01/17/05

事実の錯誤、法律の錯誤2(刑法21)服部君の場合

事実の思い違いか、法律思い違いかの区別は、アメリカのハローゥインで訪問した服部君を、強盗と間違えて射殺した例や、後に紹介するチャタレイ夫人の恋人の事件で問題になった「猥褻かどうかの判断の誤り」などになってくると、次第に微妙になってきます。
強盗に対して正当防衛が許されるのはご存知だと思いますが、正当防衛が許されない場合・例えば生命保険の勧誘員に対しても、気に入らなければ包丁で切りつけてもいいと思い込んでいた場合は、法律の錯誤ですから傷害罪ないし殺人罪になります。
しかし強盗から身を守るのは許されていると思っていて、(そこまでは正しいのです)その前提である強盗かどうかの判断・事実認識を誤った結果であれば、事実の錯誤になるか?と言うもので、少しづつ複雑になってきます。
人と熊を間違えた場合は、もろに殺人の故意を阻却しますが、強盗かどうかの間違いは、人を殺す意思はあったのですから、殺人の故意は阻却しません。
問題になっているのは、正当防衛が許される場合かどうかの法的判断の誤りなのです。
強盗かハローゥインの客かを間違ったのは、その判断の前提事実でしかないのですから、間接事実です。
事実の錯誤であっても、その錯誤に過失があるかどうかも問題になります。
その過失が大きい場合、そもそもそういう思い違いをしたと言う主張自体認められないこともあります。
また、客観的な事実認識は同じでも、それを人によっては、強盗と思う場合と、そこまでは考えない場合の2通りあるでしょう。
この評価の誤りの場合は、後のチャタレイ事件で問題になった猥褻概念の思い違いと同じ問題になります。
服部君の事件では、アメリカで無罪になったようですから、多分事実の錯誤と認定されたのでしょう。(判決内容は知りませんので、想像です。)
チャタレイ事件の最高裁判断では、(猥褻物頒布が許されないのは知っていたが、これは猥褻物ではないと思っていた場合です。)猥褻かどうかの判断ミスは、法律の錯誤であるとして有罪とされています。
このように、実際には微妙な事件が一杯ありますので、事実認識の誤りか法律解釈の誤りかの区別は結構難しいものなのです。
学生が必ず勉強する有名な判例が2つありますので、ここでは紹介だけしておき、詳しい話はまた別の機会にすることにしましょう。
一つは、モマとムササビの事件です。
ある地方でむささびのことをモマと俗称していたところ、狩猟法(現在は鳥獣保護法)でむささびが狩猟禁止になっていたのですが、その土地の猟師は、法律は知っていたものの、自分ところにいるモマは、別物と思って狩猟して事件になったのです。
マスコミの発達した現在でも、植物名その他いろいろな分野で地域によっては別の呼称があるものです。
大審院は(大正13年4月25日)これは事実の錯誤ではなく、法律の錯誤に外ならないとして有罪にしました。
翌大正14年6月9日同じく大審院は、ある地方で狸をむじなと呼ぶ場合、狩猟法で狸の狩猟が禁止されているとしても、その猟師は狸とは別物のむじなと思ってやったことだから、事実の錯誤で無罪だとしたのです。
この2つの有名判例、モマとムジナを見ていると、法律の錯誤と事実の錯誤の区別基準は何がなんだかわからなくなるのが普通です。
ともかく、こうして有罪無罪の分かれ目は難しいのです。



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