02/09/04
江戸時代の相続制度 9(明治民法の時代錯誤性)
徳川初期の相続の再論です。
駿河大納言と家光の揉め事も、「家光が将軍位を継ぐならば、自分は、徳川の領土の半分に匹敵する大阪やその他の大きな領地を貰う権利がある」(徳川家の本拠地である駿河を相続するだけでは不足)という不満から始まった遺産分割の争いに原因を発しているとも言われています。
単独相続が定着した後世になれば、駿河大納言忠長が無茶を言っているみたいに言われますが、そのころはまだそういう時代だったのです。
前回紹介の池田家なども、ほぼ等分に領地を分割していますよ。
少し詳しく紹介しますと、姫路城を築いた池田家はその後備前の池田家とほうき因幡の池田家に分かれますが、それぞれ31万5000石と32万石というほぼ真っ二つの分配です。
家禄以外の遺産は、将軍家でさえ子供にほぼ平等分配していたことは前回のコラムで紹介しました。
また家康の次男結城(松平)秀康(越前で68万石)の子孫も、長男の忠直1人が相続したのではなく、松江藩やその他の藩を起こして、一家で一時100万石を超えたと言われます。
それが新領地獲得(徳川家に限っては、初期のころは、改易・減封の大乱発でしたから、幾らでも領地が増えて、子供に分配できたのですが、これもそのうちなくなりました。)や新田開発がとまったことから、武士や農民では、単独相続に移行したに過ぎないのです。
江戸時代の相続制度は、分散できない性質の家禄・知行を中心とする法定単独相続ですから、それなりの合理性があったのです。
明治政府は、このようにやむを得ず単独相続していた由来を無視して、武士以外のすべての国民に対し、しかも分割可能なすべての遺産(家禄制度はなくなっていたと言うのに!)について、やむを得ないかどうかに拘わらず長男単独相続を法定してしまったのですから、実態を無視した悪法だったと言えるでしょう。
明治政府の施策は、結構観念的なものが多かったのです。
平成15年5月28日の明治の思想・男尊女卑の思想1のコラム以下で、人口の5%前後しかいなかった武士の道徳・慣習を国民一般に強制した問題点を連載しました。
そして、現在では、遺言がマスコミによって奨励されていますけれども、明治以降国民全般に強制されるようになった法定相続を基本としたままです。
戦後の民法改正と言っても、その割合を変えただけで、法定相続が原則で遺言が例外とされているのです。
現在はせっかく遺言しても、法定相続分を完全には無視できず、遺留分権行使によって法定相続の精神で原則として半分まで修正されてしまうのです。
遺留分制度については、平成15年3月10日の「遺留分1」のコラム以降で連載していますので参考にしてください。
江戸時代でも、庶民は古来どおり遺言が原則であり、100%有効だったのとは大きな違いですから、現在の相続制度は江戸時代よりも、国民の遺産処分の自由を束縛したままとなっていることになります。
ある制度が、ほんの少し続くと大昔からあるもののように誤解しやすい例は、幾らもあります。
鎖国制度は、徳川家が天皇家に相談せずに、勝手に決めた家光以降のことでしかないのに、幕末の志士や孝明天皇が、古来からのものと思い違いして、天皇家の勅許を得ないで日米和親条約締結・開国を決めたのは、けしからん・古来の方針に反するとして憤激していたのもその例です。
現在で言えば、終身雇用制度を日本古来の美風の様に思う人がいますが、これは戦後の高度成長期に各種社会条件のもとで根付いただけのことでした。
パン食に反対して、「むかしから豊葦原瑞穂の国と言って、日本人はお米を食べないと・・・・・。」という議論も繰り返されました。
しかし、一握りの上流階級は別として、日本人殆どにお米が行き渡ったのは、食糧難の戦時中の配給制度のお陰だったと、知る人は少ないでしょう。
それまでは、殆どの国民にとっては、ハレのときは別として、普段は雑穀が主食だったのです。
長子単独相続は、日本古来の伝統でも何でもなく、江戸時代の中期以降たまたま経済の発展関係から、国民全部ではなくその一部でしかない武士などの特定身分関係で必要に応じて出来上がったにすぎない点に注意すべきです。
伝統或いは制度と言うものは、そのときそのときの必要性に応じて出来ただけのものが多いのですから、時代が変わった場合には、その制度由来を考え直すのが合理的な態度でしょう。
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