・・裸官(賄賂・高官非難が中心ですが経済的に見れば資金逃避の1態様です)に始まって死に物狂いで?企業買収に動いています・・この数日ではイタリアサッカーチームの買収も報じられているように、何でも買収対象になっているのが現状です。
中国の場合、(まだ海外進出するほど経営経験が熟していないのに)死に物狂い・・後先を考えずに買収するので失敗が多いと言われていますが・・「借りたら返す」近代法のモラルが定着していない中韓国民レベルを前提に経済政策の議論を日本の学者がしていることになります。
日本の場合いくら金利を下げても家計負債が増えるどころか、(サラ金系債務が激減していることを4〜5日前に紹介しました・・この結果サラ金大手も小さな個人的サラ金業者もほぼ壊滅しています)逆に個人金融資産が増える一方と言われています。
以下は野村のデータによりますが表をそのままコピペ出来ないので各年の(金融資産内訳に興味のある方は上記に直接アクセスしてご覧下さい)合計数字のみの紹介です。
http://www.nicmr.com/nicmr/data/market/retail.pd
リテール金融市場 日本の個人金融資産残高の推移
西暦    2011    2012     2013    2014     2015(Q1)   Q2     Q3
合計  14,999,732  15,440,650 16,443,403  16,962,404  17,001,117  17,175,367  16,838,135
野村資本市場クォータリー
(注)1. 2015年第3四半期以前の値は改定のため、前号の数値と異なる場合がある。
野村資本市場研究所作成

上記データは15年第三4半期(Q3)までしかありませんが、日本の個人金融資産が長1200〜1400兆円と言われていたのがいつの間にか15年第一4半期(Q1)以降約1700兆円に膨らんでいます。
日本の場合・・バブル崩壊で懲りた経験にもよるでしょうが、いくら金利を下げても日銀や経済学者の期待どおり、見通しの悪い事業を始めるために借金したり、返す当てもないのに借りる個人が滅多にいないのは慶賀すべき智恵です。
実はバブルのときも借りまくったのは不動産業者と貸しまくった金融業界(特に痛手を受けたのは住専でした)だけでした(個人は、農地など高値で売り抜けて得した人の方が多かった)から、日本全体の傷が浅かったのに金融業界の不始末の所為で日本全体が迷惑を受けたに過ぎないことを何回も書いてきました。
日本は犯罪率が低いと言う意味は、一定率の不心得者がいる・ゼロではないのと同様で、モラルハザード者も日本にも一定率いるには違いないですが・・消費者金融借入増に走る人も皆無ではないまでも、そう言うレベルの比率が低いと言うことでしょう。
日本社会の場合、道徳律その他で世界の先を走っていますので、中韓等の周回遅れの国に有効な19〜20世紀型金融緩和をしてもそれほどの政策効果を発揮しないのは当然です。
いつも書くことですが、エリ−トの考えることはいつも過去の事例研究・・お勉強が得意な人ばかりですから、先進国の政策決定に関与するのは間違いです。
日銀のエリート・経済学者や有名エコノミストは中国や韓国の中央銀行総裁やシンクタンクに就職すれば、社会状態が適合していて、提言どおりの政策効果がすぐに出て重用されるのではないでしょうか?
中韓贔屓のマスコミ人が退職後中韓の大学に就職して厚遇を受けている例がありますが、経済学者やエコノミストや日銀委員も中韓の大学教授に就職すれば活躍出来る筈です。
実際中国の場合バブル崩壊を食い止めるためにちょっと金融緩和するとすぐにマンション価格が急上昇し再バブル化して来たので、5月には2戸目マンション購入制限策(納税基準を過去1年分から2年分にするなど)に乗り出していますし,赤字生産を阻止するために2月26日にG20で約束したばかりの過剰設備整理の約束で休止中の高炉の再稼働が始まるなど政策効果がストレート・・ホンの数十日程度で出て来る国です。
ホテルでバイキング方式にするといくらお皿に取っても料金は変わりませんが、日本人の多くは自分が食べられる程度しかお皿にとりません・・。
中韓の客は食べもしない量をやたら皿にとって食べ散らかし放題と言われています・・今では恥ずかしいことと分って来ているかも知れませんが、元はそう言う話でした。
これが国民性の違いと言うか発展段階の差です。
マイナス金利や紙幣大量発行の恩恵で1000〜1万件に1つあるかないかの本当の有望新規事業がこれによって開業資金を得易くなる場合があるとしてもその効果は・・徐々に浸透して行くしかないので、すぐに日本全体の負債が大幅に増えて経済が活発化する・・経済効果がすぐに出るようなことにはなりません。

