02/02/04

吉宗以降の幕府4(政府役割の確立)

また話が横へ行きましたが、吉宗以後とその前とでは、政府の在り方が大きく変わってきました。
吉宗以降は、政府の仕事として、享保の改革、寛政の改革、天保の改革など経済政策が正面に出てくるようになりました。
これに対し、それ以前の政権は、武断政治か文治政治かの方向付け程度の変化はありますが、政治の目的としては、どちらかと言うと古代以来の権力者が地位を保全する為の政治が中心でした。
平清盛、足利義満の重商主義的政策や信長の楽市楽座などもありましたが、これらはどちらかと言うと、自分の資金確保が主目的のようで、国家的目配りによるとはいえないようです。
ましてそれ以外の政権では、飢饉や災害があればそれなりの対応はしていますが、目的的な経済政策とまで行かず、経済や社会の発展に関しては、成り行き任せという印象が強いのです。
江戸時代に戻しますと、松平定信に厳しく批判されたので、歴史上は改革とは言われませんが、田沼政治も政策の正面に経済政策を据えていた点は、吉宗の流れを受け継ぐものでした。
田沼は、以前のコラムで紹介しましたように吉宗の側近として頭角をあらわしたものですから、経済に関心があったのは当然でしょう。
ただし、彼だけは積極経済政策でしたので、明治以降の官僚機構にとっては好ましくなかったらしく、必要以上に抹殺されています。
官僚と言うものは、今でも積極経済政策には基本的な反感を持っていて、質素倹約が好きなように思いますが、皆さんはそう思いませんか?
現在の経済政策として、増税して公共工事を増やすのに賛成しているものではありませんが、官僚の性癖を言っているだけです。
江戸時代の3大改革と言われるものは、いづれも質素倹約がテーマでしたから、そこから生まれた官僚機構は、生まれつき質素倹約が身に沁みこんでいるともいえるでしょう。
ただ、そうした生い立ちだけで質素倹約精神になっているのではなく、どちらかと言えば創造性とは相反する精神構造の人が、質素倹約を好むと言えるでしょうから、既成路線の延長を好む役人には、特に馴染みがいいのではないでしょうか?
官僚の性癖は別として、徳川吉宗は、官僚機構の創立者と言うだけでなく、現在の「あるべき政府」の原型(政府は経済を良くする義務=経世済民)を作った世界最初の君主ではないかと思います。
勿論、現在の政治家は、自分の政権維持のために一所懸命頑張っているに過ぎないのは真実としても、表向きは国民の為に頑張っていると主張しています。
この点、吉宗は、表向きにも、国民の為の経済政策を考えたのではなく、武士階級、幕府存続維持のために経済政策を考えたに過ぎない点で限界はあります。
しかし、ここまで来ると現在の政治との違いは大義名分だけであって、殆ど同じ目的内容になったのです。
大義名分まで、国民の為の政府となるのは、リンカーン大統領が南北戦争中の1863年11月に激戦地ゲチスバーグでした有名な演説まで待たねばなりません。
「that government of the people, by the people, for the people shall not perish from the earth.」
「人民の、人民による、人民の為の政府」と言う名文句です。
これは激戦地で、戦いを有利にする為の演説ですから、本心とは限りません。
現在で言えば、選挙公約で「改革しますと言うだけ」と批判されている小泉さんと殆ど同じでしょう。
これに対して日本では、明治維新(1868年)で、活躍した桂小五郎・木戸孝允の漢詩に、うろ覚えですが、
    「一穂の寒燈、眼(まなこ)を照らして明かなり  沈思黙座すれば無限の情」
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    「邦家の前路容易ならず 三千余万蒼生を奈何すべき」
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と言うのがあります。
彼は演説しませんでしたので、リンカーンのように高校生の暗記必須文になる程有名ではありませんが、3千万人(当時はこの程度の人口でした)の蒼生=青ひとくさ(民草・たみくさ)を如何にすべき?とランプ一つの暗闇で、じっと1人で芯から悩んでいるのです。
大義名分のためや口先だけではありません。
これが、リンカーンと殆ど同時期ですから、日本人はえらいよ!


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