01/18/04
天智天皇と大海人の皇子(額田王)
中国での異性関係を紹介しましたが、わが国でも律令時代に似たことが起きています。
天智天皇と大海人の皇子(後の天武天皇)と額田王の関係です。
額田の王(おおきみ)と大海人の皇子の間には、十市の皇女(ひめみこ)が既に生まれていて、大友皇子の妻になっていました。
この、大友の皇子は、父天智天皇死亡後に、壬申の乱で大海人の皇子に負けて死んでしまう悲劇の皇子です。(明治新政府によって初めて弘文天皇と追贈されたのです。・・・歴史は長いよ〜)
この乱で勝った大海人の皇子は、天武天皇となり、その妻は、持統天皇となります。
人間関係の紹介はこれくらいにして、額田王(おおきみ)に戻りますと、額田王は大海人の皇子の兄(真実は違うとも言いますが)である天智天皇に召されて後宮に入ったと言われています。
兄が弟の妻を奪ってしまった例です。
そして、以下の万葉集所収の歌です。
「あかね(茜)さす、紫野行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖振る」
天智天皇の主宰した狩( すめらみこと(天皇)みかり(遊猟)したまひしときに)の際に、大海人の皇子は、紫野や狩猟場(標野)であちこち行き来しながら、天智天皇のきさきになった額田王を遠く見かけて袖(昔は袖は何かと役立っているのです。袖の下に始まって、仙女の仙袂・・柿本人麻呂の、「うね女の袖吹き返す飛鳥風 都をとおみいたずらに吹く」・・など大きな?小道具でした)を振り回して合図をし続けているのです。
これを見た額田王が、野守・・御狩場の管理人即ち天智天皇が見てるじゃないの!と心配して歌った歌です。
心情描写として優れているばかりか、色彩的にも、綺麗ですね。
これに対し、大海人の皇子は次のように返歌しています。
「紫のにほえる妹を 憎く有らば 人妻ゆえに われ恋ひめやも」
紫のように美しいあなたが好きでなければ、人妻と知りつつ どうしてあなたに心ひかれたりしようか
なんとも視覚的に美しい情景と心打たれる良い歌ですので、万葉集の中でも多くの人に愛されている一連の歌です。
行動もおおらかですし、さらに、こうした秘め事で在るべき歌が公表されて、衆人環視の中で双方がうたっているところからみると、天智天皇が本当に奪ったのかどうか、単に自由恋愛の結果だったのかハッキリしません。
このときの歌ではありませんが、天智天皇の歌も紹介しておきましょう。
「香具山は畝傍をお(愛)しと耳成しと あひ(相)あらそひき 神代より かくにあるらし いにしへも しかにあれこそ うつせみも 妻をあらそふらしき・・・・・」
大和三山はご存知と思いますが、念のため紹介しておきますと、この歌にあるように、先ず持統天皇の歌で有名な「春過ぎて夏来たるらし白妙の衣干したり天(あめ)の香具山」と言われる香具山、ついで、畝傍(うねびと読みます)山があり、ここには、神武天皇を祭ったかし原神宮があります。
三つ目は、耳成(みみなし)山と言います。
天智天皇も歌われっ放しではなく、大和三山を引き合いに出して、「神代の昔から香具山は、耳成山との間で、畝傍山を(女性と見立てて)いとしいと相争っている。」と言い訳がましく?歌っているのです。
ところで額田王は、万葉時代の傑出した女流歌人の1人といえるでしょう。
こうした歌の存在を見ると、玄宗皇帝のように、一方的に奪ったのではなく、額田王と言う傑出した自由な女性がいて、額田王が自主的に天智天皇を選んだ可能性があると思いたくなるわけです。
玄宗皇帝の場合、名前は忘れましたが、王族の1人が笛を吹いているのを、楊貴妃がじっと聞いていただけで、御咎めを受けて一時処罰・ひまを出されたことまであります。
それに引き換えわが国では、天智天皇の妻になったと言っても、こうした恋愛の歌が、おおらかに、おおっぴらに歌われていたのですから、日本の性道徳の健全さが窺われるのです。
なお、長恨歌では事実に反して、「深閨に養われて在れば 人未だ知らず」と開きなおっていますが、万葉集では、大海人の皇子は(本来自分の妻なのに)「人妻故に・・・・・・」とへりくだっているところは、どこか似ていますね。
ただし、後に壬申の乱につながって行くのですから、本当のところ、天智天皇と大海人の皇子の政治的な葛藤は、窺い知ることはできません。
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