03/01/04

足高の制4と新井白石の正徳の治(家禄・家臣団の不要性)

ところで、評議が軍議と呼ばれていた時代には、(言葉ってどんどん変わって行きますね)発案者の意見が採用されると、発案者がその実行を命じられる名誉を与えられるのが慣習でした。
三国志で有名な赤壁の戦いにおいて、火計を発案した黄蓋や、長篠の合戦で奇襲作戦を提案した酒井忠次など皆その栄誉を担っています。
このためには、発言相応の家録を有し、実行を担保する家臣団が必要でしたが、天下が統一され文治政治に移った後は、評議で決まった事柄を実行させるのは別の機関の仕事になったのです。
戦国時代のように、自分の部下を引き連れて出陣するような仕事はなくなっていたのですから、公務員である旗本が自分で多数の家臣を維持している必要性はなくなっていました。
以上の視点から言えることは、領国経営をしなければならない大名には、そのための人員(地方公務員)が必要ですが、旗本または大名家の家臣に関しては、家禄=家来の数を基準とする政治・人材登用の必要がなくなっていたのです。
02/10/04「参勤交代制度の功罪」のコラムでも説明しましたが、幕府は賢明にも、譜代か外様かの区別ではなく、領国経営のある大名とこれのない旗本、家臣団とを区別して定府義務を決めていたのです。
6代将軍家宣は、身一つ(浪人でしたから家禄ゼロです)の新井白石の抜擢でうまく行ってたのですから、前政権はこれを実際に証明していたのです。
これを引き継いだ吉宗は、更に(僅かに)一歩前進して家禄・家格制度こそ少しづつでも改革の対象にするべきだったのです。
こうしたことは、後からみて言えることで、私が偉そうに言う立場では有りませんが、歴史上吉宗の改革とは言うものの、実は時代錯誤または、歴史の歯車を元に戻そうとしたものではなかったか?と言うのが私の関心です。
幕政は綱吉以来武断政治から文治政治へ大きく舵が切られていたものですが、吉宗の思想的立場は、尊敬する家康時代に戻すとして「武」を重んじたことでも知られています。
要するに時代逆行政治だったのです。
しかし、ドン・キ・ホーテみたいに、馬術や剣術を重視してみたところで、時代が変わっているのですから、その武術者らが幕府内でする仕事はありません。
現在のスポーツ選手と同じで、オリンピックで高橋尚子さんが金メダルを取ったからといって、その会社の経営参画権を与えられないのと同じです。
その名声で個人道場が流行る程度でしかないのですから、人材登用としては何の価値もない政策でした。(ただしその政治的意義については次回以降に書きます。)
吉宗は能力主義の政治を行ったと言われますが、前政権では身分が低いどころか浪人者の新井白石のような人物(浪人前に何千石も取っていたものでも有りません。)を採用していますし、その前からずっと似たことは行われていたのです。
ただ、採用するとそれに連れて家禄の加増をしていたのですが、一旦加増すると、世襲権的になってしまいます。
ただし、これもそう言われているだけで、前回のコラムで紹介したように、堀田家なども大老でなくなると、家禄の削減が行われていますし、後の田沼意次なども失脚後は削減されていますので、それ程窮屈なものではなかったのです。
本来の家禄は、1世代ごとの奉公忠義の確認で安堵を受けるものでしたが、その期待権が既得みたいになっていたに過ぎないことを、01/19/04「江戸時代の婚姻と相続制度 1」以下のコラムで説明しました。
これまでも出世に応じて加増されるのが普通でしたから、足し高の制は、足すことに新しい意味があったのではなく、身分の低い武士に対しての加増は、職務給(職から離れたらなくなる)であることを明確にした点が、従来と違うと言えるでしょう。
要するに吉宗の関心は理念や時代の進展にあったのではなく、幕府財政の建て直しに最大の関心があって、「先祖伝来の家禄は減らせないとしても、職務に応じて加増した分だけでも減らしたい」と言う点にあっただけではないでしょうか?
ま、簡単に取り返せるならば、簡単に足し高・加増もできるわけで、結果的に人材登用がしやすくはなったでしょう。
いずれにせよ、新井白石の登用によって、職務と家禄は関係ない時代の到来が証明されていたのですから、それを継いだ吉宗は、家禄制度の縮小に踏み出すべきときに、逆のことをしたとことは間違いがないでしょう。
家禄を足してしまうのですから、家格、家禄制の矛盾を彌縫する策・反改革だったとすら言えるかも知れません。


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