異次元金融緩和とハイパーインフレ1

国際相場で必需品等を輸入する資金が枯渇するかどうかがハイパーインフレになるかどうかの基準であり、円相場の基準です。
日銀がいくら無制限に円を刷っても外国人投資家がこれを日本で借りて海外に持ち出して「円キャリー取引」をしている限り、同額の債権を日本の銀行等が保有しているのであって日本の負債ではありません。
トヨタなど事業系や資源開発企業等国内企業がマイナス金利の円を多めに銀行から借りて(あるいは社債発行して)海外投資しても同じく対外債権が増えるだけで円が暴落する心配がありません。
国内投資されない余剰発行分が海外に出て行くとその時点で流出した分だけ(国際収支の基調的黒字による基調的円高趨勢を押し戻す)円安効果が出ているのであって、大震災のときのように日本の危機発生時には円が戻ってくることが想定されている結果危機が起きるとその効果を想定した投機筋の円買いが起きて円高になるのが原則です。
対外負債(資本流入)を膨らませて一見景気の良い国(アジア危機前の東南アジア諸国など)の場合,世界経済危機が来ると資本引き上げによって大暴落しますが、日本は逆に危機が来たときに円引き揚げ・・還流予想によって逆に上がる・・ここ数十年続く危機時の円高はこの原理によります。
リーマンショックであれ、東北大震災であれ,昨年来の中国発の経済危機の恐れ→イギリスEU離脱ショックなどによる円高はすべてこう言う動きでした。
しかし、震災当時のコラムに書いたように日本の場合背伸びして海外投資していない・・国内資金滞留も多いので、大震災にあったくらいで、海外投資引き上げに追い込まれるほど困りはしません。
東北震災や熊本震災で見れば分りますが立地企業は甚大被害を受けますが、その復旧費用捻出のために海外工場を売却して資金を引き上げる必要がないと言えば分るしょう。
ただ復興用に国内余裕資金を使って海外進出を予定していた資金が乏しくなることは確かです。
日本は大震災で貿易赤字になっても総合収支では毎年巨額の黒字を計上しているので、何もしない(同額分海外投資して行かないと)と黒字分だけ毎年円が上がる基調(比喩的に言えばGDP比1%経常収支黒字があると何もしないと1%ずつ円が上がる)にありますので、震災復興等で海外進出用資金・・流出が減ると、この限度で海外資金流出が一時的に減る・・国際収支上の黒字分の蓄積による円高が進みます。

“http://www.asahi.com/articles/ASJ2556FSJ25ULFA01J.htmlからの引用です。

財務省が8日発表した2015年の国際収支(速報)によると、貿易や投資による日本と海外のお金の出入りを示す「経常収支」の黒字は前年の6・3倍の16兆6413億円だった。原油安による貿易赤字の縮小に加え、訪日外国人による日本での消費が増え、旅行収支が53年ぶりの黒字となったことなどが経常写真・図版

