ドイツ国債の売れ残り2(金融資産劣化)

南欧諸国に貸し込んでいたドイツ・フランス等の金融資産が劣化し、ひいてはドイツ・フランス国債が大幅下落になれば、独仏の国債や独仏の金融機関債・株式を安定した金融資産として買っていた日本その他世界中の金融機関・機関投資家の財務内容が痛み、スパイラル状に世界中の金融資本がダメージを受ける展開になりかねません。
それはそれで良いかも?あるいは仕方のない現象だと思う人もいる筈ですが、そう言う意見はマスコミには出ません。
いつかはこうした事態が来ることが分っているにしても、経済の大混乱が起きることを先送りしたいからです。
世界中の金融資産が痛めば、世界中の経済が変調を来すのは当然ですが、それは借金清けで消費を謳歌していればいつかは破綻が避けられないのと同様に、世界全体の経済も紙幣の際限ない発行で水増ししていればいつかは破綻して仕切り直しが必要になるのは同じ・・浪費経済がいつかは破綻するのと裏腹の関係です。
世界経済が大変なことになると先送りばかりしていても、イザとなれば先送りした分だけ混乱が大きくなるばかりですから、早めに調整しておく方が混乱が少なくて済むのではないでしょうか?
経済力=支払能力以上に名目上ふくれあがった金融資産は超過分だけ実質的に劣化しているのに表面化を先送りしているだけであることを以前書きましたが、ここで再論します。
世界の総生産はそんなに増えていないのに、アメリカがドルと金交換停止以来アメリカ政府に限らず輸出競争に負けたり不況の度に財政出動の必要性という錦の御旗によって、どこの国でも紙幣をじゃぶじゃぶと発行して来たので、国内実物資産の増加以上に流通している紙幣→預金等の金融資産が無茶に増えていることが第一の原因です。
2011-11-25「投資用資金と消費資金」でも少し書きましたが、成熟社会では、歩道をより綺麗な石張りにする・図書館を斬新なデザインで建て替えるなどの公共工事が中心になって来て、この支出によって生産効率が上がる訳ではなく、むしろこれらの維持管理費が上昇することによって次世代を高コスト社会にして行く弊害の方が大きくなり間。す。
この辺は2011-11-25「投資用資金と消費資金」で書いたばかりです。
私は経済学の素人に過ぎず、おこがましいのですが、財政出動による解決を促すケインズ理論は成熟社会に合わないことを「国際競争力低下と内需拡大5」等で書いてきました。
ただし、ケインズは彼が戦時中から、戦後のポンド危機解消策・・IMF体制の前駆的議論において「為替は金とのリンクに関係なく、国際収支にリンクさせるべき=今の為替自由化を説いていたことは正しいなど、経済界の巨人ですし、私はすべて間違いと言っているのではありません。
・・あたかもニュートンの万有引力論は全面的に間違いではないが、妥当領域が限定される・・相対性理論の範囲で違っているのと同じです。
最近のニュートリノだったかの実験では、光を追い越して来る現象すら次々と報告されています。
理論は原則として正しいとしても学問の進歩によって、部分的に変わって行くのは当然です。
ケインズの投資理論については、まだ学者の批判論文を読んでいない、素人の思いつきでしかありませんが、成熟国では当てはまらなくなっているのは確かでしょう。

