03/30/04

沽券から地券へ2 (不動産登記法4・・・権利証)(公証の時代)

その後、民法典論争(06/04/03「民法制定当時の事情(民法典論争1)」以下のコラムで紹介しました)を経て、明治29年4月29日公布法律第89号/明治31年7月16日施行の(現行)民法によって、意思主義が導入されました。
意思主義と言うのは、一定の形式を踏まずに、意思表示だけで、法律効果が発生すると言う原則を表す法律用語です。
意思主義だけを、取り出して説明しても分かりにくいので、追々関係箇所で説明していくようにしましょう。
意思表示だけで、何の外形もなくとも(引渡や書類)所有権が移転していると言われると、ある土地は誰のものか分らなくなります。
これに対しては、登記制度を完備することによって、公証(登記簿を見れば分るでしょうと言うことです)することになったのです。
明治の法制度の特徴は、公証制度の普及とも言えます。
戸籍制度もその一種です。
親族関係も戸籍簿を見れば直ぐ分ります。
中央集権国家と言うものは、何の証明でも国家が御墨付きを与える制度になるようです。
料理ができるかどうかまで調理師の免状(これは県かな?)を発行するのですから、たいした時代ですよ。
何とか流免許皆伝なんか消し飛んでしまいました。
もちろん人の脳みそも、帝国大卒の博士かどうかは学歴で証明すると言うわけです。
いくら頭がいいと言っても、学歴がなければ世間で相手にしてくれませんし、医術に優れていると言っても医学部を出ないと信用してくれないどころか、勝手に診療すると法律違反で処罰されてしまいます。
こうして登記制度が完備すると、不動産の所有権を証明するのには、証文は不要になります。
しかし、我が国では、800年にも亘って、証文に頼ってきましたので、何もないと、いくら「お上が証明してやるから」と言われても物足りないものです。
そこで、みなさん御存じの権利証と言うものが発達したのです。
権利証とは言うものの、何らの証券性も証券的機能もありません。
スーパーの返品手続きに領収書を持っていけば、手続きが簡単なのと同じで、登記申請の受付受理証でしかないのです。
まあ、これを持っている人が、その登記の申請人すなわち登記名義人であろうと少し信用してくれる程度の効力しかありません。
それでも良いからと、この受付証明に対して、「登記済み権利証」と言う題名をつけて有り難がっています。
本来登記申請者が名義人本人であるかどうかについて、受理証を持っているかどうかは、多様な証明手段の一つでしかないのですから、証券ではありませ。
そうは言っても、国民感情を無視できませんので、登記法では所有権移転登記手続きをするには、権利証と印鑑証明書の添付を義務付けています。
これで何となく、有り難いものになった感じです。
その代わり、本来の機能は、その程度でしかないのですから権利証をなくしたからと言っても、どうってことはありません。
証人2人で人違いでない証明書を提出すれば良いことになっています。
不動産登記法を紹介しましょう。
第35条 登記ヲ申請スルニハ左ノ書面ヲ提出スルコトヲ要ス
1.申請書
2.登記原因ヲ証スル書面
3.登記義務者ノ権利ニ関スル登記済証
4.登記原因ニ付キ第三者ノ許可、同意又ハ承諾ヲ要スルトキハ之ヲ証スル書面
5.代理人ニ依リテ登記ヲ申請スルトキハ其権限ヲ証スル書面2 登記原因ヲ証スル書面カ執行力アル判決ナルトキハ前項第3号及ヒ第4号ニ掲ケタル書面ヲ提出スルコトヲ要セス
3 官庁ノ所管ニ属スル不動産ニ関スル権利ニ付キ登記ヲ嘱託スル場合ニ於テ命令又ハ規則ヲ以テ指定セラレタル官庁又ハ公署ノ職員ハ第1項第5号ニ掲ケタル書面ヲ提出スルコトヲ要セス
第44条 
登記義務者ノ権利ニ関スル登記済証カ滅失シタルトキハ申請書ニ登記ヲ受ケタル成年者2人以上カ登記義務者ノ人違ナキコトヲ保証シタル書面2通ヲ添附スルコトヲ要ス
此場合ニ於テ保証ヲ為ス者ガ他ノ登記所ニ於テ登記ヲ受ケタル者ナルトキハ其登記簿ノ謄本ヲモ添附スルコトヲ要ス
第44条ノ2 
前条ノ規定ニ依ル書面ヲ提出シテ所有権ニ関スル登記ノ申請アリタル場合ニ於テハ第49条第1号乃至第9号ノ規定ニ依リ却下スベキトキヲ除ク外登記官ハ其旨ヲ郵便又ハ民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項ニ規定スル一般信書便事業者若クハ同条第9項ニ規定スル特定信書便事業者ニ依ル同条第2項ニ規定スル信書便ヲ以テ登記義務者ニ通知スルコトヲ要ス
権利証を預けたが返してくれないので、取りかえす手続きをして欲しいと言う依頼が、たまにありますが、上記のとおりで、今や、権利証と言うのはそれ自体では証券価値がないのですから、そんな裁判をするメリットは何もないのです。
沽券から現在の登記法の話になってしまいましたが、沽券から、地券になり、権利証になってきた歴史がお分かりいただけたでしょう。
現在の人々が権利証にこだわる心理は、多分800年にわたる沽券時代の名残りでしょう。




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