06/03/03
判例形成の実際と役割 1
ここで判例変更の実際を説明しますと、裁判所は訴えがなければ、判決を言い渡せません。
これを民事では処分権主義、刑事では、不告不理の原則と言います。
この原理については、平成14年10月9日のコラムで「裁判の仕組み 7(不告不理の原則)」説明していますので、併せてお読み下さい。
学説で長い間批判されて、これに対する有力な反論もなく、事実上通用するルールが変わってしまっている場合、実務上どの弁護士も争いません。
例えば遺族慰謝料を含めて請求しているからと言って、被告側の弁護士は、「これは1身専属権である。
そして被害者は、発見された時は既に死亡していたから、残念と言う言葉を誰も聞いているはずがない。
従って遺族は請求出来ない」と言う主張は、とてもとおらないと思うので、被告側の弁護士は争わないで、単に、慰謝料の金額を争うだけで進んで行くものなのです。
これが普通の事件処理ですので、何十年前のおかしな判例が事実上誰も変更出来ないで残って行く事になるのです。
判例変更には2種類あって、この例のようにだれも疑いがない程新しい考えが定着している場合、負ける為の裁判をしたくないのは人情ですから、余程勇気の有る人か、全く学説の推移を勉強しない人かでないと、(これは法律家ではあり得ません)最高裁まで争って行きません。
そこで、判例変更だけを目的に、負けるのを承知で、恥を覚悟で手間ひま掛けてやる勇気のある人が、実行して始めて判例変更になります。
こういう場合は、負ける判決を得た弁護士が立派?!と言う事になるでしょう。
勝った方の弁護士は、相手が争ってくる以上はただ受けて立っているだけで勝てるのですから、勝訴判決を勝ち取ったと言っても特に立派と言う事にはならないでしょう。
これと似た事で、暴利行為で無効の判例が昭和40年代に次々と出ましたが、(これによって仮登記担保法が制定されました。)こういう事件は殆ど弱い側の弁護士(暴利をとった側)が和解を求めて来る事が多く、100%近くは和解で終わりますので判例になり難いのです。
暴利金融であれ暴力団であれ、弁護士が付いた以上は、その弁護士は我々と同じ価値観で動いておりますので、どこまで以上は取り過ぎかどうかの意見は大体一致するものなのです。
我々弁護士は判例の為でなく依頼者の為に裁判するのですから、相手の弁護士からこちらの要求どおり返してくれると言うのに、敢えて蹴飛ばして、最高裁まで何年も裁判していられません。
依頼者は、社会正義実現もいいが、同じ金額になるならば、早くお金が欲しいものです。
弁護士は、依頼者の気持ちを無視して、あくまで何年掛けても最高裁判例が欲しいのだ頑張るのは難しいのです。
そこで、この分野も事例判例が少なくなっています。
慰藉料なども99%と言って良い程和解で終わりますので、判例は氷山の一角と言うところでしょうか。
相談者から「判例はどうなっているか」と言う質問を受ける事が有りますが、以上のとおりで、判例になる以前に、実務の集積に基づいて和解や交渉をしていますので、それを知らないと実務が出来ないのです。
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