世界の警察官から軍事同盟へ(太平洋二分論の基礎)

江沢民は1年間に4回もの訪問で相応の手応えを感じたので、これをはっきりさせておくためにだめ押しとして公衆の場で真珠湾演説を行なったと見るべきでしょう。
本当に信用出来る内諾があれば秘密にしておくのが普通ですから、アメリカが世界中が見ている場で否定出来ないと言う程度・・逆の押しつけをしたと見るべきかも知れません。
習近平がオバマとの初会談時だったかに強引に「太平洋二分論」を提案してオバマが否定出来なかったこともワザワザ公表されています。
(首脳会談は綿密な事前擦り合わせがありますが・・仮に唐突な提案であったとすれば・・)初会談では突然のことで想定していなかったのでどう対応すべきか決断出来なかった・優柔不断と言えないこともありませんが、今夏中国で開催されたG20でも太平洋二分論が習近平によって繰り返されたことが報道されていますが、オバマはやはり否定しませんでした。
いずれにせよ習近平の太平洋二分論に対してオバマだけではなく、江沢民の真珠湾演説時の日本敵視発言をブッシュも明確に否定しなかった点が重要です。
アメリカ歴代大統領の対応を見ると、中国が仮に日本を攻撃したり南シナ海が封鎖されても、アメリカが日本の自助努力がどうのと言って直ぐに参戦せずに、ぐずぐずしている事態が容易に推測されます。
南シナ海封鎖が実行された場合に封鎖されたままで「話し合い解決で・・」と悠長なことを言っていると、日本は日増しに不利になります。
中国の軍事基地が出来上がる前に実力で阻止しないで放置しておいて、出来上がってから実力で取り壊すにはイラクのクエート侵攻後の第一次イラク戦争のように圧倒的兵力差がないと無理があります。
「話し合い解決を期待する」と言うのは、一方が実力行使していない段階では合理的ですが、一方が実力行使しているのにこれを原状回復させないままで話し合い解決を求めるのは「実力行使を受入れろ」と言うに等しい無責任な態度です。
日本の非武装論者と同じで、相手が実力行使した場合どうするかの議論が抜けていて・・強い者がスキなように出来るルールです。
最近のアメリカのやり方はすべからく・・ウクライナ侵攻〜クリミヤ併合も・・実力行使を阻止しないで実力行使の結果をそのまま認める・・現状追認しかない最近の行動を見れば、・・内々その程度のゴーサインを出していた可能性の方が高いと見るべきでしょう。
これが今のオバマの優柔不断と批判されている裏事情です。
中国による南シナ海封鎖が実行された場合、日本が高額負担している日本駐留米軍が何か役に立つのでしょうか?
役に立つとすれば、今までの航行自由作戦のように時々行く程度でなく、アメリカ海軍がその海域に常駐して日本向け船舶を守ってくれるほどのことをしてくれないとどうにもなりません。
ただし、過去の同盟関係を見ても、(長篠の合戦でも信長の援軍が来るまで守り抜いたように日露戦争時の日英同盟も皆そうです)応援軍が来るまで一定期間自力で守り抜くのが現地軍(砦)の勤めでしたから、「ある程度自力で守って下さい」と言うアメリカの主張はあながち無茶な主張でありません。
実力行使阻止のためにアメリカ軍が介入するには時間がかかるので、その間くらいは自力で守る必要がある・・これが自衛軍の必要性論です。
このシステムがあると、空き巣狙いのような戦争開始の誘惑を阻止出来ますが、非武装論は短期間でも自衛の必要がないと言う意見になります。
初戦だけではなく、応援軍が到着してからでも応援を頼んだ軍が危険を顧みずに真っ先に戦う気持ち・・危ない戦闘を応援軍に頼りきりですと、応援部隊はイヤになってしまいます。
南シナ海封鎖の場合、アメリカに全面依頼するだけではなく当然日本海軍もアメリカ軍との共同作戦に従事する気構えが必要です。
ただしこれまでの自衛の定義では、船舶航路の妨害排除は含まれ難いような印象ですからこの辺・・自衛の範囲に関する法整備が必要です。
昨年制定したいわゆる安保法でもこの辺の出動要件がはっきりしない感じです。
全部を読んでいないので断定出来ませんが、「周辺事態」と言ってもこれまでの議論では米軍に対する援護論であって、自衛隊が先に出動する必要がある場合の要件が分りません。