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上記の第一次所得収支は海外利益送金収入ですが、この送金が大きい結果日本経済は恒常的に総合収支では黒字が続いている・・放置しておくと黒字分だけ円高が進むので、恒常的に海外還流して行く必要がある状態です。
大地震等の資金需要が出たと言ってもその程度は微々たるもの(上記例で言えば海外投資が皆無になるのではなく何%か減るだけでしょう)東北大震災の2011年以後数年間で見ても貿易収支が赤字になっても海外収益で穴埋め出来ていて、総合収支が黒字のママであったことが分ります。
ただ、世界の金融業者は他人のお金をキチキチ運用して投資する立場しか知らないので、「経済変調があると日本が資金を引き上げるだろう」と言う間違った読みで円が上がるので、日本は迷惑します。
間違いであろうとなかろうと・・実際に円上がる以上はこれを阻止する必要・・世界危機時に日本が損をしていなくとも円の大量発行を仕掛けて円の独歩高を阻止する必要があったのですが、これを怠っていたためにリーマンショック後日本経済が低迷してしまったのです。
危機時の通貨騰落率によって、そのときの国際的経済力のランキングが分る仕組みです。
従来はUS$1強でしたが、今や何かあると(アメリカの金融緩和の打ち止め→中国等から資金引き上げリスクの予想、あるいはEU離脱ショック予想だけでも)日本円の上がる率が高くUSドルが少し上がる程度・これが世界の実力評価と言うところです。

金融政策の限界7

以下金融政策の限界論です。
不景気とは、・・経済原理上投資するメリットがないと言う市場判断によって、投資が停滞しているのが現在の世界経済です。
昔は需要があっても資金がない国では、インフラ投資出来ませんでしたが、今では需要があれば先進国から資金が流れ込みますから、需要がすべてを決める時代になっていると言うテーマでこのシリーズを書いてきました。
日本は世界最大の純債権国・資金余剰の国ですから、投資が増えないのは資金不足によるのではなく市場的関心による需要がないからです。
これ以上トンネルをくりぬいて10数人規模の小集落間の移動を便利にしてもコストパフォーマンスが悪過ぎる・・公共工事による経済効果を期待するのは限界が来ていることは20年前から分っていることです。
今は財政目標は公共工事からいろんな方面へ拡散していますが、民間の創意工夫・・智恵を結集しても採算取れないものを、政府が作っても需要が想定より増えることがありません。
第二階東京オリンピック設備計画同様にやってみると、想定以上のコストがかかる逆の結果になるのが普通の成り行きです。
特定成長分野を政府が決める(太陽光発電への補助など)のは計画経済のようで無理があるし利権の温床になりがちなので、全国民に公平に効果が行き渡るように規制や金融緩和で公平にみんなのハードル(コスト)を下げる・・水平面をさげる(下駄を履かせる)努力が規制緩和・金融緩和論です。
しかし市場原理に委ねると民間がやる気が起きない分野については、公共投資であってもあるいは金利下げによって少し投資が増えても(元々需要が乏しいのですから)これによる経済成長効果が殆どない見込めません。
金利下げによって無理に後押ししても投資乗数・・経済成長効果がないことに変わりがない・・世界水準から見て高度にインフラその他が行き渡っている先進国・・しかも資金が余っている我が国では、金利が下がり紙幣増発しても本来の需要が増える訳がありません。
我が家で言えば金利が下がっても借金する気がしないし・・牛乳やコーヒーの値段が1割下がっても昨日より多く飲みたいとは思いません。