金融資産と資産表2

富士山やギリシャ神殿のような極端な話ではなくとも、普通の都市内にある官舎用地その他国有地の評価さえありません。
ニッポン列島全体評価がいくらになるのか誰も分ってません。
道路が未舗装だった明治の頃に比べて、殆ど舗装されていて、しかもあちこちに山をくりぬいてトンネルが出来て便利になっている今の道路の価値はいくらになるのかの評価基準も何もありません。
明治の港湾設備に比べてみれば明らかですが、今の港湾設備がいくらの評価になるのか誰も知りません。
千葉市のような新興地で言えば、人口急増に備えて学校用地や公園用地なども次々と手に入れて開発してきましたが、これが仮に公債で手当てしていると借金だけが増えて、対応する資産の増加は目に見えない関係です。
個人や企業・法人の場合は、お金が出て行く代わりに固定資産が増加して行く関係が明瞭ですが、公共団体にはこのような関係・経理処理がないので、逆に赤字傾向になったときにも公有地等の資産の切り売りをしたりやるべき補修工事を怠って支出を抑えていれば黒字になるなど全く不明・・不明瞭会計の温床にもなっています。
このように見て行くと、同じ額の金融資産しかない国同士でも、過去30〜40年間(公共資産は50年前後の耐用年数のあるものが多いので)にどれだけの固定資産投資をしているかを比較しないと本当の豊かさは分りません。
中国が単年度で日本のGDPを抜いたと言っても、インフラの蓄積がまるで違うことは誰の目にも明らかです。
富士山のように元々あるものは別としても、投資部分だけでも企業会計同様のバランスシート形式(減価償却計算も入れて)をとれば、現状よりは実態を反映し易くなります。
道路が穴ぼこになっていても橋が落ちそうになっていてもその補修支出を2年ほど先送りしておけば、今の会計方式では選挙向けに市長が昨年と今年は黒字に転換させたと実績をアッピール出来ます。
実際には、2年間も全く補修しない訳には行きませんので、年間補修費50億円計上するべきところを今年は30億円しか計上しないで、補修頻度を減少させて行くことになるのでしょう。
(5年に一回のところを6年に一回にするなどの先送りです・・一般の家庭で言えば、家のペンキ送りを1年伸ばしに先送りしているようなものです))
減価償却方式ですと、現職市長が補修をしないで放置していても一定の減価が発生していくので、誤摩化せません。
仮に50年消却の固定資産が50個あれば、毎年一個新設するのと同じ額だけマイナス評価になって行く計算ですから、毎年一個ずつ新規入れ替えして行くに足りる予算を組まねば、資産勘定がマイナスになって行きます。
前記の補修先送りの例同様に、校舎の建て替えなどを先送りしても、同じだけの評価が減る関係ですから先送りで誤摩化せなくなります。

金融資産と資産表1

個人で言えば、売却可能な不動産が1億円の価値があって、その他に金融資産が5000万円の場合、借入金が6000万円を超えてもまだトータル資産価値が黒字ですが、現預金勘定が手元で赤字だと心細くなる心理状況を無視出来ませんし、土地の場合、1000万円だけ不足すると言ってもその分だけうまく切り売り出来るものでは有りません。
個人金融資産のプラスマイナスで一般に論じているのは、一応の基準になっていることになります。
とは言え、金融資産・・手元流動性が手厚い方がイザというときに(緊急事態には)心強いというだけであって、時間をかけた国力や企業価値としては、トータル資産で見るべきです。
預貯金1億円あっても不動産等その他換金可能資産ゼロの人と、預貯金5000万円しかなくとも評価2億の換金可能な不動産・・たとえば時価4000万円の投資用マンション5室を持っている人とでは、どちらが豊かであるかは明らかですから、個人金融資産残高や対外純債権国か否かばかりを基準に金科玉条のように議論するのは本質を見誤ります。
対外純債権国とか債務国と言っても、10兆円の純債権国で対外鉱物権益など一切ない国と純債権額は5000億円しかないが、対外鉱物権益に20兆円以上保有している国とでは、どちらが実質的に豊かであるかの基準が逆転してきます。
対外純債務額が10兆円あっても、評価50兆円の対外権益を保有している国では実質黒字国と言うべきです。
(単純化すれば10兆円の借金をして購入した海外権益が大化けして50兆円に値上がりしている場合)
現預金や金融資産は直ぐに換金出来るので、機動力が有るのに対して権益その他の資産は直ぐに換金出来ないので、目先の取り付け騒ぎには間に合わないことから、手元流動性の多寡を議論するのも一理有るというだけで、長期的国力には直接関係がありません。
ただ、各国の保有権益のバランスシート作成が進んでいないので、統計の分り易い金融資産・企業で言えば手元流動性だけの統計で議論しているのが現状で、これは実際の経済実力は同じでは有りません。
国別の資産表作成の必要性については、08/19/08「中国・韓国株のトレンド2」以下で連載しました。
ただし、個人と組織の違いを言えば、鉱物権益や不動産そのものを個人保有することは今では滅多になく、これを株式会社で保有しているのが現実ですから、その保有資産は株式という個人の金融資産残高に還元されて来て表現出来ていることになります。
もしもそうとすれば、結局個人資産の大方は金融資産であるから、個人金融資産のプラスマイナス・・額の大きさを国力の評価基準にしても、それほどの間違いではないことになってきます。
以上の考えは法人と個人の合計を見るには適していますが、国の場合は国富を株式化していませんので、金融資産に還元されていないのでその価値・実態がまるで分っていません。
ギリシャ危機とは言うもののイザとなれば古代ギリシャの神殿(半径1kmメーターの土地を含めて)を売ればいくらになるのか、日本の富士山をいくらで売れるかの評価をした数字が有りません。

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