アメリカが「世界の警察官をやれない」と言う意味は、アメリカが圧倒的経済力・軍事力を背景に現地常駐し,米軍が出ると周辺が従うしかなかったのでこれが普通のように期待していただけであって、これが出来なくなっただけです。
世界の警察官と軍事同盟の違い・・警察の場合、市民は丸ごと治安をお任せ・・丸腰ですが、軍事同盟の場合、同盟国間で力の強弱があるとしても、応援を頼まれてから駆けつける・・一定程度までは自力で守るのが原則です。
ニクソンショック以降アメリカの基礎体力が落ちる一方ですから、具体的な応援要請もないのに日常的に警察官役を果たすのは無理が出て来たことは確かです。
まして同盟国に自国軍を常駐させて日常的に守ってやるほどのコストを負担する関係ではありません。
アメリカでは◯◯違反と言っては、毎年のように欧州企業から何兆円規模の懲罰→和解金をとっていてこれが欧州の不満のタネになっていますが、(いま話題になっているのはドイツ銀行に対する懲罰金の巨大さです)これでは財政難に苦しんでいた徳川幕府が時々豪商を取りつぶしていたのと同じやり方です。
これを繰り返し発動するしかないこと自体に、アメリカのジリ貧・・資金不足・・政権(国際的発言力)末期到来を表しています。
この数年タクスヘイブンが大テーマになっているのも、全てアメリカの資金不足に由来しています。
上記のとおりアメリカは今後警察官役を無償で果たせないが、同盟関係(相互関係ならば)はまだやりますと言う段階です。
これが相互防衛条約=集団自衛権が必要になって来た我が国の事情です。
※ただし日本の場合「アメリカが非武装を強制してその代わりアメリカが守ると言う約束です」からこの辺が他国とは条件が違います・・念のため・・。
平和憲法の根幹は、市民と警察のような関係・・アメリカ軍が駐屯して日常的に平和を守ってくれることが前提・・「警察が犯罪を制圧する前提であって、国民が自力で警察官が来るまで強盗犯と渡り合う関係」ではありません。
アメリカが世界の「警察官役をやめて普通の軍事同盟関係に戻る」と言えても、日本に対しては、平和憲法を強制した以上・・あるいは核武装を禁止している以上は核の脅威から守る義務がありますから丁寧な擦り合わせが必要でしょう。
「核の脅威から守らない・・自力で守れ」と言いながら、核兵器所持を禁止・・核不拡散条約遵守を求めるのは矛盾してしまいます。

世界ルールの必要性1

国内外で警察・・秩序維持が必要と言うことはネット空間利用のルールや知財剽窃やサイバーテロ行為等に関するルール造り・処罰の方法・裁判手続の合意が前提として必要となります。
その意味では中国外しかどうかは別にしてこれから必要な知財等紛争処理のルール(裁判手続まで)を決めたTPP合意成立は(批准出来るかどうかは別として)重要な一里塚になったでしょう。
高度な貿易・資本自由化や知財処理手続の合意では、中国にはレベルが高過ぎる(まだ完全自由化には無理がある)から中国には参加不可能→中国外しのシステム構築と言われています。
もっと自由に泥棒を続けたい者がその取締対策会議に参加してそれを守る約束をするのはイヤ・・意味がないのは当然です。
元々中国のレベルがまだ低過ぎてTPPレベルの規制は意味がないことは、承知の上でTPP交渉が始まっていました。
例えば東大の合格ラインを5点引き上げてもっと高度な大学を作ろうと言う場合、もともと4〜5流の私立大にも合格出来そうもない受験生には関係がないのと同じです。
TPPが成立すると、資本自由化の徹底その他知財等の高度なルールを守る気のない中国が除け者・・国際社会の落第生のイメージが明からさまになってメンツ丸つぶれになるので、TPPの成立をいやがっている中国を気にして韓国は不参加を表明していたのは当然と言えば当然です。
オバマの「世界の警察官をやれない」と言う意味は、国内だけルールがあれば良い、対外関係は弱肉強食で勝った方が相手を支配し奴隷化しても良いと言う西欧近代のやって来たルールに戻すべきと言うのでしょうか?