景気対策として人為的に需要を引き上げようとして財政投融資や金融緩和するのは、結果的に経済合理的に見て必要もない資金利用を煽ることになります。
※生活に必要なインフラ整備は終わって今後はレベルアップ用の整備・・街路樹の植栽、駅プラットホームの防護冊やエスカレーターなどの増設、電線地中化・・公園便所のレベルアップなどは経済成長効果を望めませんが、豊かな国では税でやるべきでしょうし、ロケット開発や南極派遣など)長期的展望による資金が必要なために民間で出せない分野を国家地方政府が出すのは必要ですが、目先の経済成長を求めるとおかしなことになります。
財政の使い道は豊かになった程度に応じて快適な生活を増進する目的で行なうべきであって、経済対策として行なうべきないと言う視点で書いています。
私見によれば即効的景気対策・・経済成長目的の財政出動政策は不要であり誤り(害)ですが、(為替相場対策→その結果として内需が増える効果としては意味があることは認めますが・・)これを間違って?利用する人が増えた場合、我が国のバブルの教訓だけではなく、どこの国でも何らか(長野オリンピック景気も本来その社会地域の需要を越えた人為的需要でした)のバブルが発生し、崩壊する法則?を直視すべきです。
日銀が金融緩和しても物価が上がらない(物価が上がらないのは良いことです)とか国内投資が増えていないと批判する意見がありますが、元々そう言う直接的効果は予定されていないと言うべきです。
何回も書くように開かれた世界ではある国の物価が上がれば物価の低い国から輸入される・・中期的には国際相場以上に物価が上がることはありませんので金融政策に物価上昇効果を期待するのは無理があります。
同様にいくら日銀が紙幣を発行しても(日本が輸入資金を持っている・債権国である限り)ハイパーインフレは発生しません。
赤字国債論議で財政赤字が続くと必ず出て来る「将来払えなくなればどうする」と言う議論に対して何回も書いていますが、赤字累積がどうなるかは、日本全体の赤字の場合の議論を一部組織でしかない「政府財政赤字」の議論にすり替えているのです。
日本経済全体のために必須ならば(体全体を助けるために一部ちくりと注射して痛い思いをしても良いように)「政府」と言う部分団体の赤字も我慢すべきかは別問題です。
金融緩和論に戻りますと、リーマンショックに対して世界中が金融緩和で対処したのに、日本だけが緩和しなかったので超円高になり、リーマンショックの被害が最も少なかった日本が一番回復が遅く・・大きなダメージを受けてしまいました。
金融緩和は国内投資を直截増やすよりは為替相場の引き下げ効果があって、輸入抑制・輸出環境好転→国内投資環境の好転、・・結果的に緩和しなかった日本だけが割を食ってしまったのです。
インフレ期待を日銀が掲げたのは(私見によれば)間違いですが、金融緩和競争に日本だけ泰然としているべきではない・・これを改めたのは正解です。
マイナス金利もEUが早くから実行しているしEUの方が、マイナス金利ハバが日本よりも大きいのに、これとの比較論が一切なく日本のマイナス金利だけ「害が大きい」と批判しているのは学者としてはマトモな議論とは言えません。
移民のテーマでも、西欧等での移民増加のマイナス効果を全く論じないで人道論だけ煽っているのも同じです。
人道論は既に移民してしまった人の救済論であって、これから移民を入れてよいか否かの議論とは関係がない・・すり替え論です。
マスメデイアは「日本経済が沈没するように期待するバイアスがかかっているのではないか」「日本が損するような提言しかしない」と言う批判にも説得力がありそうな状態です。

