10/23/03

公務員の政治的中立(国家公務員法と地方公務員法)(憲法43)

公務員は、政治が決めた政策を実行するのが、本来の役目です。
以上の名目から、公務員には、政治的中立が必要であるとして、法律上も中立が求められています。
国家公務員法と地方公務員法を紹介しておきましょう。

国家公務員法(政治的中立)
第102条 職員は、政党又は政治目的のために、寄付金その他の利益を求め、若くは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
2 職員は、公選による公職の候補者となることができない。
3 職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない。

地方公務員法
(政治的行為の制限)
第36条 職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。
2 職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、左に掲げる政治的行為をしてはならない。但し、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第252条の19第1項の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第1号から第3号まで及び第5号に掲げる政治的行為をすることができる。
1.公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。
2.署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。
3.寄附金その他の金品の募集に関与すること。
4.文書又は図画を地方公共団体の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
5.前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為
3 何人も前2項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前2項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。
4 職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。
5 本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。」

このように公務員は、法律上の中立が求められていますが、中立とは即ち政治活動の禁止ですから、公務員がとめどもなく増えてくると、政治活動を出来ない人口が、国民のかなりの部分を占めることになります。
もしも国民の過半数に達するほどになったら、過半数に政治行動が許されない国が民主国家とはいえないでしょう。
ちなみに国家公務員の一般職非現業だけで現在54万人余りもいますし、これに現業即ち郵便局員や農林などを加えると、如何に膨大な数が、政治活動禁止即ち現状支持者として組み込まれているかが、わかるでしょう。
これに327万人と言われる地方公務員も加えると、有権者の何割が公務員なの?というくらいです。
その他に公団や公社等々の政府系団体職員の数も加えると、数え切れないほどに上るのですから、この膨大な数の働き盛りの人々から政治的自由を奪っていることになります。
ついでに、今評判の道路公団法を紹介しておきましょうか?

道路公団法
(役員及び職員の公務員たる性質)
第18条 役員及び職員は、刑法(明治40年法律第45号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。

その他の団体法は、煩雑ですので、一々紹介しませんが、こうして公団職員でも、公務員とみなされて政治運動をすると処罰されるかも?
話がずれますが、藤井総裁が守秘義務を問題にして、汚職政治家の実名公表してよいかどうかを石原大臣に公開質問しているのは、この規定があるからですよ。
政治的発言をしてはいけないと言うのは、現状追認即ち消極的支持の強制となりますので、結果的に与党の政策支持を強制するものであって、野党に不利なシステムとなります。
公務員は、1人の人間として参政権も有れば、自分の政治的意見をいうことも自由であるべきです。
「公務」は、相手によって、運用を変えてはいけないという意味で中立であるべきですが、「公務員」と言う人間の政治活動・参政権を勤務時間外まで24時間縛るのは、憲法違反ではないでしょうか?
こうして労働組合に近づくのは禁止しておきながら、(郵便局員が、勤務時間外に共産党のビラ張りをしても、検挙されてますよ)他方で、官僚・国家公務員が、勤務時間中に各種政策を事実上立案し、与党に働きかけてその成立を期するのは日常茶飯事です。
「特定政党の発表した政策を支持して、その実現のため、働きかけ運動をするのは法律違反でも、自分が考えて特定政党に支持してもらうのは、違反ではない」と言う論理は、実質的にみておかしなものです。
もちろん彼ら公務員直接の意見としてでなく、内閣の意見として表に出てくるのですから、内閣の指示に従って行動するのは、当たり前だと言う形式論があるでしょう。
でも実際は、公務員が役所の立場で独自に考えたものもあれば、与党議員が持ち込んだ意見をすり合わせて、役所の法案と成っているものが殆どですから、内閣と言っても猿回しのサルみたいな役割でしかありません。
こうして高級官僚、ないし一般職の人は、下層公務員には政治的中立を求めながら、自分達は、事実上政策決定権まで握っているのです。
前回のコラムで書いたように、産業振興のために電気自動車に補助金を出すなどの政策提案(役人の発案でも政治家の発案にしているのが普通です。)が、政治家からされることがありますが、政治家の活動の殆どは箇所付けの申し入れになっています。
数から言っても、補助金の創設がしょっちゅう有るものではないのに対し、(それだけに大物政治家の名前で提案することになります)一旦老人ホームに補助金を出すとなると、その箇所付けは何倍もあるのですから、陣笠議員でも自分で動けるのです。
単なる陳情のプロと言うだけでは、大したことがないのですが、法案の賛否権をもっているところが代議士や地方議員の強みです。
この継続的協力代議士が「族議員」と言うもので、その見返りに工事課所などの箇所付けに、便宜を図ってもらう構図が出来てきました。
大手企業の下請け協力会のようなものと、思えばいいでしょう。
族議員は、自分の政策実現としての補助金の創設を働きかける場合は、何年に一回もないでしょうから、日常的な仕事としては、選挙民への利益誘導の為に補助金、工事課所の箇所付けに協力してもらう地盤培養行為が中心になります。
こういう構図では、究極の権力の源泉(政治家の命綱)は、公務員による箇所付け次第ですから、(あの先生のお陰で橋が出来た・・)公務員の権限は事実上の最高権力者となります。
地方自治体や個人を貧しくして補助金や、公共工事に頼る政治の仕組みのままでは、与党、しかも族議員以外は、蚊帳の外になりますので、天下国家を論じる見識のある論客は、与党でも当選が難しくなります。
将来有望株と言われていた橋本派の中堅代議士でも、一皮向けば、目をそむけたくなるような行動をしていた族議員だったということになるのです。
これでは、半永久的に政権交代が出来ないばかりか、与党自体も変な人材ばかりで駄目になってしまいます。




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