しかし、今やアメリカ企業も海外取り引きをしないで引きこもり・自国市場だけではやって行けません。
海外取引に際して相手のルール違反行為、あるいは海外からのサイバー攻撃で企業秘密を盗む勢力に対して国外の犯罪は関係ないと言い切れる時代ではありません。
モンロー主義時代のように太平洋や大西洋を隔てた遠くの大陸と言う特別な関係はありません。
結局は自国・アメリカ企業を守るためにも,1国主義は無理・・国際ルール造り・その裁定基盤(司法機関設置)が不可欠です。
国際ルールを作る以上は、これを守るようにする仕組みが欠かせません。
TPPが発効すると知財や資本規制関係の損害賠償事件はアメリカの裁判所に握られてしまうと言う反対論が多いですが、ルールを作る以上司法基盤のそろっているどこかで裁判して決着付けるしかない(・・今もいろんな国際司法決着はスイスやオランダなど欧州に集中しているのは基盤が充実しているからです)のは当然です。
この決着ルールがないから、アメリカが(国際合意手続を経ない)国内法を作って(・・最近では、対日関係では、不公正為替操作指定国認定の脅しが始まっています)イラクなど気に入らない国を指定して資金凍結したりするしかない・・乱暴なやり方になっている・・他方で中国の場合いくら違法行為をしていても相手が大き過ぎて全面資金凍結などの制裁を中国には出来ない・・中国がやりたい放題になっているのです。
TPP発効で個別案件ごとに賠償請求して行く・・これのやり方をデュープロセス・・国際合意に乗せるのは良いことです・・アメリカも独善的と言う国際批判に対する緩和材料になります。
警察官をやれないと言う意味は軍事力と切り離した警察力・司法機関不要までは意味しないし、警察や裁判制度維持資金を一人で出せないと言う程度の意味でしかありません。
アメリカは軍事力を背景にある程度強引なことをやって来たのですが、実はこう言うやり方は総合収支で見ると損をしているのが普通です。
だからこそ資金力のある期間(小さな同業組合の場合事務局を自企業の事務所で無償運営するなど)しか、昔からヘゲモニーを握れません。
いろんな同業組織の会長企業も、情報が早く入るなど少しは良い面もありますがトータルでは事務局負担など持ち出しが普通です。
ムラの有力者もお祭りで良い席に座れるものの、それ以上に多くの寄付をしたり会合場所を貸したりするのが普通です。
あるいは有力者が1つの方向を決めて組織を引っ張って行こうとする場合、先ず自ら(損な役回りを引き受けて)率先実行するしかないのが普通です。
日本で言えば、大平総理の急死の後を受けて鈴木善幸氏が総理になったとトキに、国鉄の赤字累積の解決が大騒ぎになっていて赤字の元凶である過疎地路線の切り離しが対症療法として俎上に登っていました。
鈴木善幸氏が自分の地盤である三陸鉄道だったか民営化・第三セクター化を率先して引き受けたことがあります。
蜥蜴のしっぽ切りでは間に合わないことから、次の中曽根総理のときに国鉄本体の民営化が断行されたのですが・・。
日本では世話役が先ず損な役割引き受けられるほどの度量と言うか力・(不利な役割を引き受けても地元が文句を言わない程度の信頼力)余裕を持っていないと前に進みません。
幕末会津藩も、幕末に京へ2000人規模の兵を進駐していたのですからもの凄い財政負担でしたが、それでも領民が一揆を起こさない信頼関係があったことが重要です。
佐倉藩堀田家は代々老中を出す家柄であった関係で田沼時代などに印旛沼干拓など幕府・公共事業を次々と引っ張り出すことに成功しています・・どれも洪水などで失敗に終わりましたが・・他方で佐倉宗吾郎の一揆事件が起きたのは、代々幕府役職に就くことによる自己負担が大き過ぎた割に・・領地替えがあったなどで地盤培養関係が弱かったことに遠因があります。
中国は自分がAIIBで主役を張りながら、自分の持ち出し以上に我田引水しようとするから無理があるのです。
トランプ氏の選挙スローガンは出すものを出さないで自分の言い分だけ通したいと言う子供のような主張・・こう言う主張は大衆受けし易いのは確かかも知れません。
資金分担が減って行けばそれに比例して発言力が下がりますから、それで良いかの覚悟がいるでしょう。
覚悟があろうとなかろうと金ドル交換停止のニクソンショック以降のアメリカは客観的に何でも気前よく自己資金を出せる状態でなくなっていることは確かです。
その意味では、トランプ氏が【現実を見よ!」と国民にその覚悟を問うているのかも知れません。
巨大な軍事力も、借金ではないけれども防衛してやると言う名目で?駐留先に一定の負担をさせて自国経済力で維持出来る以上の軍事力を維持出来て来た点では根本が同じです。
25年も前の湾岸戦争で日本が巨額出資を求められたように、アメリカは国際紛争解決のための資金(軍事力だけではなく警察・裁判システム維持)を自分だけで出し切れなくなって来ていることは確かです。