金融政策の限界6(韓国のミニバブル2)

マスメデイアでは中国バブル崩壊を懸念する声が漸く大きくなってきましたが、韓国の場合世界経済や日本への影響が小さいからか殆ど注目されていません。
以下はhttp://seoul123.seesaa.net/article/121402277.htmlからの引用です。
「6月13日韓国銀行によると、韓国人の個人負債は、昨年末基準で1650万ウォン、アメリカは5795万ウォン、日本は3626万ヲン(260万円)、オーストラリアは5150万ウォンと集計されました。
一方、個人金融財産はアメリカ1億6557万ウォン、韓国3451万ウォン、日本1億5617万ウォン(1120万円)で、韓国と経済規模が同じオーストラリアは8254万ウォンです。
韓国銀行は、個人の負債を判断する時、単純に負債の増加だけを注視するのではなく、金融財産の増加を含めて考え、個人の財産健全性と負債償還能力を判断しなければならない。また、個人の負債が増えるのは経済成長に伴う自然な現象なので、それ自体を否定的に見てはいけないと指摘しています。
金融財産を金融負債で割った比率で見ると、昨年末の時点で、日本が一番高く4.31、アメリカ2.86、韓国2.09、オーストラリア1.60になり、日本が一番安定した経済状況にあることが解ります。」
(ただし何年のことか分らない書き方です・・2009年頃に書いたものかも?・・韓国の個人負債激増が問題になり始めたのはここ数年のことですから今のテーマとしてはちょっとモノ頼りないですが・・・。)
上記のとおり急激な個人負債の膨張の心配に対して金融資産も増えているから心配するな?と韓国銀行が言い訳しています。
しかし、GDP比の増加率を昨日紹介した「日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)」の記事(これは新しいデータです)から見れば以下のとおりです。
「韓国の家計負債は、2015年末に1,200兆ウォンに達していて、負債の規模もさることながら、増加スピードが速いことで懸念されている。韓国の家計負債は04年に494兆ウォンであったが、15年には1,200兆ウォンに膨らんでおり、年平均8%ほどで増加をしたという計算になる。同じ期間中に、韓国の経済の実質成長率が3.6%前後であったことを考えると、経済成長に比べて負債は2倍以上のペースで増加したことがわかる。」
これによればGDPの拡大の2倍のスピードで個人負債が増加していることが分り、韓国銀行の説明に無理があることが分ります。
上記記事は全国民をごっちゃにした統計数字で見た場合でも負債率が2倍にふえていると言う指摘ですが、韓国の場合、いわゆる財閥一族に富みが集中し・勤労者も大手企業・公務員とその他零細企業従業員との二極化が激しい・・ヤンパン支配再現のような同様の大きな格差があると言われている社会構造を直視すべきです。
アメリカの格差拡大不満同様に財閥オーナーとその周辺だけがGDP拡大の恩恵を受けている不満が大きい・・これがイギリスのEU離脱論の根底にある世界の潮流ですが、財閥社会の韓国ではその矛盾がもっと大きくなっている筈です。
ただ韓国は前近代意識が強いと言うか庶民が弱い社会ですから、どんなに不満があっても意思表示出来ない・・精々移民や売春婦になって海外に逃げる算段しか出来ない点(北朝鮮でもあれだけ貧困で苦しんでいても誰も反抗しません)が欧米との大きな違いです。
格差の大きい社会では国全体の統計を平均するのでは意味をなさない・・末端庶民の苦しみを見るには、負債比率をGDPで割るとしても、その何倍かの倍率をかけないと本当の意味が分からない状態です。
消費者金融が拡大し続ける社会構造=庶民の方は金融資産など殆ど持っていない・・老後資金がないばかりか国レベルでも年金制度が充実していない現実こそが重要です。
金融資産を持っている人・・例えば500万の預金を持っている人がサラ金やヤクザから10〜30万借りることはあり得ない・・あるいは借りても預金を崩せば返せるのに娘の身売り・・海外売春に追い込まれる人はいない筈です。
借りる人は金融資産など元々持っていない・・(サラ金の顧客も通信料金など引き落とし用に預金口座を持っていますが)金融資産といえるほどのものを持っている人と持っていない人に厳然と別れているのが普通です。
(いつも書きますが一定の例外はありますが原則で書いています)
国民の苦しみ・程度を見るのに、財閥の持つ巨額資産+消費者金融を全く利用していない中間層(年収数千万円以上の階層)の金融資産合計と負債の比率を見ても意味がないことは確かです。
金融資産とのバランス論は、対外でフォルト可能性・・国内資金で賄えているかが分る程度・・国家のデフォルトリスクが多いか少ないかの基準にはなりますが、2極化された国民不満・・国内治安リスクは読めません。
日本の財政赤字リスクの判断には、国内金融資産残高と国債残高の関係が重要ですが、財政赤字の議論になると何故かエコノミスト・マスコミは個人金融資産残高との比較を報道したがりません。
いつも書いていますが統計はどの場面で切り出すかが重要です。
以下はhttp://www.sankei.com/west/news/141118/wst1411180004-n1.htmlからの引用です。
1000兆! アジア最悪の個人負債 2014.12.31 17:00
 リーマンショック以降、金融危機の恐ろしさが身に染みた多くの国では、金融機関が個人向け融資に慎重になっているが、韓国ではむしろ国内総生産(GdP)に占める個人負債の割合が増す現象が起きているのだ。
 韓国メディアの毎日経済新聞(電子版)が伝えたドイツ金融会社アリアンツが発表したデータによると、昨年末時点の世界主要53カ国のGDPの個人負債比率は65・1%で、09年に比べて6・4ポイント下落した。
 ところが、韓国はアジアで最も高い92・9%で08年比で10%上昇。負債規模は08年からの5年間で、1・4倍に急増したという。」

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