以下6月18日現在のウイキペデイアの「湾岸戦争」の記事からの引用です。
「湾岸戦争(わんがんせんそう、アラビア語: حرب الخليج الثانية‎)は、1990年8月2日にイラクのクウェート侵攻をきっかけに、国際連合が多国籍軍(連合軍)の派遣を決定し、1991年1月17日にイラクを空爆して始まった戦争である。
アメリカ合衆国議会の計算によると、アメリカ合衆国はこの戦争に611億ドルを費やした[42]。その内約520億ドルは他の諸国より支払われ、クウェート、サウジアラビアを含むペルシア湾岸諸国が360億ドル、日本が130億ドル(紛争周辺3か国に対する20億ドルの経済援助を含む)[43]、ドイツが70億ドルを支払った。サウジアラビアの出資のうち25%は、食糧や輸送といった軍へ用務という形で物納により支払われた[42] 。多国籍軍のうちアメリカ軍部隊はその74%を占め、包括的な出費はより大きくなされた。日本の戦費供出も、当時の自国防衛予算の約3割にあたる多額の支出が行われた。」

通常戦力増強2(警察官役1)

武力の強大さに乗じて盗賊・山賊・海賊国家に世界の警察官を自負されても、世界が困るでしょう。
民主国家に限らず統治機構が確立した社会においては、警察官は、国会や(専制君主のように恣意的であろうとも)最高権力者によって決められた法を執行するのみであって、正義の判断基準を示す余地がありません。
国際社会においては正義を決める世界の最上級組織が充分に機能していないために、武力の強弱が世界の正義を決める基準になり勝ちです。
これを法的に承認しているのが、安保常任理事国の拒否権です。
この結果、世界の警察官とは、決まった正義の実行機関ではなく最強武力ないし世界大戦に持ち込める程度の強国=常任理事国の価値判断による、強制力行使を意味することが多くなります。
知財剽窃に始まりその他各種犯罪輸出・各種新型ウイルス病原菌の発生地→輸出国・不衛生の巣窟のように世界中から見られていて、衛生を含めた世界秩序破壊の親玉のような国である中国でも、武力さえ最強になれば世界の警察官・価値を強制出来る国になる資格があるのでしょうか?
今のところ最強ではないので、中国が世界の警察官役をやりたいと言えば世界中から噴飯もの扱いされるので黙っているのでしょうが、最強になれば警察官役ではなく、独裁者として振る舞いたいでしょう。
世界秩序は武力次第とは言え、比較強国程度では、世界の警察官役となるには、いろんな分野で指導的立場にならないと何を守って何を守らないかの基準が出来ません。
専制君主制とは,道徳的価値の優越によるのではなく君主の専制制=恣意制による無原則なものであったことを繰り返し書いてきましたが、中国は未だにこの基準での世界独裁者の地位を目指しているように見えます。
ある国が世界のいろんな分野で秩序形成能力がなく、その裏で秩序に反してウイルスを蔓延さえ、ハッカーしたりして盗み取ることばかりしか出来ない状態で、警察官役をやろうとしても世界中が従わないでしょうから無理です。
シリア問題でアメリカの指導力が劣化したのは、(軍事力の基礎となる経済力の劣化もありますが・・これまで書いているように)マスコミ支配による国内・世界世論誘導が出来なくなったことが直接の原因ですが、このことは武力だけではなく、世論形成が重要であることが分ります。
今回のシリアの化学兵器の管理や検証については、手が汚れている米英仏やロシアではなく、信用力のある日独にお鉢が回ってきそうな雰囲気があるのは、現在でも武力だけではなく世界秩序も一定の信用で成り立っていることが分ります。
中国はまだ山賊・海賊的恫喝で世界的発言力を持っているだけですから、世界の信用を得るのには恫喝/武力頼み・・わが国に対してはレアアース禁輸や反日暴動での脅し、フィリッピンに対する輸入制裁・係争地の武力占領など力づくばかりです。
今のところ世界の参考になるような分野が殆どなくて生活水準が低いのでもっと上昇余力があると言う点で有望・・しかも人口が多いので消費量が多い・・市場価値があることだけを取り柄に、輸入制限で恫喝したりして威張っているだけです。
生活レベルが低い・・低賃金が取り柄ではなく、各産業分野・生活行動分野での指導的地位に就けない限り、世界の指導者になるのは無理でしょう。
秩序破壊者は次の時代の新たな秩序構築者にもなり得るのですが、生活水準の低さを売り物にしている限り・・結果的に不潔過ぎて新型インフルなどの発生地になったりする程度ですから、(この分野で世界先端社会であると言えますが・・)正義の裏づけのない権力では山賊がムラを占拠して恐怖支配しているようなものにしかなりません。
世界の警察官を目指さないならば、今のところ何のために遠征用の大艦隊や空母を必死になって装備し、これを世界に誇示しているのかが問われます。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC